マニュアル作成のポイント②入荷管理の徹底
倉庫現場は個別色が強いため、改善例を挙げ始めるときりがありません。そのため、ここではどの倉庫にも当てはまる共通項を7つ挙げ、解説したいと思います。今回は、マニュアル作成のポイント②として、「入荷管理の徹底」について取上げます。
倉庫管理マニュアル「7つのポイント」
ポイント①:作業環境を整備する
ポイント②:入荷管理を徹底する ← 今回はコレ!
ポイント③:ロケーション表示を簡略化する
ポイント④:確認作業を処理作業化する
ポイント⑤:注意力を喚起する工夫を随所に盛り込む
ポイント⑥:バーコードを活用し、リアルタイムで正確な在庫管理を行う
ポイント⑦:バーコード管理の環境を整える
●入荷はアナログだからこそ、入口の管理が最重要となる
入荷時にはさまざまな情報が入ってきます。商品の破損や汚れのほか、入り数変更などもそうです。この入口管理をしっかりすることで、出口のミスを減らせるようになります。反対に入荷時のミスを見逃せば、いくらその後の作業を正確に行っても、誤出荷や在庫差異につながる可能性があります。
例えば10ケース入荷したつもりでシステム入力した後、実際は9ケースしかなかった場合、システム上と実在庫の数字には差異が発生します。入荷後の棚入れを間違っても同様に在庫差異が生じて商品が行方不明になります。ICタグやバーコードを導入すれば作業を効率化しヒューマンエラーを減らせますが、ICタグやバーコードを発行する最初のタイミングでミスが生じる可能性もあります。
何が言いたいのかと言うと、いくら倉庫管理のシステム化やデジタル化を進めても、入口の作業は常にアナログなのです。アナログ=人手がかかるということは、必ずヒューマンエラーが起きるリスクがあることを意味します。誤出荷ゼロ、在庫差異ゼロの実現は、アナログの入口管理をいかに徹底し、ミスを減らすかがポイントなのです。
入荷時に注意すべき点はたくさんありますが、何より気をつけるべきポイントは「ケース数の間違いは絶対に避ける」「受領印を先に押さない」「棚入れ管理を徹底する」の三つです。
●ケース数の間違いは絶対に避ける
例えば、当社が物流業務を運営代行する荷主企業様が、商品150個を海外メーカーに発注したとしましょう。1ケースの入り数が15個だった場合、10ケースのオーダーとなります。この場合、当社が代行管理する物流倉庫には10ケースを入荷することになりますが、海外メーカーの出荷担当者が注文数の桁を間違って100ケース発送すればどうなるでしょうか。
当然ながら物流倉庫には、100ケース届くことになります。入荷担当者がケース数の間違いに気づけばミスを防げますが、気づかずに100ケース入荷し、受領印を押してしまえば後戻りはできません。
「注文は10ケースだったが、間違って入荷してしまった。90ケースは返品したい」
「注文数は10ケースなのに、100ケースも送ってくるのはそちらのミス」
そうやって海外メーカーに問い合わせやクレームを入れても、「受領印を押しているじゃないか」と言われてしまえばそれまでです。90ケース分の代金を海外メーカーに弁償しなければなりません。ケース単価が安ければ被害は少なくて済みますが、高額商品の場合は多額の損害を被ってしまいます。桁を間違えるのは書類上のケアレスミスにすぎませんが、見逃した際の損害は決して小さくないのです。
そのため当社の場合、入庫担当者には常日頃から「ケース数の間違いだけは絶対に避けなさい」と繰り返し伝えています。倉庫管理マニュアルにもその旨の注意書きを目立つように表記し、常に意識を持たせる工夫をしています(図表1)。
では、入り数の間違いはどうでしょうか。特に輸入品の場合、1ケース100個入りのはずが99個しか入っていないなど、故意かどうかは別にして入り数の間違いは少なくありません。
当社の場合は荷主企業様と事前に協議し、入り数チェックまで行うかどうかの取り決めをしています。入り数を数えるのはコストがかかりますから、そこまでの管理は必要ないと割り切って考える企業様もいます。
そのほか、商品の破損や汚れなども入荷時に目を光らせておく必要があります。その場で不備を指摘し受け取りを拒否しなければ、「受領後に倉庫側で破損させた」「倉庫側で商品を汚した」などと言われてしまうと反論できなくなります。
●受領印を先に押さない
商品を入荷すると検収し、数の間違いや破損などがなければ受領印を押します。納品数が多い場合はミスを減らすために二人で確認を行い、数が合わないなどのイレギュラーがあれば、現場責任者に報告する、といったルールが必要です。
まず前提として重要なのは、〝検収よりも先に受領印を押さないこと〟です。
入荷時の検収作業がルーティン化してくると、受領印を押すことが仕事であるかのように勘違いするようになっていきます。受領印とは、本来受け取るべき商品を間違いなく受け取った証拠の印。あくまで検収作業の目的は〝間違いなく受領したかどうかをチェック〟することであり、受領印の押印は〝結果〟なのです。その本来の仕事を手抜きして受領印をポンポン押した挙げ句、ケース数や個数に間違いのある状態で受け入れてしまったら、多額の弁償負担を被るリスクがあります。
先に受領印を押さないよう倉庫管理マニュアルに注記し(図表2)、入荷担当者に受領印の重要性を意識させることも大切です。
入荷後の棚入れも重要…動きやすい現場環境を整える
●棚入れ管理を徹底する
入荷後の棚入れも重要です。例えば、入荷計上後に商品のロケーション番号を「403─067」と割り振ったものの、「403─068」の棚に入れてしまうと在庫差異の原因になります。棚入れを間違わないよう作業員に常に注意を促すとともに、後述するようにロケーション表示を見直すなどして動きやすい現場環境を整える必要があります。
●日々の棚卸しをかける
入荷時の作業はアナログなので、ヒューマンエラーを完全になくすことはできません。そこで必要となるのが「日々の棚卸し」です。前日に出荷のかかった商品を翌朝にチェックするなどして、棚の実在庫とシステム上の在庫数を突き合わせるのです。
差異があれば即時に対応し、商品を本来のロケーションに戻したり、システム上の数値を変更したりして調整を図ります。期末などにまとめて実地棚卸しを行うと途方もない作業になりますが、こまめに行えば1日分のチェックで済みますから、手間や時間はそれほどかかりません。「入荷管理の徹底」+「日々の棚卸し」で誤出荷事故を未然に食い止め、物流品質を大きく高められるようになります。
さらに、空いている場所に商品を保管する(フリーロケーション)場合、棚を日々メンテナンスすることで保管スペースを効率よく使えるようになります。そのうえ新たに入荷する商品の受け入れ態勢を整えることにもなります。
倉庫管理をアウトソーシングしている場合、空いているのに使われていない棚が多いと保管料が無駄になりますから、倉庫業者が棚を定期的にメンテナンスしているかどうか確認するといいでしょう。
山田 孝治
株式会社三協代表取締役社長