マニュアル作成のポイント⑦バーコード管理の環境整備
倉庫現場は個別色が強いため、改善例を挙げ始めるときりがありません。そのため、ここではどの倉庫にも当てはまる共通項を7つ挙げ、解説したいと思います。今回は、マニュアル作成のポイント⑦として、「バーコード管理の環境整備」について取上げます。
倉庫管理マニュアル「7つのポイント」
ポイント①:作業環境を整備する
ポイント②:入荷管理を徹底する
ポイント③:ロケーション表示を簡略化する
ポイント④:確認作業を処理作業化する
ポイント⑤:注意力を喚起する工夫を随所に盛り込む
ポイント⑥:バーコードを活用し、リアルタイムで正確な在庫管理を行う
ポイント⑦:バーコード管理の環境を整える ← 今回はコレ!
バーコードを導入すれば倉庫管理の効率が高まり、ヒューマンエラーは激減する。確かにそのとおりですが、ミスが完全になくなるわけではありません。
その典型例は、バーコードが機能する環境が整っていないケースです。そもそも商品にバーコードラベルが付いていなければ、バーコードによる管理はできません。その場合はバーコードラベルを発行し、商品に貼る作業が必要です。
ところがここでも問題が生じます。バーコードの発行と貼付は、アナログ作業です。これまで何度もお伝えしましたが、人手に頼る限りヒューマンエラーは必ず起きます。その確率が仮に0.1%であったとしても、バーコードの発行や貼付の間違いは100%誤出荷につながります。
例えば異なる商品のバーコードを貼り付けてしまうと、いくら正しく読み取ってもラベル自体が間違っているので誤出荷になってしまいます。
バーコードを発行し、貼付後、出荷前に再びチェックするといった業務フローを整えるなど、万が一のミスを食い止めるための仕組みづくりが必要です。
バーコード管理のミスを防ぐ方法は現場によって異なりますが、ここではどの倉庫でも生かせる工夫策について、三つ挙げます。
① 読み取ったか否か、アナログで分かる工夫
② ピッキングを間違った商品を「どう戻すか」の工夫
③ バーコードを一斉に読み取っているときの区別の工夫
①読み取ったか否か、アナログで分かる工夫
例えば、商品のバーコードを二度読みしたり、読んでいないのに読んだつもりになったり、隣のバーコードの音と勘違いしたり・・・間違うパターンはいくつもあります。なかでも多いのは、商品のバーコードを読んでいるうちに、読み取ったかどうか分からなくなるケースです。例えば作業中に電話がかかってきたり、トイレ休憩に行ったり、誰かに呼ばれたりして作業を中断したあと、持ち場に戻った際「どの商品まで読んだっけ?」となることはよくあります。
● ガムテープで線を引く
こういう場合、難しい対策は必要ありません。ガムテープ一本あれば、事足ります。ガムテープで机にラインを引き、「読み取った商品はこちら側に置く」と決めるだけでいいのです。「そんなに簡単なことで?」と思うでしょう。
しかし実際に、ガムテープのあるなしでミスの起こりやすさは大きく異なります。もちろん現場教育は必須ですが、このルールを守る限り、ヒューマンエラーは起こりません。
また、「バーコードを読み取った商品はカゴに入れる」といった工夫も効果的です。もしくは梱包用のケースをあらかじめ用意し、バーコードで読み取った商品をそのまま梱包する方法もあります。
ポイントは、「誰が見ても分かるように仕分けする」ことです。
スーパーでは空のカゴを置き、バーコードを鳴かせた商品はそのカゴに入れて仕分けをします。分けることで、重複のミスを避けているのです。
たまに買い物をした際、商品を入れたカゴにバーコードの読み取り機を直接差し入れているスタッフを見かけますが、二度読みや読み残しのリスクが高まるので絶対にやってはいけません。自分が購入した商品をそうやってチェックされた場合、「本当に大丈夫か・・・」と心配になってしまいます。
● 正しく「置く」
「置く」という行為は、誰でも間違えずにできると思い込みがちです。しかし〝正しく置く〟ことがいかに難しいものなのか、誤出荷ゼロを追求する過程で私はこれまで何度も痛感してきました。
ガムテープやカゴを導入してみても、バーコードを読み取った商品を置く所定の場所に〝正しく置かなければ〟意味がありません。頭では理解できていても、作業が続くと行動が無意識に支配され、基本的な行動ですらミスを生じかねません。ヒューマンエラーは、往々にして意識が途切れた瞬間を突いてきます。
最終的には、教育がものをいうようです。「正しい場所に正しく置く」という行動を習慣化することで、ケアレスミスは十分に減らすことができます。逆に言えば、日頃からいい加減な作業をしていると、ふとした瞬間にその雑さが出てしまいかねません。
