日本の上場企業約3700社の情報誌「会社四季報」
◆投資家に限らず、ビジネスパーソン最大の武器「会社四季報」
本連載の主要テーマである「会社四季報」ですが、企業情報ハンドブックとして高い評価を得ている四季報は、顧客に投資を勧める証券マンだった私にとっては必携の1冊です。これは、日本の上場企業約3700社をすべて掲載した約2000ページ以上にもおよぶ分厚い上場企業に関する情報誌として、3ヵ月に1回の割合で、東洋経済新報社から発行されています。
「株式投資のバイブル」として広く活用されている四季報には新春号、春号、夏号、秋号とありますが、それぞれ表紙の色が違っています。新春号はおめでたいレッド、春号は新緑のグリーン、夏号は空や海のブルー、秋号は紅葉のオレンジという基調の色使いになっています。
日本は、四季が美しい国です。私が「複眼経済塾」を創業したのは、この美しい日本を投資で支える「自立した投資家」を育成し、支援したいといった思いがあったからです。こうした思いが広がっていくと日本企業への直接投資が促され、「貯蓄から投資への社会」が実現して、日本企業および美しい日本の末永い安定と繁栄につながっていくと信じています。
つまり、四季報の活用法(ウラ読み術)を通じて、自立した投資家を増やすための啓蒙、支援、サポートをする、いわば教習所のような役割として「複眼経済塾」を主宰しています。私の役割は、四季報を含めた「三種の神器」を通じて、あくまでも運転をあなた自身にしていただくことです。そして、いつしか投資のプロフェッショナルになっていただくことです。
だからこそ、四季報読破のノウハウを健全な投資循環が生まれる社会づくりのために広く提供していきたいと考え、私のノウハウを開陳するのが、本連載の役割の1つでもあります。
ということで、もう少し四季報についての概要に触れさせてください。四季報は1936年(昭和11年)に創刊され、80年以上の歴史があります。株式投資に関わる仕事をしている私は、四季報を1998年の新春号(1997年12月発売)から、それ以降の全号を端から端まですべて読み込む「会社四季報読破」という分析手法を開発しています。
そのため、これまで約20年以上にわたって四季報を読破してきました。この本が出版されている最新の2018年秋号で、84冊目を読破したことになります(書籍『「会社四季報」最強のウラ読み術』刊行当時)。その読破には、没頭するためにいつも2、3日は自宅に引きこもって読むことにしています。
四季報はその名の通り、春分、夏至、秋分、冬至など四季の節目の直前に発売されています。ですから、3月、9月、12月の連休と重なることが少なくありません。私にとって、こうした連休を使ってのんびり旅行に出かけるなどは夢の話です。しばらくは、このまま四季報と付き合うことになりそうです。
1冊の四季報を読破するということは、表紙から編集後記まで総計約2000ページ以上をすべて読み込むことです。もちろん、コメントやチャート、データも残さずにすべて読み込むことが前提です。1冊当たりに掲載された数字やデータを含めて、文字概算で推計350万~400万字ほどあります。これを84冊すべて読破したということは、総計で約16万ページ、文字数にして推計で約2億7000万文字を読み込んだということになります。
この読破に費やす時間は、100ページで約1時間かかるとして2000ページとなると約20時間もかかります。こうした読破の実践によって、私が会社の事務所に置いている四季報は背表紙が大きく反り返っています(下記写真)。もちろん読破後、その内容をまとめて個人投資家や機関投資家などに情報を提供しています。
「投資家の思い」に応え続け、創刊開始から80年を突破
◆世界に類を見ない上場企業の情報誌の3つの強み
四季報の強みには「継続性」「網羅性」「先見性」の3つがあります。
まず継続性ですが、1936年(昭和11年)創刊の四季報は、2016年夏号で創刊80周年を迎えています。一般的な情報誌で創刊から80年以上も続いているものは、私の知る限りではJTBの時刻表(創刊から90年以上)くらいしか思いつきません。
上場企業に関する情報誌に継続性があると、個別の企業について歴史をたどることができます。企業の過去を知ることで今の姿も見えてきますし、将来像も推し量ることができます。
世界的に見ても、全上場企業を網羅した情報誌は日本にしかありません。これまで日本経済新聞社の「日経会社情報」がありましたが、2017年の春号で休刊になりましたので、四季報が世界で唯一のものとなりました。
また、企業情報誌として「会社四季報」と「日経会社情報」の最大の違いは、前者には記載されている来期予想が後者にはなかったことです。その違いは、読者に「前者にはあるのに、なぜ後者にはないの?」と「便利さ」の違いを覚えさせます。
四季報のような情報誌は、おそらく損得勘定を重視する海外(主に西欧)の出版社では刊行できないでしょう。これは、投資家のために損得勘定を抜きにした日本人の仕事に対する丁寧さの成せる業だと思います。つまり、株式投資のバイブルとして広く活用されている四季報は、投資家の思いを乗せて刊行され続けているのです。そして創刊号の「本書発刊に就いて」には、こう書かれています。
