注目されたG20大阪サミット(6月28日-29日)では米中貿易協議の再開方針が示され、さらにはFRBの利下げ期待が同時に高まったことが米国株式市場の上昇要因となりました。しかし、楽観的な見通しを示す米国株式市場とは異なり、米国債市場では依然として長短金利が逆転したままの状態であり、市場によって乖離が生じています。
流動性相場が株高をもたらす
大阪で開催された20カ国・地域首脳会議(以下G20)において米中貿易協議の再開方針が示されたことや、ファーウェイに対する規制緩和、さらにはFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測の高まりによって流動性相場が同時に生じたことが、足元で米国株式市場が上昇した要因です。
しかし、ここで重要なのはそもそも利下げ観測が高まった背景だと思います。G20では米中貿易協議の再開方針が示されたものの、発動された追加関税は維持されたままでした。つまり、景気に対する下振れ圧力が継続する中で、尚且つFRBのハト派スタンスが確認されたことが利下げ観測につながったと解釈されます。
米中貿易協議が決裂した今年5月以降、景気後退シグナルとされる米国債の長短金利(10年-3ヵ月)の逆転が継続中であることとも整合的です。それにもかかわらず、S&P500指数はG20以降に最高値を更新する展開になっており、2つの市場に乖離が生じているのです。
![[図表1]S&P500指数と米国国債長短金利差 日次、期間:2019年4月30日~2019年7月8日と米国国債長短金利差 ※米国国債長短金利差は米国10年国債利回りと米国財務省証券3ヵ月物利回りとの差 ※S&P500指数は米ドル建て、配当無し 出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/500/img_f30a5249f4562825d7fa06b9a0de795554786.jpg)
日次、期間:2019年4月30日~2019年7月8日と米国国債長短金利差
※米国国債長短金利差は米国10年国債利回りと米国財務省証券3ヵ月物利回りとの差
※S&P500指数は米ドル建て、配当無し
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成
そもそも何故、米国債市場と米国株式市場に乖離が生じるのか?
これらの乖離は、各市場における市場参加者の投資期間の違いにあると考えます。一般的に、米国債市場の市場参加者は比較的長期の材料を重視する一方、米国株式の市場参加者は比較的短期の材料を重視する傾向があります。
今回のケースでは、米国債市場が長期的な景気見通しを材料に逆イールド化を進めた一方、米国株式市場は今年7-9月の利下げ観測を材料に株高を進めたということになります。
![[図表2]2.00-2.25%の利下げ確率(2019年7月FOMC時点) 日次、単位:%、期間:2019年4月30日~2019年7月8日※FOMC(米連邦公開市場委員会) 出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/c/d/500/img_cd9f37842fd2e897337909743a0eb5cb25947.jpg)
日次、単位:%、期間:2019年4月30日~2019年7月8日※FOMC(米連邦公開市場委員会)
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ投信投資顧問作成
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しかし、仮に米国債市場の見通しが正しいと仮定するならば、米国株式市場も長期的には景気悪化が織り込まれるかたちで逆風が吹くことになります。そのため、米国株式市場はチキンレース化(※長期的には景気悪化による株安が想定されるものの、短期的な流動性相場による株高に期待する投資行動が広がること)の様相を呈してきたと言えるわけです。
長期投資を重視する投資家であれば、米国株式に対しては引き続き慎重な投資スタンスでのぞむ必要があると考えます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国株式投資戦略 チキンレース化する米国株式市場』を参照)。
(2019年7月10日)
田中純平
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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