会社四季報を読む前に作るべき「指標ノート」
四季報は、私が仕事で日頃使っている「三種の神器」と呼んでいるものの1つです。残りの2つは「指標ノート」「新聞記事の切り抜き」で、私にとってはなくてはならない存在です。この「三種の神器」は、誰でも簡単に利用できるもので、この3つの活用次第では、株式投資においても有効な武器となります。本記事では、「指標ノート」「新聞記事の切り抜き」2つの神器について簡単に触れておきます。
まず指標ノートですが、私は毎日、手書きの指標ノートに「日経平均」「TOPIX」「JASDAQ」「日本国債10年物」「NYダウ平均」「S&P500」「NASDAQ」「米国金利」「NY為替」「WTIの平均株価」の数字をノートに書き込んでいます[図表]。
毎日、数字を書き込むのは、日頃から数字の感覚をきちんと身につけておくためです。そして、指標ノートに記載するとき、パソコンを使わずに筆記具で書き込むことを大切にしています。
つまり、手書きで指標ノートを作成することが大事です。その際、書き込む数字そのものには、実はあまり意味がありません。今の時代、こうしたデータはネットから一発でダウンロードすることができます。しかし、筆記用具で書き込めばコピペ(コピー&ペースト)ができません。だから、数字を肌感覚にまで落とし込むためにも手書きというアナログ的な手法が大切という考え方から行っています。
さらに、ノートの右端の欄に気になったキーワードや短いコメントを記します。たとえば、その日に印象に残ったこととして、「福井で37年ぶりの豪雪」「東京都心マイナス4度と48年ぶりの寒さ」「コインチェックNEM流出事件発生」などと書き込んでいます。
なぜ、こうしたコメントを書いておくかというと、あとで読み返したとき、個々のコメントの間につながりがあることが見えてくるからです。
たとえば、2018年2月6日の欄には、「福井で37年ぶりの豪雪」と書き込んでいますが、この日、福井県福井市が37年ぶりの豪雪に見舞われました。37年ぶりのことが起きるということは、さまざまな影響が出ていたはずです。
実際に、福井県では物流が止まりました。ドラッグストアを展開する「ゲンキー」という会社は同県に本社があり、県内でも店舗展開していますが、もし店舗が閉ざされ業績が悪化するとの懸念で株価が下落すれば、そこはチャンスで、なぜなら影響は一時的だからです。つまり、指標ノートに書き記した短いコメントがこうした「連想」につながっていきます。
2018年1月下旬、アメリカ東部は航空機が約4000便も欠航するような大寒波に襲われました。日本でも関東で4年ぶりの大雪、東京都心部で48年ぶりの寒波に見舞われました。地球環境は、まさに世界的な「異常気象」といった状況です。
こうした流れで世の中の動きを想像してみると、寒波での積雪と道路の凍結に備えて車のタイヤをスタッドレスにする人がたくさん出てくるはずです。日本では実際、ホームセンターでタイヤチェーンが売り切れるところもあったと言います。
また、同年1月26日、日経平均が大きく値を下げました。これには、コインチェックのNEM流出事件が影響していたと思われます。被害の大きさは、日本円で約580億円という仮想通貨史上最高額の盗難事件でした。
今後、さらに仮想通貨絡みの大きな事件があると平均株価が暴落し、リーマンショックと同様に〝仮想通貨バブル〟と呼ばれて歴史に名を残すかもしれません。
このように、自然現象や経済活動には、ある種の「サイクル」があります。そして、これらがいろいろと株価にもリンクしてくるのです。そうしたつながりを肌で感じ取るのに、指標ノートが役に立つということです。
そして、こうした連想からそれぞれの企業への影響を考えていく際に、実際には四季報へと落とし込んでいきます。
「日経新聞」と「東京新聞」の記事を切り抜きする理由
私が四季報を見る際に、三種の神器としてもう1つやっていることがあります。それは新聞記事の切り抜きです。私が日頃切り抜いているのは「日本経済新聞」と「東京新聞」です。「日本経済新聞」の切り抜きはもちろんですが、「東京新聞」にはかなり面白い情報が載っています。
その理由は、同じテーマでも「東京新聞」だけ違う視点から記事を書いていることが多いからです。実際に、指標ノートや四季報を活用するときでも、こうした独自の視点が大事になってきます。
