在庫の実態を重要視し、正確に把握している経営者はあまり多くありません。しかし、増加する在庫が経営を圧迫して最悪の事態を招くケースもあります。誤出荷や返品のたびに正しく在庫管理を行えば問題ありませんが、その作業を怠れば、在庫や余計なコストが延々と積み上がってしまうのです。本記事では、経営者が経営判断を誤らないために、自社の在庫管理や流通の実態に目を光らせることの大切さを見ていきます。

デッドストックの著しい増加は「経営悪化」の兆候

倉庫管理が機能していない現場には、共通点が二つあります。一つは5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ+作法)が徹底されておらず、現場が汚いこと。そしてもう一つは膨大な在庫の山が築かれていることです。なかでもデッドストックの著しい増加は経営悪化の兆候ともいえますから、決して見逃してはなりません。

 

ところが社長や経営陣が、倉庫における在庫の実態を把握していないケースは少なくありません。それでは会社経営がいつの間にか悪化し、気づいたときには手遅れに・・・といった最悪の事態に発展する可能性もゼロではないのです。

 

そもそも、なぜデッドストックは増えるのでしょうか。私はお客様によくその理由を聞いてみるのですが、たいてい返ってくるのは「販売数の見込み違いや発注ミスなどで商品を仕入れすぎたから」という回答です。

 

もちろん間違いではありません。仕入れすぎたり、発注ミスをしたりすれば在庫が増えるのは当然です。しかしそうした販売計画や生産計画といった、マーケティング戦略だけでは解決できない問題も潜んでいます。実は物流現場にも、デッドストックが増える要因はたくさんあるのです。

 

まずは、「入出荷作業の遅れ」です。せっかく売れる商品を仕入れたにもかかわらず、入出荷作業の遅れで販売機会を失ってしまい、そのまま倉庫に在庫として積み上げられてしまいます。新たな販売計画を立てない限り、そのまま何年もスペースを占有し、物流コストがかかり続けます。

 

続いては、「返品対応の遅れ」です。リバイバル作業の遅れが常態化すると商機を逃し、売れるはずの商品が売れないデッドストックに変わってしまうのです。

 

そして最後は「誤出荷」です。一見すると誤出荷と在庫は無関係に思えますが、ここに無駄な在庫を増やす落とし穴が潜んでいます。

 

例えば、誤出荷事故を発生させてしまったとき、現場でどのような対処をするでしょうか。クレームに対応し、本来の商品をお送りする。これだけで対応を終えているケースは少なくないはずです。

 

しかし本当は、そこからが誤出荷対応のはじまりなのです。まず誤出荷した商品Aは、システム上では在庫が「1」減っています。しかし、実際には誤って別の商品Bを送ってしまっているわけですから、誤出荷した商品Aの実在庫は減っていません。つまり、システム上は存在しない実在庫が棚に残っているのです。

 

この問題を放置するとどうなるでしょうか。システム上には存在していないわけですから、その商品Aに新たな出荷指示が出ることはなく、延々と倉庫に埋もれ続けることになるのです。

 

一方、間違えて送ってしまった商品Bは、出荷指示がなかったにもかかわらず倉庫の実在庫が減っています。これが、システム上は「1」あるはずの商品Bが、棚にはない状態の出来上がりです。商品を取りに行って棚になかったケースを前述しましたが、こうした原因も考えられるのです。

 

誤出荷を起こした際に適切な対処をせず、本来の商品を再発送するだけで済ませてしまうと、システム上存在しない実在庫が、倉庫のどこかで眠り続けることになります。同時に、システム上では欠品扱いとなり、余分な追加発注で在庫はさらに増えます。

 

つまり、誤出荷によって〝見えない在庫の増加〟と無駄発注による〝余分なコスト〟が発生するという、非常に効率の悪い倉庫管理が常態化していくのです。その結果、いつの間にか「なんだか無駄に在庫が多い気がする・・・」と釈然としない状況に陥ってしまうわけです。

 

誤出荷を出してしまったら、本来はすぐにその商品を探し出し、システムを修正して実在庫の数と合わせなければなりません。そのうえでクレームに対応し、実際にお客様が注文した商品を送る準備を整える。そうすれば在庫は適正に保たれ、必要のない追加発注も避けることができます。

 

こうして見ていくと、誤出荷を一度出すだけで多くの物流コストが余計にかかることが分かります。クレームに対応する手間やシステムを修正する費用、再発送にかかるコスト、リバイバル作業にかかる人件費はもとより、在庫の増加と余分な追加発注まで招いてしまいます。

 

誤出荷は百害あって一利なし。普段から誤出荷を出さないことを意識し、仮に誤出荷を発生させた場合でも正しい処理をしていく。その地道な積み重ねが適正在庫の維持につながるのです。

