調査官は重加算税をかけたがる
税務調査を録音することはできるか?
5/19(日)>>>WEBセミナー
芸人の闇営業と「友達の結婚式の司会」は何が違うのか
芸人が、会社に内緒で営業をしたことが「闇営業」として問題になってる。しかし、隠れて行ったアルバイトを闇営業と呼ぶならば、それは芸人に限った話ではない。
「会社の倉庫から商品を持ち出し、知り合いに売る行為」などは昔から横行しているし(これは闇営業というよりもタチの悪い窃盗罪)、学校の先生が近所の生徒たちに家庭教師をして謝礼を受け取ることなども、学校の許可なく行っているならば、闇営業(公務員の倫理規定違反)であるといえる。アナウンサーが放送局に内緒で結婚式の司会をすることも同質のものであるが、素人が幼なじみに頼まれて司会を引き受け、謝礼を受け取った場合などは、誰も闇営業とはいわないだろう。
会社の許可を得て行えば、闇営業も今流行の「副業」となる。そうなると闇どころか国が推し進めている「働き方改革」の王道を行くことになる。現に、あるメガバンクでは10月から副業・兼業を認める方向なのだ。
冒頭のケースでは人気芸人がパーティに参加して問題となったが、モノマネが得意な普通のサラリーマンが、パーティに呼ばれて一芸を披露し、謝礼をもらったところで、それは闇営業とはならない。プロが行うから営業になるのだ。この場合の「プロ」とは、うまいかどうかではなく、それで生計を立てている、または立てていることになっている(そもそも生計が成り立っていればバイトはしないはずだが……)人や、芸能事務所などに所属している人を指す。
一部のメディアでは、その芸人は受け取った報酬を申告していないだろうから「脱税疑惑」と報じたが、お礼や謝礼については税金がかからないとも聞く。プロが行う場合、素人が行う場合、無償で行う場合、報酬を取り決めて行う場合、相手方から一方的に謝礼を渡された場合、会社の品物を持ち出して売りさばくような非合法な場合など、いろいろなケースがあるが、それぞれ税金の扱いはどうなっているのだろう……。
税理士が解説!問題のポイントは「2ヵ所からの給与」
◆2ヵ所からの給与
勤務先の許可を得ているかどうかは関係なく、2ヵ所から給与を受け取っている場合は確定申告をしなければなりません。ただし「2ヵ所目(副業先)の給与が20万円未満であれば確定申告の必要はない」ので安心して下さい。
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雑所得(アフィリエイト、原稿執筆など)についても20万円未満であれば確定申告は不要ですが、医療費控除などでそもそも確定申告を提出する場合は省略できません。ちなみに副業としてキャバクラなどで働いてる場合は「給与」として受け取っているのか「ホステス報酬(所204条)」として受け取っているのかにより確定申告の方法は異なります。
◆謝礼の扱い
通常、勤務先でない法人から謝礼を受け取ったときは「一時所得」または「雑所得」として課税されますが、前例のようなプロの芸人であれば「一時所得(税務上有利)」でも「雑所得(チップや心づけ程度)」でもなく「事業所得」として取り扱われることになるでしょう。アナウンサーが結婚式の司会をする場合は、金額にもよりますが「雑所得」となる場合が多く、この場合は当日の準備としての衣装代やメイク代、髪のセット代、交通費などは必要経費となります。
また個人から受け取る場合も、事業者である個人(たとえばプロモーターや仲介業者)からであれば「雑所得」や「事業所得」となりますが、友人や知人などの個人間の謝礼であれば贈与ということになります。
しかし、相続税法基本通達第21条の3-9で「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞い等のための金品で、法律上贈与に該当するものであっても、社交上の必要によるもので贈与者と受贈者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものについては、贈与税を課税しないことに取り扱うものとする」とされているため税金はかからないことになっています。
◆脱法行為により得た所得は?
「利息制限法を超えて受けとった利息につき課税対象とする」という昭和46年11月9日の最高裁判決にあるように、税務の考え方は「不法原因等による所得に対しても課税する」というスタンスです。過去においては「窃盗、強盗、横領については所得税の課税対象とはしない、詐欺については所有権が移転しているため課税対象とする」という通達(昭和26年1月1日)もありましたが現在は見当たりません。
税法の考え方からすると、覚せい剤の密売や殺人の請負なども確定申告をする必要がありますし、ひんぱんに収入を得ているとすれば消費税の課税事業者にも該当。また、そのような行為を繰り返すことにより築きあげた財産にも相続税が課税され、所得や富が再分配される……という奇妙な現象が起こることになります。
この事件を機会に、日本でもミュージシャンやアスリートが色物扱いされることなく対等の契約関係が締結でき、ハリウッドの米国俳優組合(組合員16万人)のように個人の権利が保護される世の中になることを願っています。
内藤 克
税理士法人アーク&パートナーズ 代表社員/税理士
著書に『残念な相続』(日本経済新聞社)など
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