これまで卸を中心にビジネスをしていた企業がEC事業へ参入する場合、まず乗り越えるべきは物流品質(正確さ、スピード、コスト)の問題です。しかし、この工程には人的作業が必要なため「ヒューマンエラー」の発生をゼロにすることはできません。本記事では、物流の現場で多発する誤出荷の原因を分析するとともに、その発生を抑制する具体的な方法を見ていきます。

現場の声に耳を傾け、課題を浮き彫りにする

卸中心に事業を展開してきた企業が新たにEC事業に参入し、ネット通販で業績を伸ばしていくためには物流品質(正確さ、スピード、コスト)を高める必要があります。もちろんECに限らず、従来のBtoB物流でも同様に、物流品質を向上させるための努力が不可欠なのは言うまでもありません。

 

ところが物流現場は、良くも悪くも人手に頼る作業が多く、業務の実態を正確に把握するのが難しいという課題があります。さらに、返品や納期変更、入荷の遅れ、検品や一時保管など、倉庫業務はイレギュラーで発生する工程が多いこともあり、作業を標準化してスタッフに教育するのも簡単ではありません(図表)。

 

[図表]
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そのため、物流倉庫の改革では実効性のある対策(=地に足のついた倉庫改善)にまで踏み込みにくい面があるのです。そこで、倉庫改善のファーストステップとしてお勧めなのは、〝現場の声に耳を傾け、何が課題になっているのかを浮き彫りにすること〟です。

 

いくら机上で考えても現場の実態は見えてきません。自社倉庫を持つ経営者や倉庫現場に配属になった物流担当者は、現場の一線で働くパートスタッフに積極的にヒアリングをしてみてください。

 

「商品を取りに行って棚にないことがあるか?」「棚に商品がなかった際の対処法があるか?」「返品対応が遅れがちになっていないか?」など、日々の業務で問題に感じている点を率直に話してもらいましょう。次第に現場の課題が見えてきて、改善策を導き出すためのヒントを得られるはずです。

誤出荷事故の根本原因は「ヒューマンエラー」

物流倉庫で誤出荷事故が起きる根本的な原因は「ヒューマンエラー」です。人的作業が大部分を占める物流現場ですから、それは仕方がありません。

 

しかし勘違いしてはいけないのは、作業員がミスをしないように対策を講じるだけでは誤出荷はなくならないということです。人間である以上、いくら注意をしてもヒューマンエラーは起きるからです。

 

重要なのは、ミスは起きるということを前提にしたうえで、

 

●ヒューマンエラーが起きやすい箇所はなるべく間違いにくい工夫をする

●万が一、ミスが生じても事故を食い止める仕組みをつくる

 

ということです。

 

そこで大切になるのが次の二つです。

 

◎ ヒューマンエラーが起こりやすい弱点箇所を予測する

◎ ヒューマンエラーが起こると、甚大な事故につながる箇所を予測する

 

当社の過去のデータを分析すると、ヒューマンエラー(=誤出荷)が発生する原因は主に「誤ピッキング」と「出荷時の伝票誤貼付」の二つであることが分かっています。

 

「誤ピッキング」とは違う商品や違う数量をピッキングしてしまう事故、「出荷時の伝票誤貼付」とは作成した伝票・送り状と出荷準備をした商品の突き合わせ時にテレコに貼り間違いをする事故を指します。この二つのミスが、事故原因の8割を占めていたのです。

 

■誤ピッキング

 

なかでも圧倒的に多いのは「数量間違い」です。ロケーションに行って、品番を確認するところまではあまりミスは発生しませんが、数量を確認し、棚から商品を取り出す際に間違えるのです。例えば「1」取らないといけないところを、誤って「2」取ってしまったりなどです。

 

あるいは、こんなケースもあります。例えば、年中通して「1」しか出荷指示がかからないような商品であっても、稀に注文数が「2」に増えることがあります。その場合、作業員は過去の出荷指示の傾向から「1」と思い込み、棚から商品を一つだけピッキングする可能性があるのです。

