米国「雇用市場」は堅調…利下げなるか?FRBの判断は困難に

7月6日に発表された米国雇用統計(6月)で、雇用市場が堅調であることが明らかとなり、FRBが0.50%の利下げを実施する可能性は低くなった。しかし、最近の米国経済統計、トランプ大統領の発言等、利下げを予測する要素はいまだ多い。FRBの判断はどうなる? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO長谷川建一氏が解説する。

非農業部門の雇用者数は事前予想より大幅に増加

7月6日に発表された米国雇用統計(6月)では、非農業部門の雇用者数が22万4000人増と、16万人程度の増加という事前予想を大幅に上回った。これは、5ヵ月ぶりの大幅な伸びだった。一方で、4月と5月を合わせた雇用者数は、先月発表の速報値から1万1000人下方修正された。これで、上半期(1-6月)の就業者数は、平均で月17万2000人の増加だったことになる。

 

2018年の月間平均は22万3000人程度の増加ペースだったため、ペース自体はトータルで緩慢になったといえる。しかし、米国での労働年齢人口の伸びを吸収するには、10万人程度の増加ペースが必要とされており、これは引き続き大幅に上回っている。

 

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失業率は3.7%で0.1%上昇した。現時点では職を探していないが潜在的に働く意思のある人や、正社員になりたいがパートタイム就業しかできない人を含む広義の失業率(U6)は7.2%と、こちらも5月の7.1%から小幅上昇した。

 

時間当たり賃金は前月比0.2%(6セント)増加で、前月の0.3%増加からはやや落ち着いた。前年同月比では2ヵ月連続で3.1%増だった。米国のインフレ指標は落ち着いているが、これに符合するものといえる。平均週間労働時間は3ヵ月連続で34.4時間で変わらずだった。

市場では7月末のFOMCでの利下げを織り込み済み

5日までの短期金融市場では、7月末のFRBによる利下げを完全に織り込み、一部には0.50%もの幅を伴った利下げを織り込むような動きまでみられた。しかし、今回の雇用市場の堅調ぶりを示すやや強めの雇用統計の発表を受け、短期金利先物は下落した(利回りは上昇)。さすがに7月の連邦公開市場委員会(以下、FOMC)での0.5%幅での利下げの期待は後退したが、市場では、引き続き0.25%の利下げ実施は確実と予想しているようである。

 

しかし、先週までに発表された最近の米国経済統計が、いずれも景気の鈍化を暗示するかのような弱い内容だったことが、FRBを動かす要因であると推測する市場参加者は多い。今回の雇用統計からも、賃金の伸びが抑制されている兆候を読み取り、米経済が減速している可能性を取り沙汰している。雇用者数でも、伸びは前年から鈍化していることに予防的な利下げへの根拠を求めようとしている。利下げを催促するかのような相場はどうやら不変のようだ。

 

6月のFOMCでは、FRBは、米中貿易摩擦による経済へのリスクが高まっている一方、物価が落ち着いている状況が続いていることで、予防的利下げへの環境が整っていることを示唆した。通商問題で不透明感が強まり、企業の業況感が低下するなど弱い指標も目立ってきている。FRBが本当に予防的な行動をとるのであれば、景気後退が本格化する前に利下げを行うとの読みが市場にはある。加えて、トランプ大統領は先週も、FRBが利下げすれば経済は「ロケット」のように急成長を遂げるだろうと述べ、利下げ要求を繰り返しており、外堀は埋まった感はある。

 

しかし、先月29日の米中首脳会談で、関税合戦が一旦休止され、両国政府が通商協議を再開することを決めた。最悪のシナリオが当面回避できたことは、経済の下支え要因になるだろう。雇用の最大化と物価のコントロールが主務であるFRBが、見切り発車的に、予防的な利下げに踏み切れるのか、今回の雇用統計は悩ましいに違いない。7月末のFOMCで、FRBは難しい判断を迫られることになるのだろう。

大幅で複数回の利下げに及ぶのかどうかの見極めが必要

筆者は、今回のFOMCで0.25%の利下げはあり得ると予想するが、FRBの判断は最後まで決まらず、7月に発表される米経済指標次第ではないかとみている。確かに、消費や製造業景況感には、実体経済悪化の兆候はみられる。もし、今月の米国経済統計で、指標の改善があれば、予防的な利下げは実施されても、あくまで予防措置として最小限のものになるのではないか。

 

そうなると、数回に及ぶ利下げを織り込んだ市場の見方は変わり、利下げ回数や幅の織り込み方に変化がみられるだろう。米10年債利回りは一時2%を下回る水準まで低下し、これはリーマンショック後の最低水準に並ぶ低さだが、複数回の利下げを織り込んでいる2-5-10年の米国債利回りは、反転して上昇することになろう。その場合には、ドル円やユーロドルでも、米ドルが反発することになるだろう。

 

今週は、今月30、31日のFOMCでのFRBの行動を読み取ろうと、市場は、パウエルFRB議長の議会証言に注目している。下院金融委員会が7月10日、上院銀行住宅委員会が同11日に開催される予定である。予防的利下げの幅が0.25%なのか、0.50%と幅を伴うものになるのか、市場は手掛かりを欲している。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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