物流品質を高める「倉庫管理マニュアル」の作り方

本記事では、総合物流の効率化を推進し、実績を上げてきた著者が、これからますます需要が高まる物流倉庫管理の改善策を提言します。物流品質を高めるために必要なのは〝熟練者がいない現場でこそ機能する倉庫管理マニュアル〟です。今回は倉庫管理マニュアルを作成するにあたり重視すべきポイントについて見ていきます。

現場初日からテキパキ作業できる「業務フロー」が必要

倉庫管理マニュアルを作成する際に、大切なポイントがあります。それは〝新しく入った人でもマニュアルどおりに作業すれば最もスピーディーに、最も効率よく作業できる「業務フロー」を作り上げる〟ことです。現場に入った初日から、誰もが作業できるほど分かりやすい内容で、間違いを起こしにくい業務フローでなければなりません。

 

私は社員に「コンビニやファストフードを目指そう」と言い続けてきました。両者には、現場に熟練した人がいなくても仕事が回る業務フローの仕組みが整えられているからです。

 

特に近年のコンビニは社会インフラとしての機能が多様化していることから、公共料金の支払いや宅配便の取り扱い、チケット発行などコンビニ本来の業務である販売以外の作業が多いです。にもかかわらず、アルバイトスタッフや外国人スタッフはテキパキと仕事をこなしています。

 

そう考えると、コンビニのビジネスモデルは誰が取り組んでもすぐにマスターできる業務フローがあるからこそ、成り立っているのが分かります。注文して短時間で一定品質の商品を提供できるファストフードも同様です。

 

倉庫現場もコンビニやファストフードを目指さなければなりません。そのため〝熟練者がいない現場でこそ機能する倉庫管理マニュアル〟が必要なのです。

 

当社では業務フローを徹底的に単純化・標準化し、手順を見れば誰でも理解ができ、正確に作業ができるようなマニュアルを作り込んでいきます。そうすることで業務全体が見える化され、スタッフの意識を高めることにもつながります。

 

すべては物流品質を高めるために──このミッションを達成するためのマニュアル作りのポイントと、現場へのインストール方法を説明していきましょう。

マニュアル作成のポイント①作業環境の整備

倉庫現場は個別色が強いため、改善例を挙げ始めるときりがありません。ですので本書(『誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術』)は、どの倉庫にも当てはまる共通項を7つ挙げ、解説したいと思います。

 

● 5Sを徹底する

地に足のついた倉庫改善は5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ+作法)に始まり、5Sに終わる──。そう言っても過言ではないほど、「5S」は倉庫現場を良くするために大切です。私の経験上、物流品質の高い倉庫は間違いなく5Sが行き届いています。

 

尊敬する経営者の一人である日本電産の永守重信社長はM&Aを戦略的に活用し、事業領域を拡大してこられました。買収した赤字企業をリストラなしでV字回復させてきた永守社長の経営手腕はよく知られています。

 

永守社長が買収した赤字企業には共通項がありました。整理整頓ができておらず、社内が汚かったのです。そこで永守社長は職場をきれいにするよう指示を出し、その結果、すべての買収企業が利益を生み出せるようになったといいます。たったそれだけで儲かる体質になれるのかと思うかもしれませんが、見方を変えれば、たったそれだけのことが難しくて取り組めない企業が多いともいえます。

 

汚れていて当たり前という社内の意識を変え、きれいな職場を維持するためには社員に対する〝しつけ〟が不可欠です。しつけは一朝一夕にできるものではなく、粘り強く訴え続けて習慣化するしかありません。

 

永守社長はシンプルでありながら、実は変えることが難しい部分にメスを入れ、赤字企業の緩んだ意識を建て直していかれたのです。

 

同じように、物流事故が多発している倉庫現場は5Sがまったくなされていません。倉庫全体の整理整頓がされていない、在庫が散乱している、現場が汚れている、ホコリをかぶったデッドストックが積み上げられている、在庫が通路や床に直接置かれている、作業員の服装が乱れている、パートスタッフがおしゃべりしている・・・などです。

 

このような基本ができていないにもかかわらず、高価なマテハン機器や在庫管理システムを導入している点も共通しています。

 

では、なぜ5Sが必要なのでしょうか。例えば現場が汚いと、小さなミスを見落としやすくなります。

 

置き場所が決まっていない商品や溢れてしまった商品を、一時的に床に置く習慣があったとしましょう。例えばその現場で、何かの拍子に棚から商品が滑り落ちてしまったら、誰が気づくことができるでしょうか。元々置いてあった商品とそうではない商品の区別がつきづらく、滑り落ちた商品がそのまま放置されてしまえば、倉庫内で永遠に見つかることのないデッドストックとなるでしょう。

 

または恒常的に床に商品があることで、ちょっとした違和感を見逃すなど、問題の発覚が遅れてしまうケースもあります。整理整頓や清掃が行き届いてさえいれば、商品が落ちても一目瞭然です。簡単な話ですが、近くを通った人が棚に戻せば在庫差異を未然に防ぐことができるのです。

 

そもそも、棚から商品が落ちる原因も整理整頓不足です。特にビニール梱包の商品は滑りやすいため、満タン状態の棚に押し込むと滑り落ちる可能性はおおいにあります。

 