 

この場合に大切なのは、〝数字のイレギュラーな変更は見落としやすい〟ということを事前に予測しておくことです。そうすれば〝見落とさないためにどうすればいいか〟という改善策を導き出せます。

 

例えば「2」の数字のサイズを大きくしたり、色を変えたりすることで作業員に注意を促せます。作業員は「1」と思い込んでいたとしても、「2」の数字が目に飛び込んでくることで我に返り、「今回は2だな」と気づけます。いかに〝思い込み状態〟を解除するかがポイントです。

 

以上はほんの一例ですが、実際には他にもさまざまなヒューマンエラーが考えられます。しかもミスの内容は現場の環境によって変わります。

 

だからこそ、現場をよく見てヒアリングし、起こり得るヒューマンエラーと事故リスクを徹底検証する必要があるのです。

 

■出荷時の伝票誤貼付

 

ピッキングリストと送り状をセットしてから現場に出すことができれば、貼り間違いは物理的に発生することはありません。しかし、複数商品を同梱したりする場合、伝票類と出荷準備をした商品の突き合わせ作業をせざるを得ないケースもあります。

 

この場合テレコ状態になるミスをいかに防ぐかという対策が求められます(対策例は本書『誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術』132ページ参照)。

 

このようにヒューマンエラーを徹底的に洗い出す必要があるほか、地に足のついた倉庫改善を成功に導くポイントになるのが〝物流担当者自身の意識〟です。当社の経験上、誤出荷を出すのはパートスタッフやアルバイトではなく、8割以上は物流担当者本人だからです。

 

パートスタッフやアルバイトは、指示どおりに作業してもらうよう教育し、現場の雰囲気を良い状態に保つことができれば、しっかりと働いてくれるものです。問題は、そのパートスタッフやアルバイトを指導するべき物流担当者です。往々にして社員は自分の能力を過信し、要領よく作業をこなそうとしがちです。

 

社員の意識が緩くなると現場の雰囲気が乱れ、パートスタッフやアルバイトの意識にまで影響が及んでいきます。倉庫現場は物流担当者の鏡。現場を指揮する社員こそ心すべき――物流担当者には、このことを心に留めておいてもらえたらと思います。

高い物流品質を追求する意識を「インストール」する

ヒューマンエラーを事前予測し、起こり得る事故リスクを洗い出した後、取り組むのが次の二つです。

 

◎ヒューマンエラーが起きても誤出荷事故につながらない「業務フロー(=倉庫管理マニュアル)」を徹底検証のうえで作り込む(『誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術』3章詳述)

 

◎その業務フローを現場にインストールし(落とし込み)、その手順どおりに作業するよう徹底的に現場教育する(『誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術』4章詳述)

 

繰り返しますが、人手作業の多い現場である以上、ヒューマンエラーが起きること自体は仕方のないことです。ポイントは、〝ミスが起きても事故につながらない業務フロー(=倉庫管理マニュアル)〟をいかに作り上げるか。

 

しかしながら、マニュアルを作成するだけではいけません。実際にその運用ができなければ、せっかくの業務フローも単なる絵に描いた餅です。

 

そこでポイントになるのが〝現場へのインストール〟です。「誤出荷を絶対に出さない」という共通認識を現場に持たせ、物流品質を追求していく高い意識のもと、マニュアルどおりの作業に徹するよう現場を教育する。物流担当者の最終的な役割はこの一点に集約されると肝に銘じてください。

 

地に足のついた倉庫改善の成否は、現場へのインストールがうまくいくか否かにかかっていると言えるでしょう。

 

 

山田 孝治

株式会社三協代表取締役社長

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

山田 孝治

幻冬舎メディアコンサルティング

自社倉庫を持つ中小企業が抱える、あらゆる倉庫管理の喫緊の課題・・・ その解決策は、現場一線で〝物流品質〟(正確さ、スピード、コスト)を追求し続ける東大阪の倉庫業にあった! 「誤出荷ゼロ」「在庫差異ゼロ」「入出庫…

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