日本企業全体の3分の1が後継者未定といわれるなか、政府が事業承継対策に乗り出している。平成30年度税制改正においては、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」が大きく改正され、10年間限定の特例措置が設けられた。本連載では、事業承継サポートに取り組む、株式会社ビジネスマーケット・代表取締役社長の表一剛氏が、今からできる事業承継対策について解説する。本記事では、「事業承継計画」の立て方について取り上げる。

「初回の事業承継計画」はオーナーだけで立案

◆最初の可視化(具体化)の試み

 

事業承継を考える際には、ゆっくりと立ち止まり、いきなり解決策を具体化せずに抽象化することが大切であると、前回までお話してきました。今回は、プロセスの最初である、計画の可視化についてご紹介します。

 

一般的なビジネス書となると本論に難解な説明があり、途中にコーヒーブレイクと称したコラムなどがありますが、本連載では、抽象化やゆっくりと承継に向き合う方法論をゆるやかにご説明しながら、税制の解説といった最低限の知識武装ができるパートも設けていきます。

 

◆「事業承継〇年計画」という神話

 

事業承継を考えている方であれば、「まず、事業承継計画を立てる」といった話を書籍やセミナーで見聞きしたことがあるのではないでしょうか?

 

計画を立てるべきというのは正論です。しかし、「〇年計画」として、5年や10年といった年限を決めて、あたかもその期間で検討するのが正論であるかのような風潮には納得いきません。筆者としては、これまでご説明してきたとおり、事業承継のやり方は会社の数だけあると考えているのです。

 

「事業承継を何年で考えるか」ということは、オーナーご自身が計画を立案する上で、真っ先に決めることになります。いろいろ検討した結果、年数が変わってもいいのです。ただし、年限を定めた際には、その理由と定めたタイミングを記載しておくようにしましょう。すると、変更を検討する際にも、当初定めた際の理由を再確認することができます。

 

○年で定めるとうまくいくといった神話のような話ではなく、ご自身の想いにそって定めることが肝要です。また、この初回の事業承継計画立案(可視化)のタイミングでは、まだご自身のなかでも想いが固まっていない段階です。そのため、この時点で関係者に意見を求めてしまうと、利害関係者それぞれの意見が交錯し、承継の検討自体のハードルとなることが多くなります。この段階では、ご自身だけで作成してみましょう。

事業承継計画の一部として「後継者候補」を可視化

◆どんな項目を計画として立案するのか?

 

計画を立てる必要性は理解しているものの、どういった項目を決めていく必要があるのかまでは把握できていないのが現実ではないでしょうか? 下記図表「事業承継〇年計画(記載例)」のとおり、検討項目として必要になってくるものは多岐にわたります。

 

[図表]事業承継〇年計画(記載例)
[図表]事業承継〇年計画(記載例)

 

事業の根幹である「経営戦略」として、販売、コスト、投資それぞれに対する大方針(これ以外に大事にしている戦略を追加してもいいでしょう)や、それに伴う「目標業績」、また承継を考えるにあたっては「相続対策」も考えておく必要があります。相続対策においては、「親族内承継」「従業員によるMBO(マネジメントバイアウト)」「第三者承継」と、事業を誰に継ぐのかによっても対策が異なってきます。

 

このあたりで頭が痛くなってきませんか? 筆者自身、これを考えるのかと思うと、ちょっと疲れ始めそうです。このまま計画を立てられなくなって断念していくというのがよく聞くお話です。本連載でお伝えしたいのは、事業承継に向き合う際には、急ぎ過ぎずに一歩一歩進めてくださいということです。そういった意味合いからいうと、前回ご提案した「誰に相談するのか?」という、ぼんやりした承継の形を具体化するというのが、この承継計画を立案し、最初の可視化を行う最大の目的です。

 

この段階で可視化して直視してもらいたいのは、複雑な対策の項目の多さではなく、「後継者候補」の年齢(赤枠囲み)です。「誰に相談(承継)しよう」と考えた結果として「後継者候補」の名前を埋めると思いますが、ご自身のなかで候補を考える際には、「まだまだあいつには任せられないな・・・」といった考えも出てきたりするでしょう。しかしながら、承継計画を定め、将来を考えるとまだまだ若いように感じていた後継者候補が、オーナーご自身の年齢やこれまでの経験を考えると、経営を担うべき年齢に近づきつつある(もしくはすでに到来している)ことが理解できるのではないでしょうか?

 

◆未来の会社、後継者との対話

 

承継を考える上で一番重要なポイントは、現時点の役割、能力等で判断しないということです。今は未熟に思える候補者たちをどのように育成するのか、ご自身が先代から学んだ日々もしくは、ご自身で研鑽された日々を思い浮かべて、将来になってもらいたい役割に到達するためにどのように道しるべを作っていくべきかという想いに至るのではないでしょうか。「年齢」という将来を意味するわかりやすい指標を可視化することで、承継に向けてもう一歩検討を進められそうですね。

 

 

表 一剛
株式会社ビジネスマーケット 代表取締役社長

 

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