対処法は簡単で、棚がいっぱいになるまで商品を詰め込まないこと。商品が落ちそうな場合は仕切りをつけるなどです。倉庫管理マニュアルにもその旨を記載すれば、作業者に注意を促し、ミスの事前防止につながるでしょう(図表1)。

 

[図表1]
[図表1]

 

小さな改善に見えるかもしれませんが、リスクの芽を一つひとつ摘み取っていく先に誤出荷ゼロ、在庫差異ゼロがあるのです。

 

●〝まっすぐ〟に万事が現れる

私が5Sにこだわる最大の理由は別にあります。それは現場の「意識」です。荷物を〝まっすぐ〟にすることすらできない現場の一番の問題は、〝まっすぐではない〟という状況を見て何も感じない職場全体の意識にあるからです。

 

その鈍感な意識は作業者一人ひとりの行動を雑にしていきます。乱れた作業がミスを誘発し、誤出荷や在庫差異につながるのです。だから私は、荷物やパレットを〝まっすぐに並べる〟ことを大切にしています。ダンボールケースが汚れていれば入れ替えし、きれいな箱がピシッと一列に並んでいる環境を重視します(図表2)。

 

[図表2]
[図表2]

 

このような当たり前のことができていない現場が、意外とあまりにも多いのが実情です。〝背筋がピンと伸びる〟と表現するように、その職場の緊張感や雰囲気の良し悪しは、必ず積まれた荷物の〝まっすぐ〟に現れます。

 

挨拶も同様です。倉庫現場で働くパートスタッフには、しっかり挨拶ができるよう指導を努めてきました。当社の倉庫に見学に来られたお客様からは「気持ちよく挨拶をしてくれますね」とお褒めの言葉をよくいただきます。

 

挨拶と誤出荷は一見すると関係のないように思えますが、やはり一事が万事です。挨拶ができる現場では、挨拶以外の行動もきっちりできるのです。反対に事故の多い現場では、お客様が来ても誰も見向きもせず、パートスタッフはおしゃべりに夢中になっていたりします。

 

これは倉庫に限りません。例えば取引先の事務所を訪問した際、気持ちの良い挨拶で出迎えてくれた会社は隅々にまで目が行き届き、丁寧に仕事をされている印象を持つものです。反対に、事務所に通されてもどんより重たい空気が漂い、誰もがパソコンに向き合ったまま・・・そんな会社にはあまり良い印象は抱かないでしょう。

 

御社の物流倉庫の雰囲気はいかがでしょうか? 経営者や物流担当者は一度、顧客になったつもりで自社倉庫を抜き打ちでご覧になってみてください。挨拶ができているか、5Sが行き届いているか、作業員の服装に乱れはないか、私語が多くないか・・・徹底的にチェックをして、教育していく必要があるでしょう。

 

● 5Sが習慣になると、〝ゆがみ〟が気持ち悪くなる

とはいえ、5Sや挨拶を根づかせるのは根気のいるものです。荷物をまっすぐに整える作業自体に時間はかかりませんが、面倒なひと手間であることに変わりはありません。特に忙しい時は「ま、いいか」と見過ごしてしまいたくなるものです。

 

しかし、その「ま、いいか」を認めてしまうと意識のタガが外れます。やがて職場の風土は乱れ、誤出荷や在庫差異の起きやすい土壌になるのです。

 

大切なのは、汚れや乱れを見つけたらその都度、きれいにするよう粘り強く言い続けることです。そして5Sが習慣になるまで癖づけます。

 

5Sが体に染みつくと、汚れや整理整頓ができていない箇所が気になりはじめます。荷物のゆがみが気になって、つい、直してしまう──そんな意識が作業員の一人ひとりに根づいてくれば、事故の起きにくい土壌が築かれていくでしょう。

 

ではその意識を誰が根づかせるのかといえば、当然ながら物流担当者です。倉庫現場の〝親〟である物流担当者本人が気を引き締めて、ミスが生じた際にその場できちんと注意する。良くも悪くも、物流担当者の意識が職場全体の雰囲気をつくり上げる、と心得てください。

 

 

山田 孝治

株式会社三協代表取締役社長

株式会社三協 代表取締役社長

1958年生まれ。神戸大学工学部卒業後、三井ホームに入社。その後退職し、1982年株式会社三協に入社。1999年株式会社三協代表取締役社長に就任。
従来の物流倉庫のスタイルを一掃し、社内にシステム室、デザイン室を開設。総合物流の効率化を図ると共に、ネットショップ物流に特化したSANKYO-ECを立ち上げるなど、30年間現場一筋。
「地に足物流」すなわち「物流事故が起きるのは会議室ではなく物流現場。机上の空論ではなく、地に足をつけて取り組む」をモットーとし、数ある物流倉庫の「誤出荷ゼロ」「在庫差異ゼロ」「入出庫遅延ゼロ」を実現させてきた。

著者紹介

連載誤出荷ゼロ!中小・零細企業の「自社倉庫管理」の極意

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

山田 孝治

幻冬舎メディアコンサルティング

自社倉庫を持つ中小企業が抱える、あらゆる倉庫管理の喫緊の課題・・・ その解決策は、現場一線で〝物流品質〟(正確さ、スピード、コスト)を追求し続ける東大阪の倉庫業にあった! 「誤出荷ゼロ」「在庫差異ゼロ」「入出庫…

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