日常生活で不自由さを感じなければ手術の必要はない
白内障手術で何より大切なことは、手術後の患者さんの生活が、手術前より快適になることです。そのため、次の3つのポイントで「今すぐ白内障手術が必要かどうか」を検討します。
①メガネをかけても視力が両眼で0.7を下回っている
視力検査の数値は〝見え方〟を客観的に判断する材料になります。どの程度を「視力が低下した状態」の基準にするかは、医師や病院、クリニックの見解によりますが、私のクリニックでは、運転免許証の取得・更新に必要な視力を一つの目安にしています。
一般的な普通自動車を運転するために必要な普通免許では「両眼で0.7以上、かつ片眼でそれぞれ0.3以上であること(眼鏡等による矯正視力も可)」が条件です(2019年3月時点)。これを下回っている場合は「視力が低下した状態」と判断して白内障手術の検討に入ります。
②患者さん自身が日常生活で「見えにくい」と感じている
例えば、メガネをかけた両眼の視力が0.5しかなくても、患者さん自身が日常生活で不自由さを感じていなければ、白内障手術はしないほうがいいと私は考えています。
視力0.2でも「テレビや新聞を読むときも困っていません」と言う人がいます。そういうときに、「知らないうちに見えにくさを我慢しているはずです」「今よりもっと見えるようになるから、手術したほうがいいですよ」と強くすすめることはしません。
反対に視力が1.0でも「目がかすむ」「まぶしい」といった自覚症状で日常生活に支障を感じている人には、「その症状は白内障手術をすれば解消できますよ」と手術をすすめます。つまり、患者さん本人の感じ方次第なのです。白内障手術自体はすぐに終わりますが、患者さんは手術後の目を、一生使い続けることになります。急いで手術をしないと手遅れになるような状態でない限り、本人の意思を尊重して治療方針を立てたいものです。
③老眼がある程度、進行している
40代になると多くの人が老眼を感じ始めますが、その症状や進行のスピードは千差万別です。老眼は簡単に言うと、加齢が原因で水晶体が硬くなったことによって起きます。水晶体は厚くなることで近くにピントを合わせ、薄くなることで遠くにピントを合わせていますが、硬化して厚みを変えられなくなるため、ピント調節が困難になるのです。
まだ老眼がそれほど進まず、水晶体のピント調節が機能している状態の人が白内障手術を受けると、手術後に「急に老眼が進んでしまった」と感じることが多いようです。水晶体の代わりにピント調節ができない眼内レンズを入れるため、厳密には老眼が進んだわけではないのですが、裸眼で遠くが見える分、近くが反対に見づらくなるのです。
こうした理由から、私は老眼がまだ進んでいない世代の人には、あまり白内障手術をおすすめしていません。「目がかすむ」「まぶしい」といった症状がない限り、早急に手術をしても、かえって目の見え方に不満を持ってしまいやすいからです。
白内障手術を受ける「メリット」と「デメリット」
白内障手術を受けるメリットとデメリットについては、白内障の状態によって個人差があるので、あくまで一般論として受け止めてください。
◆メリット
低下した視力が回復する
白内障が原因で低下した視力は改善されます。例えば「目がかすむ」「まぶしい」などの症状がなくなり、見やすくなります。
屈折異常を矯正できる
眼内レンズの種類と度数を選択することで、遠視や近視、乱視などの屈折異常を矯正できます。白内障を治すだけでなく、見え方を以前より向上させてくれるプラスαのメリットがあります。
◆デメリット
ピントの調整力を失う
水晶体には目のピントを合わせる機能があるため、手術で水晶体を人工の眼内レンズに代えるとその機能が失われます。
ただ、加齢性白内障の患者さんはほとんどの場合、すでに老眼が進行している年齢です。老眼は目のピント調整力が衰えている状態ですから、「白内障手術を受けたせいで、ピントが合わせにくくなった」と感じることは、あまりありません。
メガネの着用が前提
ピントの調整力が失われた分、メガネで機能を補う必要があります。特に単焦点眼内レンズは1点にしかピントが合わないため、例えば遠方重視でレンズの度数を選んだ人は、読書などで近くを見るときメガネが必要になります。
近方重視でレンズの度数を選んだ人は、車の運転などで遠くを見なければならないときにメガネが必要です。
なお、多焦点眼内レンズは2点または3点に焦点が合うため、メガネを必要とする頻度は単焦点眼内レンズに比べるとかなり減ります。それでも若い頃のような調節力とは異なりますから、メガネがまったく不要になるというわけではありません。
中には「白内障手術をしてメガネがまったく要らなくなった」と言う人もいますが、残念ながらそれは、稀なケースだと考えてください。
さて、これらを踏まえた上で「白内障手術を受ける」と決まったとしましょう。次のプロセスは「手術前検査」となります。