中小企業による事業承継型のM&Aが活発化し、国内M&Aの件数が過去最高を記録した。かつてのM&Aでイメージするような価格帯ではなく、個人でも買収が可能な小規模M&Aが増加しているのが一因であろう。しかし、経験値の低い個人が挑戦したことによるM&Aの失敗談は尽きない。本記事では、事業承継サポートに取り組む、株式会社ビジネスマーケット・代表取締役社長の表一剛氏が、買い手側が「無謀なM&A」に挑戦してしまうワケを解説する。

大きくかい離する「現オーナーと買い手」の想い

前回、個人の方がM&Aにチャレンジされた結果、簿外負債を抱えてしまうというショッキングなお話をしたところ、いろいろな反響をいただきました(関連記事『上場企業サラリーマンが「数千万円の負債」を抱えた大失敗とは』参照)。

 

「何ということだ・・・」と心配の声や、「素人が手を出すからいけない」といった厳しいコメント、なかでも「なぜ個人がリスクを承知でチャレンジしてしまうのか・・・」という疑問の声が多く聞かれました。今回は、個人を含む、事業を譲り受けたいと考えている、いわゆる買い手側の思考について考えていきます。

 

事業譲渡を検討している現オーナーの想いと、今回見ていく買い手側の考え方は、立場の違いから、かなり異質に映るかもしれません。特に前段で述べた、なぜリスクを承知でチャレンジするのかという観点につながる感性を持っている買い手が多い印象です。わかりやすくいえば、投資家としての立場で、事業をゼロイチで創り上げるのではなく、時間を買う感覚で事業承継を一つの手段として捉えている、もしくは捉えようとしている人がリスクを承知でチャレンジをするのです。

 

ですので、言葉は辛らつになってしまいますが、失敗する前提で10社チャレンジして1社成功するかどうかといった、難易度の高いものであるという認識をしている方々が多いようです。

 

10社チャレンジして、1社成功するかどうか…
10社チャレンジして、1社成功するかどうか…

 

最近では、個人であるサラリーマン向けに小規模M&Aを推奨するセミナーなども多く開催されていますが、そのなかで買い手側として心構えといった内容で、上記のようなリスクがあってもチャレンジするのが投資家だというような論調の講演も多いようです。

 

これまで、起業や自身で事業を牽引することがなかった人々がチャレンジをする土壌を築いているという意味では大変意義のある活動だと考えていますが、事業譲渡を検討している現オーナーがこの状況を見たら、大きな違和感を持つのではないでしょうか? 「30年、40年とつないできた事業を失敗する前提で譲り受けたいといっているのか!」と、買い手側が叱責されてしまうような、大きな隔たりを感じてしまいます。

 

しかしながら、憤りだけでは物ごとの本質は見えてきません。なぜ、このような考え方になるのかを紐解いてみましょう。失敗前提のチャレンジという考え方の原点は、事業承継やM&Aという事象の難易度の高さによるものです。

 

どれだけ、事前の調査や契約上のリスク低減策を講じたところで、市場環境や従業員やステークホルダーとの利害関係の変化といった不可抗力により、契約後にうまく行かなくなるケースも多く、であれば一度きりのチャレンジでの成功を目指すのではなく、より多くの打席に立つことを推奨しているのではないかと推察されます。

 

オーナー側から見れば、けしからない輩に見えるかもしれませんが、引き受け側も懸命に事業家の仲間入りをするべく、彼らなりのリスクヘッジ策として考えているという側面もあります。

 

またこのような考え方は、欧米型のシリアルアントレプレナーという何度も会社を起業して売却し、また新たな企業を立ち上げるということを尊敬の対象として捉える考え方にも由来するものです。特に、起業を志す若年層や、自己研鑽のために様々な勉強に取り組んでいるサラリーマンが、海外の先行した考え方を理解して、それを日本国内にも適用しようという流れの一環であろうと考えています。

 

長期的な観点で考えれば、こういった欧米型の事業家が増え、事業承継やM&Aに対する考え方も変わっていくのであろうと推察されます。現オーナーの気持ちを事業承継に前向きにするための動機付けとしては、少々飛躍し過ぎではないかというのが筆者のスタンスであります。

 

新しいサービスや考え方に敏感ないわゆるイノベーターや、アーリーアダプターと呼ばれるような人々は違和感を感じることなく、そんなものかと前向きに受け止められるのでしょうし、その結果が事業承継や個人を中心とした小規模M&A市場の活性化に繋がっているのは間違いないでしょう。

事業承継に前向きに取り組める環境の整備が急務

しかしながら、大多数が違和感を感じ、思考が止まってしまうからこそ、事業承継の準備が進まない現状があるのではないでしょうか?

 

127万社が廃業するといわれる大廃業時代に一石を投じようとするのであれば、現オーナーが事業承継に前向きに取り組める環境を整備することが、現時点で我々がなすべき最初のことであろうというのが、筆者の活動の原点です。

 

このような記事を書いていますと、既存の事業者の方々のことを批判しているように映るかもしれませんが、この事業承継を活性化するアプローチは様々な形があって然るべきです。特に先述したようなアーリーアダプターの方々からすれば、筆者のような考え方はまどろっこしく映るかもしれません。様々な考え方やサービスを提供する事業者やプレイヤーが増え、一社でも多くの事業者が次世代へ繋がっていくお手伝いをしたいと考えています。

 

 

表 一剛

株式会社ビジネスマーケット 代表取締役社長

 

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