専門家のコメントを鵜呑みにする事業オーナーたち
◆会社の未来を預けるかもしれない支援策を、自分の目で確かめないのは何故ですか?
前回は、「初めての可視化」と題して、事業オーナーご自身で事業承継計画を立案し、現時点での判断や感情だけでなく、後継者候補や従業員、ご家族の未来を見据えた計画を考えることの大切さについてお伝えしました。このような会社の未来について想いを巡らせるときには、さまざまな展開を想定しながら、よりよい未来に近づくように、最大限の努力と多くの手立てを考えるのではないでしょうか?
一方で、事業承継というワードが認知されるようになった要因の一つである、事業承継税制の優遇措置といったことに対して、どういった影響があるのかといった専門的な事象や制度の影響については、ご自身で確かめることなく、専門家のコメントや記事を目にしただけで、良し悪しを判断されている方が多いことに驚かされます。皆さんはどうでしょうか?
◆センセーショナルな見出しだけで判断していませんか?
実在のものを指しているわけではありませんが、「“騙されてはいけない”事業承継税制の改正」や、事業承継税制が時限措置であることから「5年以内に計画を立てないあなたは“損をしています!”今すぐ立てよう事業承継計画」といったセンセーショナルな見出しの書籍や記事を目にします。もしくは、会計顧問や専門家からの評価コメントを聞いただけで、ご自身で判断することなく評価をしていませんか?
会社の未来に関する方策については考え抜くのに、何故その将来の選択肢を左右する税制や補助金の話はご自身で評価しないのでしょうか?
記事の内容や専門家のコメントは、一側面からは間違いなく正解でしょう。しかしながら、自社のビジネスモデルやオーナーの本当の想いにマッチしているかどうかはご自身でしか判断できないはずです。
例えば、孫の代まで経営を引き継げば、原則猶予された税負担は免除されることになり、孫の代まで社内で雇用していれば、外見上は事業承継税制の特例措置を受けるべきという判断になるでしょう。
しかしながら、子だけでなく、孫の代まで事業が脈々と継続できるという確証がない場合や、家族会議の場で、孫は別の事業への意欲があるように見受けられているような場合もあるでしょう。その場合は、一旦適用を受けていた猶予が取り消された際に、税額に対して利子が課されるリスクもあります。税務上の有利不利といった判断や計算は、税理士法で税理士のみが行う業務とされていることから、ここでは詳細を記載しません。
税務上の判断だけでなく、事業計画の確実性や、家族や従業員との人間関係といったさまざまな要因を含めて、一番大事なのはご自身がしっかりと考え抜いて判断したかどうかという想いが、実際に事業承継を進めていく際のご自身の拠り所になってくるのではないでしょうか。
自身の目を通じて「事実」にもとづいた評価を
◆ものごとの反対側を見つめる
2019年、ビジネス書のなかでも話題を集めた『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(著:ハンス・ロスリング)をご覧になった方も多いのではないでしょうか。筆者自身もこの本を読むなかで、「自身の常識」と「現代の常識」がかけ離れている現実に驚愕しました。
メディアで取り上げられる事件の反対の側面を見つめることの大切さ。当たり前ではありますが、飛行機が今日も無事着陸したということはニュースにならず、飛行機がオーバーランしたということは大きく取り上げられます。飛行機が非常に危険な乗り物のように見えてしまう感覚を持つ人間という生き物である以上、意識的に事実にもとづく世界の見方である「ファクトフルネス」を意識する必要があるのではないかと考えています。
センセーショナルな見出しの記事や書籍が気になるのは、筆者も同じです。『ファクトフルネス』のなかにもありますが、人間は「ドラマチックすぎる世界の見方」をしがちであるということを自覚し、自身の目を通じてかつ、事実にもとづいてものごとを評価すべきではないでしょうか。
◆どうやって反対側を垣間見るのか?
そんなこといわれなくてもわかっているが、どうやって反対側から見通すのか・・・?という声が聞こえてきそうですね。
こういったお話をセミナーなどですると、実際にどうやるのかとご質問を頂く機会は多いですが、そこはインターネット全盛期の現代です。「事業承継税制」「事業承継 補助金」といったワードでインターネット検索をすると、ポジティブに記載しているものとネガティブに記載しているものがそれぞれ出てきます。それらを交互に読むだけで、ご自身のなかにある「譲れない志向に合うものかどうか」は判断できるのではないでしょうか?
専門家の発言を鵜呑みにせず、自身でも調べる。もしくは、調べてからコメントを聞いてみる。ちょっとした事後調査や事前準備をするだけで、専門家の言葉の真意が読み解けることもあるはずです。本記事が、社外顧問やコンサルタントの方とのご相談に活かされることを願っております。
表 一剛
株式会社ビジネスマーケット 代表取締役社長