「倉庫管理マニュアル」のポイント③簡略な保管情報
倉庫現場は個別色が強いため、改善例を挙げ始めるときりがありません。そのため、ここではどの倉庫にも当てはまる共通項を7つ挙げ、解説したいと思います。今回は、マニュアル作成のポイント③として、「ロケーション表示の簡略化」について取上げます。
倉庫管理マニュアル「7つのポイント」
ポイント①:作業環境を整備する
ポイント②:入荷管理を徹底する
ポイント③:ロケーション表示を簡略化する ← 今回はコレ!
ポイント④:確認作業を処理作業化する
ポイント⑤:注意力を喚起する工夫を随所に盛り込む
ポイント⑥:バーコードを活用し、リアルタイムで正確な在庫管理を行う
ポイント⑦:バーコード管理の環境を整える
● 複雑なロケーション番号は振らない
ロケーションとは、倉庫内の商品の保管場所のことを指します。棚やボックスごとに番号を割り振り、「Aという商品は1234という場所にある」という形で管理します。
入荷した商品をピッキングする際は、その商品が保管されているロケーションに取りに行くことになります。ピッキングリストに表示されているロケーション番号を確認して移動するため、できる限り簡略化した数字を割り振ることが大前提です。
● ロケーションのレイアウトを分かりやすく
さらに効率よく探せるように、倉庫内のレイアウトを分かりやすくする工夫も必要です。例えば、当社が代行管理している物流倉庫の一例では、まず棚番号を「1」「2」「3」「4」「5」「6」と順番に振っています(図表1)。
次に、各棚の両サイドに「03」「04」という数字を割り当て、両サイドの個別ボックスに「001」から順番に通し番号を振っています(図表2)。そうすることで「403─001」「403─002」「403─003」というふうに、各ボックスに個別番号が割り振られることになります。
各棚・各列の通し番号は「001」からのスタートで統一しています。そのため「1」「2」「3」「4」という大枠の棚番号さえ覚えれば、ロケーション番号を見るだけで〝その商品が倉庫のどのあたりにあるのか〟見当をつけられるようになります。例えば「403─067」というロケーション番号の場合、「4列目の棚の03サイドの、あのあたりのボックスだな」という感じです。
ロケーション番号を簡略化し、棚のレイアウトを工夫することで、見渡しやすく、動きやすい現場の動線が生まれ、ピッキング作業の効率化やミスの軽減につながります。
● 荷物のサイズでロケーションを区別する
別の物流倉庫では、荷物のサイズによってロケーションの表示と場所を区別しています。具体的には、パレットの荷物は「P」、Lサイズに相当する大きめの荷物は「L」、Mサイズに相当する荷物は「M」などです(図表3)。
直感的に理解できる文字をロケーション表示に割り当てることで、作業者は倉庫内の保管場所の全体像をつかみやすくなり、移動効率を高められます。
●合言葉は〝ロケ行って品番、数量〟の確認
ピッキングリストを持ってピッキングする際、合言葉は〝ロケ行って品番、数量〟の確認です。作業の流れは次のとおりです。
①「ロケーション」番号を確認し、その棚に移動する
② ボックス内の商品の「品番」を確認する
③ 品番に間違いがなければ商品を「数量」分、取り出す
仮に同じ商品の注文が5件続いても、必ず1件ずつ〝ロケ行って品番、数量〟の確認を繰り返してピッキングします。この作業の流れを怠ると、前述したように誤ピッキングにつながる可能性があるからです。
ところが作業に慣れてくると、いくら注意しても自己流に走ってしまう人がいます。5件分の商品をまとめてピッキングし、誤出荷の原因を作ります。マニュアルの手順を無視すればミスにつながりますから、自分のやり方に固執しはじめた熟練パートスタッフの教育は手抜かりなく行ってください。
「ロケーション」「品番」「数量」この3点セットは、例えるなら〝勘所〟のようなものです。この勘所を正しく通過している限り、ミスは絶対に起こり得ません。3点セットの合言葉を現場に浸透させ、徹底させるのが物流担当者の腕の見せ所といえるでしょう。
ピッキングリストもこだわることでミスを防げる
●ピッキングリストの記載項目も「ロケーション」「品番」「数量」の三つのみ
「ロケーション」「品番」「数量」この確認が大事なので、ピッキングリストで重要となるのもその三つの情報です。逆に言えば、ピッキングリストにはこれ以外の情報は必要ありません。
例えば図表4のピッキングリストを見てどう感じるでしょうか?ここまで読み進めていただければ見当がつくと思いますが、セミナーなどの冒頭で同じ質問をすると「どこがおかしいのだろう?」とほとんどの参加者が首を傾けます。
ところが図表4のピッキングリストで実際に作業をすれば、すぐに問題に気づきます。重要な三要素が他の情報に埋もれて見分けがつかないのです。
なかでも問題は、「品名」が記載されている点です。おそらく多くの人は「品名があれば商品を探しやすいのでは?」と思うでしょう。しかし品名を見て、その商品のイメージが頭に思い浮かんでしまうと、それがミスの原因につながります。
