相続税をちょっとでも少なくしようと思い、一生懸命に生前贈与をする方はたくさんいます。しかし、残念なことに、3年経過しないと節税の効果は一切でてこないのです。今回は、生前贈与の3年内加算のルールについてと、この制度への対策を紹介していきます。

生前贈与から3年以内に、贈与した方が亡くなったら…

そもそも3年内加算とはどのような制度でしょうか? 事例を使って解説していきましょう。

 

たとえば、ここに甲さんという方がいたとします。この甲さんは平成27年の時点で財産が1億円あります。「このままだと将来、相続税がかかってしまうなあ」と思い、子どもに対して生前贈与をしようと考えました。まずは、平成27年に子供に対して300万円の生前贈与を行いました。非課税となるのは110万円ですので、300万円に対して贈与税が課税されます。この場合の贈与税は19万円です。お金をもらった子どもは、しっかりと贈与税の申告をして贈与税も支払いました。そして、同じことを平成28年、平成29年と順調に繰り返していきました。

 

しかし、残念なことに、平成30年6月25日に、甲さんは亡くなってしまいます。もともと1億円持っていた甲さん。生前贈与で300万円ずつ財産が減っているので、亡くなった時にいくら手元に残っているかというと、9100万円が手元に残っていました。

 

[図表1]1億円の財産から、毎年300万円を贈与してきたが……
[図表1]1億円の財産から、毎年300万円を贈与してきたが……

 

残された家族は「元々1億円あった財産が9000万円まで少なくできたなら、少しは相続税の対策になったのかしらね」と思っていました。しかし、残念なことに、ここで出てくるのが、3年内加算のルールです。このルールは、亡くなってしまった日(平成30年6月25日)を起点として遡ること過去3年間、この間に行われた生前贈与で渡した財産については、亡くなった時の財産に足し戻して相続税を計算しなければいけないのです。つまり、この甲さんの場合には、結局1億円に対して相続税が課税されてしまうのです。

 

勘の鋭い方だとここで疑問に思うことがでてくると思います。

 

「1億円に対して相続税が課税されるなら、300万円に対して課税された贈与税19万円はどうなっちゃうんだ? また税金をかけるなんて2重課税じゃないか」

 

一度課税された財産に、もう一度税金を課税するのは2重課税といって、あってはならないことです。そこで、このような場合には、一度1億円から相続税を計算した後に、既に支払いが終わっている贈与税を、相続税から差し引いて最終的に納税をしてもらうことになります。この取扱いがあるため、税金が2重で取られるということはありません。つまり、贈与をして損するということはないのです。

 

[図表2]贈与から3年以内に贈与した側が亡くなったら……
[図表2]贈与から3年以内に贈与した側が亡くなったら……

 

ただ、ここで重要なポイントは、亡くなる前3年以内に行われた生前贈与はなかったことにされてしまうということです。また、この事例では300万円という金額で解説をしましたが、この制度は、110万円以内の贈与にも適用されます。贈与税の申告をしているかどうかは関係ありません。3年以内のものは戻されてしまうのです。

 

この制度は、元々、相続税を少なくすることだけを目的として、亡くなる直前に駆け込みで生前贈与をすることを防ぐ目的で導入されました。生前贈与をするのであれば、元気な時に早い内から始めるのが重要なんです。

「孫への贈与」は、3年内加算のルール適用外!?

実はこの3年内加算のルールは、誰に対しても適用されるわけではありません。適用される人は限定されています。誰が、この制度の適用を受けてしまうかというと将来、相続人になる人への生前贈与です。

 

[図表3]誰に贈与すれば3年以内加算ルールは適用外になるのか?
[図表3]誰に贈与すれば3年以内加算ルールは適用外になるのか?

 

たとえば、この方が亡くなった時の相続人は誰かというと妻と子どもの2人です。この人たちに対して行われる生前贈与は3年経たないと意味がないのです。そこで出てくるのが孫の存在です。孫というのは、祖父からすると相続人には該当しません。この孫に対する生前贈与は、原則として3年内加算の対象にはならないのです。

 

本当に極端な話をすると、亡くなる1日前に孫に110万円を贈与した場合には、その110万円には税金はかからないのです。新聞や雑誌なんかで「孫への贈与は有利!」と見たことがある人も多いのではないでしょうか? 孫への贈与が有利な理由は、この3年内加算のルールに該当しないからなんです。

 

また、このことは孫だけではなく、子どもの配偶者にも同じことがいえます。子どもの配偶者への生前贈与も、原則として3年内加算の対象となりません。

 

ただ、子どもの配偶者に生前贈与をして、もしその後に子どもが離婚した場合には、そのお金は返ってきません。そのことから、子どもの配偶者に贈与をすることは、心理的に違和感をもつ人が多いのも事実です (贈与はするけど離婚したら返せ、ということは法律上できないので)。

 

また例外的に、孫への贈与であっても3年内加算のルールに引っかかることが2つあります。

 

まず1つ目は、遺言書がある場合です。どういった遺言書かというと、「私が死んだ時には、孫にも財産残します」という内容の遺言書です。こういった遺言書がある場合には、その孫は相続人と同じように3年内加算の対象となります。

 

2つ目は、生命保険がある場合です。どういった生命保険かというと、「私が死んだ時には、孫に保険金がでます」という内容の生命保険です。こういった生命保険がある場合には、そのお孫さんは相続人と同じように3年内加算の対象となります。

 

ちなみにですが、相続人ではない孫が受取人である生命保険は、生命保険の非課税枠(500万円×相続人の人数)の適用はありません。これ、プロの生命保険会社の人でも非常によく間違えるので注意してください。

 

また、住宅資金や教育資金贈与の特例を使って渡した財産については、3年内加算の対象となりません。ちなみに相続時精算課税制度を使っている場合には、3年どころではなく、何十年でも遡って加算の対象となります。

 

 まとめ 

相続で財産をもらう人への生前贈与は3年経たないと効果はでてきません。駆け込みの生前贈与で税金を何とかすることはできないので、贈与をするのであれば、初めから元気なうちに始めることが大切です。

 

なお、生前贈与は、その人が認知症になってしまったらすることができなくなります。相続税の対策よりも緊急度、重要度が高いのは、認知症対策なのです。

 

また、110万円を超える贈与をして贈与税を払うのは、とてももったいないと考えている人が多いのですが、実は将来的に相続税が課税される人にとっては、贈与税を払ってでも、多くの財産を生前贈与した方が、最終的には得をします。

 

 

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