たとえば、ペットボトルを相手に渡して、「ペットボトル以外に、何に見えますか?」と質問したとします。すると、これを横にして見た人は「ロケットに見える」と答えます。しかし同じペットボトルでも、これを底から見た人は「丸なので満月」と回答します。
こうした違いは新聞記事にもあり、同じ出来事を扱っていても「日本経済新聞」と「東京新聞」の記事の内容が違っているのは、見ている視点が違っているだけのことです。だから新聞を読むときは、こうした記事を1つの視点だと思ってどう活用していくかということが大事なのです。
私は以前勤めていた野村證券時代、所属していた部署で毎朝のように行われていた「日経新聞・読み合わせ会議」という伝統的な「日課」を経験しました。
参加するメンバーは毎朝4時には起床し、「日本経済新聞」の読み込みを始めます。その際、読む範囲は1面トップ、経済教室、社会面、私の履歴書まで幅広いものでした。そして、午前6時40分に現場でスタートする新聞読み合わせ会議では、しっかり考えを整理して臨んでいました。
こうした読み合わせ会議では、進行役の先輩社員が「日本経済新聞」の1面トップ記事からページごとにアトランダムにメンバーを指名していきます。指名された部員には、進行役から記事に関する容赦ない突っ込んだ質問が浴びせられます。
各部員は非常に高い緊張感の中で、質問されると即座に記事の要点を述べなければなりません。また、それに関連する事柄、背景にある経済指標の動向、そこから連想される将来のシナリオにまで言及し、関連する企業を的確に選び出す必要があります。
まさに読解力だけでなく、想像力や展開力、素早いストーリーの構成力などが試される真剣勝負の「日課」でした。「日本経済新聞」の読み合わせで大事なポイントは、以下のようなことでした。
●1面トップの記事を最初に取り上げる(住んでいる地域によって記事の内容が違っている場合がある)。
●記事について、まず「何が書いてあるか」を理解する(その記事が正しい、正しくないという議論はここではしない)。
●その記事の背景は何かを文中から探す(なるべく短い言葉としてとらえる)。
●文中や表に出てくる数字を把握する(とくにマーケット規模などは重要)。
●記事を理解したら、その記事に対して「自分の考え」をまとめる。
●質問された場合は「簡潔」に答える(15秒を目途)。
●わからない記事や新聞に出ていない大事な数字などはその日のうちに調べる。
こうしたことを継続する効果は、次のようなことです。
●業務に取り組む前に新聞の内容が整理されている(顧客と会話ができる)。
●物事を関連づけて考えるクセがつく(エクイティ・ストーリーの構成能力)。
●相手に簡潔な言葉で物事を伝える能力が身につく(伝える力)。
●面白いテーマや銘柄を見つけられる(銘柄ピックアップの能力)。
現在私は、この「日経新聞・読み合わせ会議」で体験したエッセンスを集約し、誰でも新聞が活用できるように独自に再編したワークショップを開いています(新聞の読み方については、総合法令出版から『日経新聞マジ読み投資術』が出版されていますので参考にしてみてください)。
このように、「日本経済新聞」を真剣なレベルで読み込むことができるようになると、さまざまなビジネスシーンで現在の社会情勢を読み通し、将来を展望したストーリーを描けるようになります。
そして、人よりも一歩先んじた言動が取れるようになっていくのです。ちなみに、こうした新聞記事の読み込みは、もちろん投資を行ううえでは欠かせませんが、投資をしていない人(またはしようと思っている人)でも、次のような活用法があります。
●新聞記事のネタを営業トークに活かしたい人。
●人より一歩先をいく経済シナリオや業界シナリオを知りたい人。
●会社経営のための景気や社会情勢の先行きを学びたい人。
●メディアが語らない記事の行間や背景を探る能力を高めたい人。
●経済用語の基本や、その使い方・分析方法を知りたい人。
新聞記事を行間まで読み込むには、目について気になった記事を切り抜いてストックすることをお勧めます。そして、切り抜きから養った独自の視点が、四季報のウラ読み術においおい役に立っていきます。
渡部 清二
複眼経済塾 代表取締役塾長