メガネを使った「白内障」と「老眼」の簡単な見分け方
「最近、ものが見づらくなったな」とあなたが感じているとしましょう。70歳以上なら、同年代の周囲の人が「老眼が進んだのかもね」「白内障じゃない?」と、自分の経験から意見を聞かせてくれるかもしれません。
実際「老眼か白内障か分からない」と言って眼科を訪れる患者さんも増えています。以前であれば、まず「老眼」と自己判断したのでしょうが、これほど白内障手術が普及した時代になると「私も白内障では?」という考えに至りやすくなったようです。高齢になれば誰でもかかる病気ですから、白内障と気づかずに悪化される方が多かった頃よりは、良い時代になりました。
白内障と老眼(老視)を見分ける最も簡単な方法は、メガネの度数を変えてみることです。現在の視力に合う度数のメガネをかけて、よく見えるようになったら老眼、それでも見づらさが変わらなければ白内障が考えられます。白内障は、カメラでいえばレンズが汚れて濁っている状態、老眼はピント調節がしづらくなっている状態です。メガネはピント調節の力を補えますが、水晶体の濁りを取り除くことはできません。
ただしメガネを新調するなら、その前に一度、眼科を受診することをおすすめします。もしも白内障で手術が必要だった場合、手術後の視力に合わせて再びメガネを作ることになるからです。
それ以外の判断方法としては、次のような自覚症状があれば白内障の可能性が高いといえます。
一方の目だけ支障を感じる場合は、白内障の確率が高い
◆ものがかすんで見える(霧視(むし))
いわゆる「目がかすむ」状態です。視界に霧やもやがかかったように感じます。目にゴミが入ったときのように、ものが白っぽく見えていませんか?
◆以前よりまぶしさを感じやすい(羞明(しゅうめい))
光が目に入ると、視界全体が反射しているように白っぽく感じます。特に日中の屋外では陽射しがまぶしくて、目を細めないと見づらくなります。快晴の日に、外で洗濯物を干すときやスポーツをするとき、車を運転するときなどに、違和感を覚えるかもしれません。
夜もあちこちで、照明が明るい光を放っています。とりわけ夜間の運転は、事故につながる危険があるので気をつけましょう。対向車のヘッドライトがやけにまぶしく感じたら、できるだけ早く眼科で診てもらってください。
白内障は進行性の病気です。「そのうち慣れるだろう」と悠長に構えていては、症状が悪化するばかりです。
重度の羞明を訴えるのは、加齢性の白内障でも比較的若い世代が多いようです。1日のほとんどをサングラスで過ごし、「サングラスを手放せない生活はつらいので手術をしてください」という方もいます。
◆ものが二重、三重に見える(複視(ふくし))
二重、三重にダブって見えるせいで、ものの輪郭がぼやけているように感じることもあります。
◆いつの間にか視力が低下した
よく聞く相談は「運転免許の更新に行ったら、いつの間にか視力が低下していて、検査に引っかかってしまった」というケースです。
水晶体の濁りが光の透過を妨げると、普通の屈折異常(遠視、近視、乱視など)や老眼よりも視力を低下させる場合があります。
メガネの度数が合わなくなったときも、白内障の可能性を考えてみましょう。
◆近くのものが見やすくなった
白内障なのに見やすくなるのは不思議に感じるかもしれませんが、これはあくまで一時的なものです。水晶体の濁り方は人によって異なります。中心部の核の部分から濁り始めた場合、濁りで核の硬さや大きさが増しているため、一時的に近視化することがあります。
◆視界が黄色っぽく感じられる
濁りの色は、進行とともに濃くなっていきます。水晶体の核にある濁りが進行すると、視界全体の色合いが黄色く見えるようになります。
しかし、長年の間でその色味に慣れてしまい、気づかずに過ごしている人も多いのです。色を見間違えたり、「ほかの人と色の感じ方が違うな」と思うときは白内障かもしれません。
以上のような症状があるかどうか、片目ずつ確かめてみてください。一方の目だけに支障を感じる場合は、白内障の確率が高いです。
また、来院する患者さんの中に「黒目の表面が白っぽい気がする。白内障ではありませんか?」という方がいらっしゃいます。白内障で濁るのは、角膜・虹彩の後ろにある水晶体です。ここは外側から簡単に見える部分ではありません(図表)。
よほど病状が進行しない限り、自分で鏡を見て水晶体の濁りを発見することは難しいと思ってください。もし角膜が白く濁っているなら、翼状片(よくじょうへん)や老人環など別の病気の可能性があります。
自覚症状は、自分の体の異変をいち早く感じ取ることのできる大切なシグナルです。ただ多くの場合、同じ症状の病気がほかにも存在しますので、医師の診断に任せたほうが安心でしょう。
白内障手術を「後悔しないため」に重要なこと
次に、白内障の検査から手術後までの流れについて説明します。細かい部分は病院やクリニックによって異なりますので、私のクリニックの場合を例に挙げてみましょう。
◆初診時、問診票の質問事項に記載する
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◆検査と診察を行う
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◆白内障と診断され、手術が必要となる
↓(患者さんが白内障手術に同意した場合)
◆手術日を決め、後日、手術のために必要な検査を行う
↓
◆「手術後の見え方に関する問診票」を記載する
医師は、手術後どのような〝見え方〟にしたいか、患者さんの希望を聞き、それに基づいて的確な眼内レンズの候補を挙げる
↓
◆医師は手術の具体的な内容や、患者さんが手術前や手術後に気をつけるべきことなどについて説明を行う
↓
◆手術1週間前に、手術直前の診察と質問等がないか確認
↓
◆手術3日前~当日まで目薬を点眼
↓
◆手術
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◆手術翌日・2日後・5日後・2週間後・1カ月後・2カ月後・3カ月後に診察
↓
◆手術後1カ月間は3種類、2カ月目からは1種類の目薬を点眼
↓
◆手術後2~3カ月、メガネを処方
以上のような流れで白内障の治療を行うわけですが、この中で白内障手術を後悔しないためにとりわけ重要な項目は、「◆初診時の問診」と「◆手術後どのような〝見え方〟にしたいかの希望を伝える」ことです。
藤本雅彦
医療法人敬生会フジモト眼科 理事長兼院長