企業の倒産は、倉庫を見れば見当がつく

「この会社は業績が落ち込んでいるな」「このままいくと倒産するかもしれない」――。これまで数多くの物流倉庫を見てきた経験から、そんな経営悪化の兆候がなんとなく分かるようになりました。「一事が万事」といわれるように、「倉庫」という一事に「経営」という万事が現れているように思います。

 

リスク要因の典型例は、やはり売れることのないデッドストックの増加でしょう。その背景には、経営のさまざまな問題点が隠れているからです。

 

倉庫現場や適正在庫を重視しない経営陣の意識や現場からトップに情報が上がらない組織体制、在庫を残さず売り切る販売戦略の不備・・・少し考えてみるだけでも、さまざまな問題点が挙げられます。

 

にもかかわらず、企業の経営陣はあまり倉庫を重視しません。ただでさえ物流倉庫は本社から離れているケースがほとんどです。そのうえ経営者の意識からも切り離されてしまえばどうなるか。やがて倉庫は無法地帯となり、あらゆる経営の澱(おり)が溜まっていくことになります。

 

例えば、倉庫は不正会計の舞台になりやすいという負の一面があります。業績を良く見せるために実在する在庫を売れたように見せかけたり、来期の売上を今期に前倒ししたり・・・特にノルマが厳しい会社などでは、経営者の目を盗んで現場の独断で行われてしまうリスクもあります。

 

いずれのケースにも当てはまるのは、倉庫の実在庫が動いていない点です。そのため実在庫と決算資料の数字に差異が生じるわけですが、本社の社長室で試算表や決算書を眺めている限り、経営者はその実態をつかむことはできません。

 

こうした不正会計が発覚すれば企業として罰則を受けるのはもちろん、経営判断を見誤るリスクもあります。操作された数字を根拠に経営戦略を練り上げてもベースが間違っているわけですから、効果的な経営の打ち手を導き出すことはできないでしょう。

 

倉庫の不正行為に、循環取引と呼ばれる古典的な手法もあります。これは商品を動かすことなく、いくつかの会社の間で伝票と資金だけを循環させて、お互いに売上の水増しを図る不正取引です。A社からB社へ、B社からC社へと商品を伝票上で売買していき、最終的に元の会社が買い戻す形をとります。

 

なぜ、このような不正取引が行われるのか。一つは業績を良く見せるためでしょう。または資金繰りに行き詰まった会社の場合、循環取引で商品を架空販売して手形を入手した後、割り引いて現金化して返済に充てるといった不正も行われることがあるようです。

 

しかし、得意先と示し合わせて循環取引を行い、一時的に売上を計上してキャッシュを手にしたとしても、最終的にはまた買い戻す必要があるわけです。客観的に見れば呆れた不正行為に映りますが、そこまでしてでもキャッシュが必要という裏返しでもあります。すでに経営としては破綻し、不正でごまかしている状態なのです。

 

その典型例が、かつての名門Kでしょう。繊維会社だったKは毛布メーカーと結託し、大規模な循環取引を繰り広げました。その結果、最終的に破綻に追い込まれ、事業が切り売りされたのはご承知のとおりです。大量の毛布が倉庫に眠る一方、伝票だけが空中を漂うことから、繊維業界では循環取引が〝宇宙遊泳〟とも呼ばれていたそうです。

 

こうした大がかりな不正行為は経営陣が関与していると思いますが、在庫の水増しや期ズレを利用した売上の操作などの場合、現場主導で行われる可能性も往々にしてあります。さらに不正行為が行われる会社に限って、トップと現場に乖離があることが多く、現場の情報がトップに伝わらないのです。

 

「そういえば最近、倉庫に行っていないな」

 

そう思った経営者の方は、明日にでも抜き打ちで倉庫を訪問してみてください。特に業績が伸び悩んでいる企業の場合、経営悪化の兆候はどこかに潜んでいるはずです。売れない在庫が積み上がっていたり、商品が乱雑に置かれていたり、掃除が行き届いていなかったり、高価なシステムが使われていたり、パートやアルバイトがおしゃべりに夢中になっていたり・・・。そのような問題を見つけたら、御社の経営には黄信号が点灯しているとみていいでしょう。

 

倉庫に足を運び、経営の問題点を把握する。効果的な経営の打ち手を考えるためにも大切なことではないでしょうか。

 

 

山田 孝治

株式会社三協代表取締役社長

 

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

山田 孝治

幻冬舎メディアコンサルティング

自社倉庫を持つ中小企業が抱える、あらゆる倉庫管理の喫緊の課題・・・ その解決策は、現場一線で〝物流品質〟(正確さ、スピード、コスト)を追求し続ける東大阪の倉庫業にあった! 「誤出荷ゼロ」「在庫差異ゼロ」「入出庫…

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