図表4の場合、ピッキング担当者は、あじさいや金魚の柄の「手ぬぐいタオル」をイメージしながらロケーションに足を運び、商品を手に取るはず。仮に、その後も手ぬぐいタオルの注文書が続いた場合、「また手ぬぐいタオルだ」と思うでしょう。
やがて「要領よく仕事をしたい」という手抜きの気持ちが一瞬でも頭によぎってしまえば・・・「ロケーション」に行って「品番」を確認するという本来の手順を踏まず、「あの柄の手ぬぐいタオルはあの棚にあった」という個人の判断のもとに商品をピッキングしてしまうのです。
ところが、手ぬぐいタオルのサイズには大中小の3種類があり、品番で区別されていた場合はどうでしょうか。「先ほどの手ぬぐいタオルと同じ商品だ」という思い込みだけでピッキングしてしまうと、誤出荷事故を引き起こします。このように、余計な情報が記載されているほどヒューマンエラーを誘発するリスクの芽となります。
●文字の大きさ、色・・・見やすさと使いやすさを徹底追求する
ピッキングリストのフォーマットを作成する際は、図表5のように情報の絞り込みが鉄則です。「ロケーション」「品番」「数量」の三要素以外の無駄な情報は極力排除するのはもちろん、読み間違いが起きないよう文字を大きくしたり、見やすいフォントを使ったり、目線の動きを考慮してレイアウトを工夫したりするなどして、見やすさと使いやすさを追求します。
例えば図表5では、商品番号(品番)の下4桁の文字サイズが大きくなっています。これには重要な意味があります。作業者に〝品番は下4桁だけ確認すればOK〟と伝えているのです。
後述するようにフリーロケーションの場合、指定のロケーションに行けば、その品番の商品が間違いなく入っています。だから下四桁の確認で十分なのです。確認する文字数をできる限り減らし、ヒューマンエラーのリスクを軽減する工夫の一つといえるでしょう。さらに注意事項は赤にするなど、色を効果的に使うのもいいでしょう。
●ピッキングリストのこだわりは社内SEがいればこそ
ピッキングリストのカスタマイズはシステムの仕様変更を伴います。システム構築を外部に依頼している場合、改良のたびに仕様変更の発注をかけなければなりません。その都度費用が発生するほか、フォーマットが決まっているなどの理由で仕様変更を断られる可能性もあります。つまり外部業者ではピッキングリストの柔軟な改良が難しいのです。
一方、社内にSEを抱え、自社でシステムを構築している場合、現場の声をシステムやピッキングリストに即反映できます。「この数字が見にくいので大きくしてほしい」「バーコードが読み取りにくいので表示を対面に変えてほしい」──そんな現場の要望にも即対応できるため、ストレスがありません。現場とエンジニアが一体となり、システムをブラッシュアップしていけるのです。
倉庫現場は人手に頼る面が多いものの、物流品質を高めるための手段としてIT技術は必要不可欠です。当社の場合、物流現場を熟知したSEの必要性を痛感し、20年ほど前から有能なIT技術者を社内で育ててきました。
なかでもこだわりは、すべてのSEに物流倉庫の現場を経験させることです。エンジニアが自ら倉庫作業に当たることで、机上の空論ではない〝使えるシステム構築〟ができるようになるからです。
当社が運営代行する物流倉庫のシステムは自社のSEが担当するため、お客様の事業の進化に付随する仕様変更やイレギュラーに対応するためのカスタマイズも迅速に対応しています。
固定ロケーションとフリーロケーションの違いとは?
ロケーションには「固定ロケーション」と「フリーロケーション」があります。
固定ロケーションとは、一つの商品を同じ場所に保管する方法です。単純で分かりやすいのが利点ですが、保管場所が空いていても他の商品は置けないというデメリットがあります。さらに決まった場所がいっぱいになってしまった場合、ある程度スペースのある他の保管場所を探さなくてはいけません。場合によっては、倉庫を借りる必要が出てくることもあります。
一方のフリーロケーションとは、商品ごとに保管場所を決めるのではなく、空いている場所に商品を保管する方法です。棚が空いているのに商品を置けないというデメリットはなく、スペースを無駄にすることがありません。アパレル系のネットショップのように商品点数が多いケースや、季節ごとに商品の入れ替えがあるケースなどはフリーロケーションが向いているようです。
ただし「この商品はここ」と決まっているわけではないので、在庫管理が複雑になりがちです。そのためフリーロケーションのメリットを発揮するには「何が、どこに、いくつあるのか」を適切に管理するノウハウが求められます。
例えば当社の場合、独自の物流管理システムで在庫管理とロケーション管理を同時に行います。入出荷の際に棚のバーコードと商品のバーコードをそれぞれ読み取ることで、商品名や在庫数、保管場所などのデータを自動的に入力する仕組みにしています。
どこにどの在庫があるのかなど、管理を徹底することで、商品の置き場に困ることや、商品を探す手間を大幅に減らすことができます。
山田 孝治
株式会社三協代表取締役社長