本記事では、年間1000件以上の日帰り白内障手術を手掛ける、医療法人敬生会フジモト眼科・理事長兼院長の藤本雅彦氏が、術式、費用、手術の最適なタイミングなど、一生に一度の「白内障手術」で後悔しないための基礎知識をわかりやすく解説します。今回は、白内障のメカニズム、白内障治療の具体的な手術方法等について見ていきます。

水晶体のタンパク質の一部が変性して濁り、白内障に…

 後悔しないための基礎知識●白内障とは? 

 

複雑な目の仕組みに対して「白内障」はどんな支障をもたらすのでしょうか。白内障は水晶体に起こる病気です。正常な水晶体は透明で光をよく通しますが、白内障にかかると水晶体が濁って光を通しにくくなります。その結果、光に乱反射が生じて網膜に鮮明な像を結べなくなり、ものの見え方に支障が出てきて視力を低下させます。

 

この濁りの成分はタンパク質です。前回、水晶体の中身はタンパク質と水分であると書きましたが、そのタンパク質の一部が変性して濁ると白内障になります。

 

[図表1]白内障の症状
[図表1]白内障の症状

 

もう少し詳しく言うと、タンパク質の変性は、実は白内障を発症する前にも水晶体の内部で起きることがあります。水晶体のタンパク質は「αクリスタリン」「βクリスタリン」「γクリスタリン」と呼ばれる水溶性タンパク質を中心として、複数の種類で構成されています。

 

その中のαクリスタリンが水晶体の異常を修復する機能(シャぺロン機能)をもっており、水晶体に濁りが生じると透明性を維持しようと働きます。

 

ところが、さまざまな原因により、αクリスタリンの修復機能が失われると、異常タンパク質が凝集してしまい、混濁(いわゆる白内障)が発症します。

 

濁りの色は、白内障の進行によって徐々に変わっていきます。初期は白濁や乳白色ですが、進行すると黄色味を帯びた濁りになり、さらに悪化すると茶色、黒色へと変色します。

 

色が濃くなるにつれて、硬さも増していきます。そして硬度が上がるほど、それを取り除く白内障手術の難易度も上がります。

水晶体の代わりに「眼内レンズ」を入れる方法が一般的

 後悔しないための基礎知識●白内障手術とは? 

 

白内障を根治(完全に治すこと)するには、今のところ、白内障手術を受ける以外に方法はありません。

 

白内障治療に使われる点眼薬や内服薬もありますが、これらの薬剤は白内障の進行を遅らせるためだけのものです。水晶体の濁りを解消するのではなく、濁るスピードを遅くさせるだけですから、現在の目の見え方に不自由さを感じているのであれば、水晶体の濁りを取り除く白内障手術が根本的な治療となります。

 

第1回で触れましたが、現在の白内障手術は、主に「超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術」という方法で行われています(関連記事『進歩した白内障手術だが…患者の不満・後悔が増えているワケ』参照)。

 

超音波乳化吸引術(PEA=phacoemulsification and aspiration)とは、漢字が羅列して難しそうに見えますが、原理はとても簡単です。超音波で水晶体を砕き、砕いたものを吸引して濁りを取り除くという内容です。

 

眼内レンズ挿入術とは、取り除いた水晶体の代わりに眼内レンズを入れる方法を指します。

 

[図表2]白内障手術のイメージ
[図表2]白内障手術のイメージ

 

ほかにも患者さんの目の状態によっては「嚢外(のうがい)摘出術+眼内レンズ挿入術」など別の手術方法を用いることはありますが、前述したとおり、現在日本で行われている白内障手術のほとんどが「超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術」といわれています。

 

これは眼科医、眼科学会全体が同じ見解を持つ「現在の最善の手術方法」として確立しているといえます。日本全国、どの眼科へ行っても、一定の質を担保した白内障手術を受けられる状態になっているのです。

 

問題は「眼内レンズ」です。手術が無事に終わったにもかかわらず、眼内レンズの選び方を間違ったせいで、手術後に後悔や不満を持ってしまう人が後を絶ちません。

 

眼内レンズの種類は、今もなお増え続けています。新しい機能を持った製品が次々と開発される中、眼科医はそれぞれの有効性や安全性を注意深く検討し、実際の手術で取り入れるものを選んでいます。そのため、日本全国で同じ「超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術」の白内障手術が行われていても、使用する眼内レンズの種類は、病院やクリニックによってまちまちなのです。

 

最もオーソドックスな「単焦点眼内レンズ」のみを扱っているところもありますし、日本ではまだ使用例の少ない、最新型の海外製品を独自で取り寄せ、治療に用いているところもあります。

 

例えば私のクリニックでは、白内障手術に用いる眼内レンズは「日本の厚労省が認可した製品」という基準を設けています。高性能で付加価値の高そうな新製品が登場すると、ひと通り確かめますが、それをすぐ治療に使用することはしません。

 

万が一の場合のリスクを考えると、やはり症例数が多く、国が有効性・安全性を認めた製品のみを用いるほうが、患者さんの目を守ることにつながると考えているからです。

 

患者さんからすれば、白内障手術を受ける病院やクリニックによって、使用できる眼内レンズと使用できない眼内レンズがあるということです。その現状を踏まえ、病院やクリニックの情報を集めたり、受診した際に直接聞いてみたりするなどした上で、自ら使用可能な眼内レンズの種類を確認し、判断することをおすすめします。

 

 

藤本雅彦

医療法人敬生会フジモト眼科 理事長兼院長

「白内障手術」で絶対に後悔しないための本

「白内障手術」で絶対に後悔しないための本

藤本 雅彦

幻冬舎メディアコンサルティング

「白内障手術は日帰りで簡単に受けられるようになった」 「プロに任せておけば安心」―― 白内障手術に対する過度な期待は大間違い!? 手術後に後悔しないための白内障手術とは

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