米中間における報復関税の応酬は一旦休戦
この週末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて、29日にトランプ米大統領と習近平中国国家主席との会談が予定されている。貿易の停滞から世界の経済成長には不透明感が強まっており、通商問題で進展はあるのか、世界中から注目が集まる。
24日には、この米中首脳会談での議論の内容をめぐって、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と劉鶴中国副首相が電話会談を行った。中国商務省は、この会談で貿易と経済問題に関して意見交換したことを発表した。関係筋の話として、電話会談は生産的に行われ、5月の第11回米中閣僚級協議以降、停止したままの通商協議再開への道を開くことを目的とする点を確認したと、米報道(ブルームバーグ)は伝えた。
背景には、エスカレートしてしまった報復関税の応酬を一旦落ち着かせ、通商交渉を再開し、世界の金融市場の不透明感や不安を解消する狙いがあるという。しかし、具体的に何をどうするかまでを両国で取り決めているわけではない。
米国側が、中国からの輸入品3000億ドル(約32兆1500億円)相当への関税実施の先送りという譲歩をしたことで、中国政府は首脳会談の開催に応じ、協議再開への道筋をつけたようである。ただ、今回の米中首脳会談で具体的な通商合意に至るとは予想しがたい。
中国・メキシコとの関係悪化は米国消費者にも影響
経済状況に関しては、25日に発表された米民間調査機関コンファレンスボード(The Conference Board)による米消費者信頼感指数(6月)は、121.5と、事前の予想である131.0を大幅に下回った。現況指数も前月170.7から162.6へと低下。これは約1年ぶりの低水準である。期待指数も、前月の105.0から94.1に急低下した。
貿易や関税合戦で、米国が中国やメキシコと対立を深めていることが消費者の信頼感に影響を及ぼしている可能性がある。「新車を購入する計画がある」との回答は低下し、やはり過去1年ほどで最低の水準である。「家電を購入する予定」との回答は15年1月以来の低水準を記録し、現在「仕事が豊富にある」との回答も44%に落ち込んだ。当面、堅調を維持すると予想されていた米国の消費の先行きが曇り始めたと捉えることもでき、米国経済に対する楽観的な見方が後退し始めている。
市場では、このところの予想よりも弱い経済指標を受けて、7月末に開催される連邦公開市場委員会(以下、FOMC)で米FRBは利下げを判断するとの見方が大半を占めるようになってきた。フェデラルランド(FF)金利先物市場では、7月のFOMCでの0.25%の利下げ実施をほぼ100%織り込んだ水準にある。利下げ幅が0.5%に及ぶと予想する声すらある。
そんななか、パウエルFRB議長は6月25日にニューヨークで講演し、期待に反して米中通商協議が5月以降停滞したことによって、経済の先行きの不確実性が高まる方向に転じ、世界経済の成長に対する懸念が再燃していることを認めた。パウエル議長の講演は、先週のFOMC後の声明と会合後の記者会見での発言と整合性のとれた内容だった。
同氏は「昨年12月以降、様々な要因の変化」があったことに言及し、世界経済成長予想が年初の見通しから相当に低下していると指摘。これは、2018年の一連の利上げをFRBの判断ミスだと糾弾するトランプ大統領への反論であるようにも取れる。
今後については、「FOMC参加者の多数が、いくぶんか緩和的な政策の論拠が強まったと判断している」と語り、緩和方向への金融政策の変更を認めた形である。ただ、パウエル議長は、実際利下げする場合に、いつどれくらいの幅で行うのかについては直接的に言及せず、「万が一経済の弱さが見えれば、インフレ期待の押し上げを図るため、早めの対応が好ましい」と、予防的な利下げがあり得るとの見方を示した。
話を今週末の米中首脳会談に戻すが、トランプ政権にとっても、経済指標が米国経済の減速感を強めていることを示唆し始めたことは意識せざるを得ないだろう。従前から指摘しているが、「1期目の政権3年目」の経済状況は、再選への重要な要因である。関税合戦をエスカレートさせるより、停戦して通商交渉の扉を開けるほうが、好ましいシナリオであることは明白だろう。両首脳がどういう判断をするかは会談するまでわからないが、会う以上は、5月の通商協議のような決裂にはならないのではないだろうか? 最悪のシナリオからは脱することを世界も望んでいる。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO