日本企業全体の3分の1が後継者未定といわれるなか、政府が事業承継対策に乗り出している。平成30年度税制改正においては、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」が大きく改正され、10年間限定の特例措置が設けられた。本連載では、事業承継サポートに取り組む、株式会社ビジネスマーケット・代表取締役社長の表一剛氏が、今からできる事業承継対策について解説する。本記事では、事業承継に悩む社長が相談すべき相手について考察する。

会社への愛着から「思考停止」してしまう社長が多い

◆そもそも何を“考える”べきなのか「事業承継と心理学」

 

「事業承継について考えろといわれても、何からはじめればいいのかわからない」という声をよく聞きます。「何を考えればいいかわからないから考えない」というのも、正論といえるかもしれません。そこで今回ご提案したいのは、まず「誰に相談するのか」を考えることからはじめませんかということです。

 

なぜ、「誰に相談するのか」なのだと不思議に思う方もいるかもしれませんが、長年牽引してきた事業を誰に、どうやって承継していくのかをいきなり考えようとしても、これまでの事業変遷を思い、それだけでなく足もとの事業も気になりはじめた結果、「将来のことなんて考えられない!」と思考停止してしまうのではないでしょうか。

 

その気持ちは、小さいながらも事業を運営する身として全く同感です。だからこそ、考えるべきものを抽象化し、まずは人生における一大事を相談するとしたら誰に相談するのかを考えることをご提案したいと考えているのです。

 

誰に相談しようと思いを巡らせると、その方々の顔を思い浮かべるのではないでしょうか?

 

奥様であるかもしれません(いや待てよ、そういえば相続に関して顧問税理士にちゃんと相談してよね!といっていたな。先に顧問に相談しなきゃ・・・)。

 

お子様かもしれません(そういえば、年末帰ってきたときに、やけに新しい商品に関心持っていたな。話したことないけど興味があったのか・・・。一生会社勤めすると思っていたのに)。

 

もしくは、従業員の方でしょうか(古参の番頭が、最近取引先への訪問に同行させてくれといい出したな。全く外回りになんか興味を持たないと思っていたのに、よく考えれば、取引先との関係をしっかり把握したいという気持ちが芽生えてきたのかもしれないな)。

 

それとも誰も浮かびませんか?(人生の一大事は、いつも自分自身で決めてきた方も当然おられるでしょう)

 

◆いつもの立場を超えて関係を整理


いきなり相談を持ちかけるのではなく、相談するなら誰だろう。相談したらどんな反応をするだろう。なぜ、その人に相談しようと思ったのかということを、ご自身のなかで思いを巡らせるだけで、本当に相談したいことは何なのか、相談を持ち掛けたい相手は誰なのかが整理され、これまで相談相手の方との言葉のキャッチボールでは見えていなかった、行間や思いが見えてくることがあるはずです。

身近で心配している人の「サイン」を察知する

◆声なき声に耳を傾ける


我々が事業承継をご支援するなかで非常に多いケースだと実感しているのは、心配している身近な人ほど、本当のことを伝えられていないという実態です。近くでこれまでの頑張りを見てきて、これからも仕事を続けたい思いが強いことを知っているからこそ、「事業承継を考えてほしい」なんていえないというご家族の声を多く聞いてきました。

 

直接それを確認する必要はなく、必ずサインが出ているはずです。それを改めて振り返り、気付くことがあれば、ご自身はそれをどう受け止めるかを自らに問いかけてみるのが一番です。

 

相談相手が誰も浮かばない方は、事業上の意思決定などを実行された際の、ご自身の行動を振り返るといいのではないでしょうか? 孤独な決定を強いられる経営者同士で相談したり、尊敬する著書を読んで思いを巡らせたり、自然のなかで内なる自分と向き合ったりしたのではないでしょうか? それを再現するのが一番です。そのときの意思決定により実現できた施策や、その実現に向けた準備の日々などが思い出されれば、誰かに相談した記憶よりも鮮明に、かつ現実的にどれぐらいの時間がかかるのかといった感覚もよみがえることもあるかもしれません。

 

課題解決に向けた思考サイクル
[図表]課題解決に向けた思考サイクル

 

◆抽象化という思考の転換


なぜ、このような回りくどいことをやらせるのか、と疑問に思われる方もいるかもしれません。こういった抽象化を行うことで、日々の業務や感情といった枝葉のような子細な情報に惑わされることなく、本質に向き合うことができるのです。「抽象化思考によって個別の具体的事業の特徴を抽出し、単純化し、それらの関係や構造を明確にすることができる」と、書籍『アナロジー思考』(細谷功・著)にも記されています。

 

上記図表([図表]課題解決に向けた思考サイクル)のように、目前の事業承継に向けた課題の一つひとつに場当たり的な解決策を考えても、本質的な事業の存続・成長に向けたサイクルを回すことは難しいでしょう。そこで一歩立ち止まり、抽象化の手法として「誰に相談するのか」を考えることで、事業承継を考える上での本質的な課題をご自身のなかで整理することにつながり、思考の転換が期待できます。

 

つまり、ご自身で事業承継をどんな問題(家族の問題、従業員の将来、はたまた財務的問題)と捉えているのかが、相談相手を選ぶ理由に浮かび上がってくるのです。実際に相談する相手を決めることが大切なのではなく、「誰に相談したいのか」ということに思いを巡らせてみることからはじめてみませんか。

 

 

表 一剛
株式会社ビジネスマーケット 代表取締役社長

 

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