置く、取る、入れるの基本動作を、正しく丁寧に行うための粘り強い教育が、ミス根絶に結びつくのです。
②ピッキングを間違った商品を「どう戻すか」の工夫
バーコードの読み取りでピッキングミスが見つかった場合、その商品を元の棚に正確に戻すことは簡単ではありません。商品に品番は書いてありますが、棚の場所を示すロケーション番号は記載されていないからです。さあ、どう対応すべきなのでしょうか――。
● 商品を〝正しく戻す〟ための業務フローを整える
まず大切なのは、誤ピッキングした商品を仮置きする場所を作り、その場所に〝正しく置く〟ということです。
次に商品を棚に戻す際、何を見て棚の場所を特定するかです。ピッキングリストのロケーション番号と突き合わせる業務フローをつくるなど、仕組みづくりが必要でしょう。
ただし、棚の場所は分かったとしても、異なる棚に間違って入れてしまうリスクがあります。そうなると倉庫内で迷子になりますから、棚に戻したタイミングでバーコードを鳴かせる工夫が求められるでしょう。
誤ピッキングした商品を戻すという作業自体を忘れるリスクも想定しなければなりません。あるいは覚えていても、戻す作業を怠る社員の存在も念頭に置いておく必要があります。
その対策としては、まずその場で「なぜミスが発生したのか」を一対一で徹底指導するほか、業務フローを遵守するよう、教育を粘り強く行っていくほかありません。
いずれにしても大切なのは、ミスが起きる可能性を予見し、誤出荷につながらないための業務フローを確立することです。あらゆるヒューマンエラーを想定し、対処法を構築し、現場に浸透させる努力が求められます。
③バーコードを一斉に読み取っているときの区別の工夫
現場は必ずしも静かな環境ではありません。入出荷作業に伴うさまざまな音が入り混じっています。すると、自分のバーコードでエラー音が鳴ったのか、隣の作業員のエラー音だったのか、聞き分けがつかなくなります。
●「音」で区別する
隣のブザーと混同するリスクを避けるためには、バーコードの鳴き音を変えるのが効果的です。分かりにくさの原因は区別がつかない点にあるわけですから、音を変えるなどして各持ち場のブザー音を特定すれば、問題は解決します。
この場合も、社内SEがいれば仕様変更は可能ですが、システムを外注している場合は、外注先に発注をかけて対応してもらうしか方法はありません。
誤出荷の実例から解明!人為的ミスが起きやすい弱点一覧
これまで私は何十年もの間、倉庫管理と誤出荷の課題に向き合ってきました。そして過去の経験を生かし問題追求を繰り返してきた結果、事故率を大幅に減らすことができました。しかしながら、改めて過去の事故報告書を読み返すと、人間というのは本当に想像もつかないミスを犯す生き物であるな、と気づかされます。
誤出荷事故のほとんどはピッキング作業時に起きていますが、それ以外にも恥ずかしながら、これまでにはさまざまな誤出荷が起きました。以降では参考に、実例を挙げてみます。
(誤出荷の実例)
単位間違いの誤出荷(インナー、スリーブ単位、ダース単位など)/セット商品の片割れ出荷/入荷時の商品バーコードのテレコ貼り(履歴では間違ったことに気づけないパターン)/専用伝票の入れ間違い/誤ピッキングから、棚戻しの間違い/薄い商品の2重ピッキングからそのまま誤出荷/社員のルール無視によるテレコ出荷(1件ずつ処理する作業をまとめて処理)/加工作業で値札の付け間違い/バーコードが読み取れずピッキングリストコードを手打ち、その商品が誤ピッキングされておりそのまま出荷されて誤出荷/台紙差し替えの加工作業での加工ミス(仕上がりがかなり汚く、しわがあり、台紙も曲がっていた)/送り状と送り主と送り先の情報がテレコに送り状に印字されるシステムエラー
これまでさまざまな誤出荷がありましたが、こうした過去の経験から、ヒューマンエラーが起きやすい弱点箇所、甚大な事故を引き起こす箇所を予測し、仮にミスが起きても誤出荷事故につながらない業務フローを作り込んできました。
その結果、現在当社が物流倉庫を管理するほとんどのお客様は、「誤出荷ゼロ」実現を維持しています。
しかしながら月に1回程度、誤出荷を起こしてしまうケースが1社だけあります。出荷指示のデジタルデータをいただくことができず、当社でバーコード管理ができていないケースです。最善を尽くすべく日々改善を積み重ねている最中ですが、つまりバーコード管理は、誤出荷ゼロを実現するために、必要不可欠であるという裏返しでもあるのです。
ともあれ、今後も「誤出荷ゼロ」を実現し続けるべく、倉庫管理の改善とノウハウの蓄積を、高いレベルで追求し続けていきます。
山田 孝治
株式会社三協代表取締役社長