手術後の見え方を左右する「眼軸長」の検査
一般的に、手術治療というと手術そのものの成否が注目されがちですが、白内障手術の場合は、手術前の検査がとても重要です。手術に成功をもたらすのは精度の高い検査と、そこから医師が導き出す的確な判断といっても過言ではありません。
検査項目が多いですが、信頼できる病院やクリニックなら「これは○○を調べる検査です」「この検査結果で、こういうことが分かりますよ」と検査ごとの内容を説明してくれます。
手術前検査を目的別で見ると、2種類あります。
①眼内レンズの度数を決めるための検査
②白内障以外の眼疾患の有無を確認するための検査
これらに当てはめながら、主な検査内容を説明しましょう。
◆眼軸長(がんじくちょう)の検査
眼軸長とは、角膜の頂点から網膜までの長さを指します。ちなみに眼軸長が正常より短いと遠視(軸性遠視)になり、反対に長いと近視(軸性近視)になります。
眼軸長の長さを見れば、その人が遠視か近視か、本人に聞かなくてもある程度分かります。眼軸長検査は目の長さを、超音波や光干渉を使って計測します。眼内レンズの度数は、眼軸長と角膜曲率半径の値を使って計算します。そのため、手術後の見え方を左右する非常に重要な検査といえます。
◆コントラスト感度の検査
色の濃淡を感じ取るコントラスト感度を測定します。白内障で水晶体が濁っていると、目に入る光を混濁がブロックし、コントラスト感度を低下させることがあります。手術前と手術後にコントラスト感度を検査することで、改善の度合いを客観的に確認できます。
◆眼圧検査
眼圧(眼球の内圧)を測定します。個人差はあるものの、正常値は10~21mmHgになります。眼圧が高いと眼球は硬く、反対に低いとやわらかい状態になります。眼圧の数値を知ることは、緑内障などの眼疾患の発見につながります。
◆角膜内皮(ないひ)細胞の検査
角膜内皮細胞は、角膜の最下層に並んだ細胞です。角膜の内側を覆い、角膜を透明に保つ働きを持っています。
白内障手術をすると、角膜内皮細胞は一定のダメージを受けて減少します。細胞数が十分にあれば問題ないのですが、元々密度が低くなっていると角膜が混濁しやすく、白内障手術が予定どおり終了しても視力が回復しなかったり、将来的に視力が低下したりする可能性があります。また、手術後に水疱性角膜症を発症する場合もあります。
目の見え方に大きな影響を及ぼす角膜の「形状異常」
◆角膜形状解析(角膜トポグラフィー検査)
角膜のカーブ(湾曲の度合い)など形状を測定する検査です。不正乱視(角膜表面の凹凸が原因で起きる乱視)や、形状異常に関連する角膜疾患がないかを調べます。
角膜にゆがみがあるなどの形状異常は、目の見え方に大きな影響を及ぼし、手術後の裸眼視力が計算どおりに出ない可能性が高まります。それを考慮した計算方法で眼内レンズの度数を決める必要があります。
◆眼底検査
眼底検査では、眼球の後方にある網膜とその周辺の血管や、視神経などを調べることができます。これらにより網膜の血管の状態、神経の状態が分かります。
◆OCT検査
緑内障や、加齢黄斑変性をはじめとする黄斑疾患が網膜にあるかを確認します。OCT(Optical Coherence Tomography=光干渉断層計)は分かりやすく言うと、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)の眼科版のようなものです。
「光干渉」という現象の原理を利用して、網膜の断層を撮影します。表面を見るだけでは分からない深部の状態や、従来の方法では緑内障かどうか判断が難しかった初期段階の状態も、断層を調べることでくまなく確認できます。
また前眼部OCTは、目の前側にある角膜や虹彩等の断面を検査することができます。その患者さんに最も適した眼内レンズを選択するために、角膜の形状などを正確に測定します。
◆瞳孔径の測定(※多焦点眼内レンズを使用する場合)
瞳孔(ひとみ)は目に入ってくる光の量を調節しています。白内障手術の前に瞳孔径を調べることは、夜間に起こり得るハロー(光の周辺に輪がかかる現象)やグレア(光をまぶしく感じる現象)の予測につながります。近方を見るときの視力が瞳孔径に影響を受けやすく、瞳孔が小さいと使用できないタイプの眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)があるので、場合によってはこの検査が必要です。
以上のような検査のほかに、手術前検査では血液検査、血圧測定など全身の健康状態を確認する検査も行います。白内障手術は目だけの局所麻酔で行うため全身への負担は少なくて済みますが、手術であるからには万全の注意が欠かせません。
糖尿病や高血圧、心疾患などの持病がある人は、かかりつけの病院、クリニックで検査が必要です。私のクリニックではそうした病状確認のため、患者さんから先方の医師に提出してもらう問い合わせ状を用意しています。正式な病名、病状の程度、投薬の状況などを確認し、専門分野の立場から白内障手術の可否についての意見を問う内容です。その返事を受け取ってから手術の準備に入ります。