「『会社四季報』を今後続巻することにした。世上類書は二、三に止まらぬが、ここに敢えて又一書を加えんとするには勿論それだけの理由がある……」
「本書発刊に就いて」に書かれた四季報創刊の意図や目的を要約すると、以下のような内容になっています。
●生きた会社要覧を提供する。
●会社は生き物だから、これを投資の対象として見る場合、その日々刻々の息吹きを知る必要がある。
●年に1回の会社要覧の類では不十分である。
●そこで、もっと頻繁(3ヵ月ごと)に刊行する四季報を作ることにした。
●刊行者の願いは「ますます便利に」ということである。
●よい方法は、利用者(読者)との共同編集のもとに改善していくことである。
この姿勢は、今でも脈々と引き継がれています。ですから、四季報を読み込むことで、その企業の未来像を先読みすることができるようになっていくのです。東洋経済新報社には、もともと「会社案内的なもの」があったようですが、「生きた会社要覧を提供する」ために四季報を刊行したと言います。
企業は生き物と呼ばれることがありますが、それは「法人格」という人格があるからです。四季報に掲載された各企業に投資する価値があるかどうかを判断する場合、法人格という人格がある、その企業の日々刻々と変わっていく「体調」や「性格」といった生気や活気を知る必要があります。
四季報の発刊当時、日本には上場企業が300~400社はあったはずで、そのすべての上場企業の四季報を刊行しようとした試みは素晴らしいものでした。
戦前戦後に合わせて3年間ほど休刊期間がありましたが、戦時中は刊行され続けていました。実際に、「日本軍は南方の戦線で勝ち進んでいるので、トヨタも設備投資が必要だろう」といったことが書かれています。戦後になると、株式市場が再開されたあとは途切れることなく刊行されています。
また、四季報の発行を3ヵ月ごとの年4回にしたのも、生き物である企業が経済環境の中で日々変化している姿を読者である投資家に提供する必要性があったからです。同社が当時、こうした発想を四半期決算が導入される前に持ったことは驚嘆に値します。しかも、四季折々のタイミングで刊行するためにタイトルに「四季」を入れているところが日本人ならではと感心します。
最後に、四季報は「ますます便利に」というのが創刊者の願いでしたが、「利用者(読者)との共同編集のもとに改善していくことである」という読者目線を大事にする思いは今でも立派に受け継がれています。
◆私が四季報を読破するきっかけ
私の「会社四季報」読破歴は、2018年秋号で21年目に突入して合計84冊になりました(書籍『「会社四季報」最強のウラ読み術』刊行当時)。21年目ということは、毎号を丸ごと21年間にわたって読破してきたことになります。そのうえで、実際の株式相場を見てきたわけです。
この四季報読破は、実は私の思いつきではありません。始めたのは1997年、当時在籍していた野村證券の上司から「『会社四季報』を全部読め」と指導されたのがきっかけでした。その方は、実は野村證券時代の上司、竜沢俊彦さんです。竜沢さんは、仕事に厳しい人物として社内でも有名な人でした。そんな彼が、ある顧客からこう問われたと言います。
「あなたは、私が愛読している『会社四季報』を読んでいますか?」竜沢さんは、顧客の言葉にハッとしたと言います。──自分は株式投資を顧客に勧めているというのに、顧客が読んでいる「会社四季報」を読んだことがない……。
当時、竜沢さんは課長になったばかりで、何ごとにも〝熱い時期〟でした。そして、部下にも四季報を読破させようと思ったのです。その頃の私は、竜沢さんが率いるエクイティチームの一員でした。
当時の野村證券は厳しい社風で、返事は「はい」か「Yes」しかないと指導されていました。返事が「どちらも同じ意味でしょう」などと突っ込もうとしても、さらに「走りながら考えろ」などと発破をかけられます。だから条件反射で「はい、わかりました」と、何でもすぐに行動することが習慣になっていました。
私は四季報読破を命じられて「まいったな」と思いながらも、一方でこの指令を素直に受け入れる気持ちがありました。それは長崎支店時代、相場も酷(ひど)かったこともあるのですが、顧客に推奨していた銘柄の株価がほとんど下落し、大損をさせていたからです。
それでも顧客から売買手数料をもらい、東京へ〝栄転のような形で〟転勤していくことに心を痛めていました。そのとき痛感したのが、上場企業についての自分の勉強不足でした。
当時、四季報に掲載されている企業で詳しく知っていたのは、本で読んだことがあったソフトバンクグループ(9984)くらいでした。それ以外の会社については、ほとんど何も知らないといったあり様だったのです。
それなのに何でも知ったような顔をして日頃、顧客に推奨銘柄を買ってもらい、最終的に損をさせて迷惑をかけていました。その反省もあり、上司から四季報の読破を指令されたとき「ええーっ」と驚きを隠せない一方で、「勉強不足を補うためには、ぜひとも読破しなくては」という気持ちもあったのです。
こうした流れの中で、私の四季報読破のミッションが始まりました。しかし、四季報を読破するといっても、最初は読破の進め方がまったくわかりませんでした。そこで、私が読破を始めた第一歩からお話しします。四季報に慣れ親しんでいただき、その後しっかりと活用できるよう解説します。
渡部 清二
複眼経済塾 代表取締役塾長