これまでの企業間物流におけるビジネスの相手はあくまでも「企業」であり、扱う荷物は少品種・大ロットが多く、入出荷作業は比較的シンプルでした。しかし、ネット通販が日常化し、顧客が企業から個人になったことで、業務は一気に複雑化します。今回は、物流の現場の混乱と、さばききれない返品の山によって、企業がせっかくの商機を逸してしまう問題を取り上げます。

かつては「少品種・大ロット」の荷物が多かったが…

BtoC物流の発達により、倉庫現場はたちまち混乱をきたすようになりました。理由の一つは〝商売相手が企業から消費者に切り替わった〟ことにあります。

 

従来の企業間物流の場合、商売相手は卸会社や小売店といった〝企業〟なので多少の融通が利きました。さらに少品種・大ロットの荷物が比較的多く、入出荷作業もそれほど複雑ではなかったのです。ところが相手が〝消費者〟となると様相は異なります。

 

これまで1件の注文であれば1箱(1000個)分の対応で済んでいた業務が、1000件の注文があれば1000人分の顧客とのやり取りが発生するようになったのです。つまり、これまでの業務(ピッキングや送り状、梱包の作業)も1000倍になるということです。卸中心の商売(BtoB)をしていた企業がネット通販(BtoC)にチャレンジしても、物流品質(正確さ、スピード、コスト)が低ければ商売は成り立たないのです。

 

事実、当社の経験上、〝ネット通販のクレームの9割は商品の未着やサイズ間違いなどによる誤出荷がらみ〟といっても過言ではありません。商品自体のトラブルや問い合わせよりも、出荷ミスが大半を占めているのです。

 

例えば農業機械や農業資材などを扱う当社のお客様の場合、従来は卸と通販の割合が半々で商売を展開されていました。当初は少人数で社内物流を担われていましたが、通販の売上が上がるにつれて取引量が拡大したことから、2拠点を物流アウトソーシング会社に業務委託していた経緯があります。

 

そうして、次第にEC企業などの取引先が増え、物流業務全体が複雑になってきました。その結果、さまざまな商品の取引量が増加し、欠品や過剰発注、在庫精度の低下、残業といった問題が頻発するようになったのです。

 

さらに、某有名EC企業からは「物流を改善してほしい」「欠品率を○%以下にしてほしい」といった要望が入るようになりました。「納入スピード」や「商品の品揃え」などの要望を満たす倉庫管理ができていなかったのです。

 

その後は当社が物流業務を請け負い、誤出荷ゼロ・在庫差異ゼロに挑戦した結果、作業効率や保管効率の大幅改善につながりました。5章で詳述していますが、卸主体の企業がネット通販で売上を伸ばしていくためには物流品質を高めていく努力が不可欠である──このことを示す好例といえるでしょう。

ネット通販が日常化し、倉庫管理はどんどん複雑に

さらにもう一点、物流のBtoC化で倉庫現場が混乱をきたす理由があります。ネット通販の日常化で荷物の種類が多様化し、かつ入出荷の多頻度・小口化が進んでいることです。

 

いまや日用品から食料品、洋服や書籍、趣味グッズなど、あらゆるモノがネット通販で購入できる時代になりました。それに伴い物流倉庫は多品種、小ロットの商品を取り扱う必要に迫られ、倉庫管理がどんどん複雑になっているのです。

 

同時に「返品対応」も倉庫作業の負担を強めています。例えば、洋服や靴などサイズが異なる商品の場合、〝試着後の返品可〟をウリにする販売業者も出てきました。そうなると倉庫からの出荷量が増えるほど返品で戻ってくる商品も多くなり、現場の混乱に拍車がかかってしまいます。

 

返品された商品は、すぐ出荷できる状態にしなければ販売の機会損失につながります。さらに一般消費者からの返品の場合、入荷予定が守られないケースや、入荷予定日さえないケースがほとんどであるため、現場の負担はさらに大きくなります。

 

しかもサイズ交換などの返品の場合、入荷と同時にサイズの異なる商品や同額の商品を出荷する業務が紐づくことも多いため、社内の情報共有が徹底されていなければなりません。

 

このように、BtoC物流によって小ロット・多品種・多頻度・即時対応の倉庫管理が不可欠となり、新たに消費者対応力やサービス力まで求められるようになってきたわけです。

当日配達は物流現場を酷使した綱渡りのサービス

BtoC物流が現場を苦しめている象徴が、某有名EC企業の即日配達サービスでしょう。確かに消費者にとっては非常に便利なサービスですが、物流現場にとってはたまったものではありません。

