白内障手術は合併症の頻度も非常に低い手術だが…
手術前検査によって、患者さん個々の「白内障手術への備えや希望」が分かります。医師は検査結果から、以下の内容を注意深く確認しながら、手術に備えます。
①手術後の見え方にどの程度の改善が期待できるか。患者さんの要望を解決できそうか。
②手術の難易度に影響する病状はないか。
③合併症を引き起こす危険性の高い病態はないか。
④手術に影響する全身的な疾患はないか。
白内障手術は合併症の頻度も非常に低い手術ですが、万が一の場合に備えてあらゆるリスクを想定することも医師の務めです。具体的に、手術に影響を及ぼす可能性のある眼疾患の名称をまとめておきましょう。
<手術後の見え方に関わる眼疾患>
◆角膜混濁・角膜白斑(はくはん)・角膜瘢痕(はんこん)
角膜の中央部に混濁や白斑、瘢痕(外傷などの傷あと)などがあると、白内障の手術をしても見えにくさや乱視が残る場合があります。
◆強度近視
眼球に変形が見られる強度近視の場合、網脈絡膜(もうみゃくらくまく)萎縮、脈絡膜新生血管、黄斑変性などの疾患を合併する確率が高くなります。白内障手術で若干、視力を改善することはできますが、手術前後にわたって注意深く経過を観察します。
◆角膜内皮細胞障害
角膜内皮細胞障害などによって手術前から内皮細胞の数が少ない場合、白内障手術で角膜に浮腫(ふしゅ)が起こりやすくなります。浮腫が継続して進行すると、水疱性角膜症になって極度の視力低下を招くことがあります。
◆糖尿病網膜症
手術後に黄斑浮腫を発症し、視力が低下することがあります。
◆網膜剥離(はくり)・網膜裂孔(れっこう)
失明の恐れもある重大な病気ですので、手術前検査で認めた場合はこれらの手術を優先して行います。
◆緑内障
緑内障による視野障害(視野の一部が欠けている状態)があると、白内障手術で視力が改善してもその症状は残ります。
人によっては「チン小帯」の力が弱い場合も⁉
<手術の難易度に関わる眼の病気や病態>
◆成熟白内障・過熟白内障
白内障が悪化して成熟白内障や過熟白内障の段階まで進むと、水晶体の核が非常に硬くなっているため手術に困難が伴います。後囊やチン小帯も脆弱化していることがあります。さらに白内障が進行すると、膨隆(ぼうりゅう)白内障(水晶体全体が盛り上がっている状態)やミルキー白内障(水晶体皮質が液化した状態)と呼ばれる状態になります。それらの場合、手術の難易度はさらに上がります。
◆チン小帯の脆弱・断裂
人によってはチン小帯の力が弱い場合があります。特に落屑(らくせつ)症候群(瞳孔の縁などに微細な白い物質が沈着する疾患)や緑内障、ぶどう膜炎などの眼疾患があると、チン小帯が弱くなっている可能性が高くなります。また、過去に眼球打撲を経験した人は、チン小帯が断裂していることがあります。打撲の程度が強ければ、水晶体亜脱臼(あだっきゅう)が出現し、事前の診察時に把握できますが、そこまでの衝撃がないと手術中に初めて分かることも少なくありません。いずれも手術中にチン小帯断裂の合併症が起き、手術を2回に分けないといけないことがあります。
◆散瞳(さんどう)不良
「散瞳」とは瞳孔(ひとみ)が拡大(散大)することを指します。瞳孔が開かない状態のまま白内障手術をすると、ワーキングスペースが狭くなるため、スペースを広げるためさまざまな手術機器を用います。
ちなみに私のクリニックでは、手術前検査の前後に「合同説明会」を行います。これは同じ頃に手術を受ける患者さん十人前後に集まっていただき、白内障や白内障手術についての説明、手術を受けるにあたって患者さんに注意してほしいことの確認を行います。
白内障手術の患者さんはほとんどの方が高齢ですから、最初のうちは医師に遠慮して、説明の中で分からないことがあっても、聞きそびれてしまうケースが少なくありません。
合同説明会を行うことは患者さんの安心感につながりますし、医師と1対1の診察時よりもリラックスして説明を聞いてくださいます。これから同じ手術を受ける患者さん同士、情報交換もできます。