「遺産分割」の調停・裁判件数は年々増加傾向にある
◆相続対策の三本の矢
相続対策には、どういったものがあるのでしょうか。相続対策は、大きく次の3つに分類することができます。
① 遺産分割対策
② 納税資金対策
③ 相続税対策
「遺産分割対策」はずばり、遺産を相続人の間で円満に分割するための対策のことです。そして「納税資金対策」は、その相続税額分のお金を用意する方法を指します。また、「相続税対策」は、できるだけ相続税が安く済むように工夫することです。これら3つに優先順位をつけ、バランスよく取り組むことによって、家族の状況に応じた相続対策が可能になります。
◆相続対策の優先順位は?
それでは、相続対策はどのようにすすめればよいのでしょうか。「相続対策の三本の矢」のうち、まずは、最も重要な「遺産分割対策」からはじめることをおすすめします。いくら相続税の税金対策をしても、遺産分割がまとまらなければ、もとも子もありません。
「うちの財産は自宅と少しの貯金ぐらいなので、相続対策なんか必要ない」、「うちにかぎって相続でもめるわけがない」。このような話をよく聞きますが、司法統計年報(平成27年版)を見てみると、遺産分割の調停・裁判件数は年々増加しています。調停件数のうち遺産総額5,000万円以下の案件の割合は、76%(内1,000万円以下が32%)にもなります。これは、調停・裁判になった10件のうち、実に7件以上のものが、財産額が5,000万円以下の相続トラブルであるということです。
したがって、相続税がかかる/かからないに関わらず、遺産分割で親族が争う「争続」につながる可能性があります。もはやお金持ちの人たちだけの問題ではないということです。では、なぜ遺産額が少ない場合でも、遺産分割トラブルが発生しているのでしょうか。
その要因は、ずばり不動産です。遺産分割事件のうち86%は、遺産に不動産を含んでいます。そのなかでも、特に自宅などの不動産には、わけにくい/わけられないという性質があります。遺産のうち、現金預金など「わけやすい財産」が占める割合が低く、「わけにくい不動産」の割合が高いと、公平な分割が難しくなり、トラブルが発生するのです。
このような場合、どういった対策を講じることができるのでしょうか。一般的には以下の方法が考えられます。
●不動産などの分割が困難な財産から金融資産などの分割可能な財産への組換え
●代償金の準備
●家族信託や遺言書の作成
◆納税資金対策
次に「納税資金対策」を行います。突然に相続が発生した場合、相続税を納めるための現金が不足すると、相続発生後の相続人の生活に直接影響します。相続人の不安を取り除くためにも、まずは納税資金を確保しておきましょう。
これら2つをすすめながら、あわせて「相続税の軽減対策」を行うのが一般的です。さらに、家族の状況、相続財産の種類と金額、相続税率や相続発生までの期間を考慮しながら計画的に実行しましょう。もちろん、親族状況の変化・税制改正の動向などを踏まえて、定期的に見直す必要があります。
認知症になると相続対策ができないため、早めの対応を
2016年の厚生労働省の発表によると、日本人男性の平均寿命は80.98歳、女性は87.14歳です。ただし、心身ともに自立して健康的に日常生活を送れる「健康寿命」は、男性72.14歳、女性74.79歳となっています。
そして、平均寿命から健康寿命を差し引いた期間を「不健康期間」といいます。計算すると、男性が8.84年、女性は12.35年となります。この期間において、1/3にあたる人が、自分の財産管理が困難な状況になるといわれています。
その原因としてよく挙げられるのが、認知症です。内閣府が作成したデータでは、2025年には、65才以上高齢者の5人に1人、つまり20%は認知症になると報告されています。あらゆる家庭にとって他人事ではなくなるのです。
認知症になってしまうと財産管理が難しくなるため、本人の持っているすべての財産が凍結されてしまいます。そうなってしまうと、生前贈与・不動産の建設や売買・生命保険の加入・遺言書の作成・家族信託など効果的な相続対策の大半ができなくなるという問題が発生します。
人間いつ何があるかはわかりません。相続対策は、早く始めればその分大きな効果が得られます。まずは家族で時間を作り、相続財産や分配の方法について話し合ってみてはいかがでしょうか。
相続対策の結果、「相続」が「争続」になってしまっては、意味がありません。相続財産をもらう立場の人・遺された家族が仲良く幸せでいられるよう、円満に相続を迎えるには、元気なうちにしっかりとした相続対策をしておくことが大切です。
ひかりアドバイザーグループ
ひかり税理士法人