 

出荷指示を受けた倉庫現場では、荷役作業を経て商品を出荷します。具体的には、出荷指示書(ピッキングリスト)をもとに作業員が倉庫内の商品を探して棚から取り出し、検品と梱包作業を行います。そして、送り状や納品書などの書類を発行した後、ようやく出荷に至ります。さらに包装や流通加工の作業も必要に応じて行います。

 

一見すると簡単な作業に思えますが、現場では膨大な量の荷物を扱うわけですからまさに戦争状態です。

 

一連の荷役作業を経て出荷された商品を積み込み、運ぶのは運送会社の仕事です。当日配達を可能にするためには集荷時間のシビアな管理が求められるのはもちろん、最終の物流拠点から消費者に届けるまでの〝ラストワンマイル〟も課題です。受取人が不在の場合は再配達の手間が生じます。

 

以上の物流の流れのどこか一箇所でも滞れば、当日に配達を完了させることはできません。即日配達サービスは、物流現場を酷使した綱渡りのサービスにほかならないのです。

返品対応の遅れが大きなダメージに⁉

加えてBtoC物流の場合、未熟な倉庫管理が経営に与えるダメージは小さくありません。なかでも先ほど触れた返品対応はBtoC物流の大きな課題の一つです。

 

アパレル商品を扱う物流倉庫では、年末商戦などで倉庫作業がピークに差しかかるほど返品数も増加し、〝忙しい時期に限って手間も増える〟という二重苦が現場を襲います。

 

出荷が多い時期は入荷も多く、現場は入出荷の作業に追われるものです。そのうえ返品対応まで迫られても、現場としては「お客様の注文に早く応えなければならない」という意識が働くのは当然です。その結果、入出荷を最優先し、返品作業は後回しになってしまうのです。

 

返品対応が後手に回るのは、その作業負担の大きさにも原因があります。消費者の手に渡った商品は、必ずしも出荷時のようなきれいな状態で戻ってくるとは限りません。むしろ化粧箱や外装が破損していたり、バーコードのタグがなくなっていたりすることも日常茶飯事です。

 

さらに返品は入荷と異なり、事前情報がほとんどありません。小ロット・多品種の商品を扱っている場合、バーコードが付いていないと商品名すら判別がつかないケースも多々生じるのです。そうした状態から再び販売できる商品に再生するためには、実に途方もない手間と時間がかかります。

 

ところが、作業が大変だからという理由で返品作業を怠ると、売上に悪影響を及ぼしてしまいます。

 

そもそも消費者から返品されてくるのは〝売れ筋商品〟であるケースが少なくありません。なかでもトレンド重視のレディースアパレルは生鮮食品と同じで、スピードが命です。返品後に即リバイバルし、棚戻しができれば販売機会の波に戻せます。デッドストック(売れ残り品、長く倉庫に保管されている商品)を出さないことにもつながるでしょう。

 

しかしそのリバイバル作業が後回しになると、その後の顛末は見当がつきます。返品されてきた商品が溜まるほど処理をするのが億劫になり、やがて倉庫の隅でうず高く積まれるようになるのです。

 

その結果、目の前に売れる商品があるにもかかわらず、販売チャンスをみすみす逃し、売上の低下を招いてしまうのです。

 

また、売れずに残った在庫は倉庫スペースを占領し、保管料がかかり続けます。だからといって在庫を吐き出すために安売りをすれば利益率が低下しますし、販売機会を逃した季節商品を定価で売り続けてもなかなか売れません。その後も売れずに残り続けると、せっかく仕入れた商品の価値が失われ、単なる〝ゴミ〟になってしまいます。

 

最終的には処分を余儀なくされ、損失計上によって業績を押し下げることになるでしょう。返品対応の遅れは機会損失を招き、どのような善後策を講じても経営への悪影響は避けられないのです。

 

 

山田 孝治

株式会社三協代表取締役社長

 

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

誤出荷ゼロ!自社倉庫管理術

山田 孝治

幻冬舎メディアコンサルティング

自社倉庫を持つ中小企業が抱える、あらゆる倉庫管理の喫緊の課題・・・ その解決策は、現場一線で〝物流品質〟(正確さ、スピード、コスト)を追求し続ける東大阪の倉庫業にあった! 「誤出荷ゼロ」「在庫差異ゼロ」「入出庫…

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