127万もの事業者が後継者不在という「大廃業時代」
◆「急げ急げ」と言うコンサルを過信してはいけません
新聞やネットメディアにおいて、「大廃業時代」といったセンセーショナルなお題と共に、今後10年間で127万もの途方もない数の事業者が廃業を余儀なくされる、といった記事が多く報じられました。政府が今後10年間を「事業承継の集中期間」と称して、税制優遇の措置をとるという報道を見て、「我が社も承継の検討をしなければ」と感じている事業オーナーも増えてきているのではないでしょうか。
このような社会的背景のなか、事業承継を今すぐ始めるべきという専門業者やコンサル会社の営業を受けられた経験はないでしょうか? 「うちは結構です、と断ったものの、何か考え始めたほうがいいかな・・・」と、内心焦っている方もいるかもしれません。「過信してはいけません」と過激な言い方をしましたが、彼らが「急げ急げ」ということには理由があります。
◆事業承継を急がせる社会的背景
皆さんも目にしたことがあるかもしれませんが、下記図表([図表]経営者の年齢分布)の通り、経営者の年齢の中央値は年々上がり続けています。
一方で、厚生労働省の調べ(※1)によると、2016年時点の日本人の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳であり、死ぬまで働くことを是とすれば、まだ15年は猶予があるという考えもあるかもしれません。しかしながら、2000年にWHO(世界保健機関)が健康寿命を提唱して以降、「健康に生活できる期間」に焦点があたっています。その健康寿命で見ると、2016年時点の日本人の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳となります。
※1 厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(2017年3月)
事業オーナー自身こそが認識していると思いますが、いくら健康でも、健康寿命を超えて、困難な会社の経営を担っていくのは困難を極めます。そう考えると、猶予期間は一気に10年近くも短くなってしまいます。
一方で、事業承継に要する期間はどの程度かご存じでしょうか?
中小企業基盤整備機構の調査(※2)によると、後継者の育成に必要な期間を含め、事業承継には5~10年を要するといいます。
※2 中小企業基盤整備機構「事業承継実態調査」(2011年3月)
「あれっ、引き算が合わないぞ・・・」と思われたのではないでしょうか。その通りです。経営者の平均年齢の中央値に、事業承継に要する期間を足すと、健康寿命を超えつつあるのが現状なのです。
経営者の年齢中央値(66歳)+事業承継に要する期間(5~10年)>健康寿命(72~75歳)??
これこそが、政府が事業承継の集中期間として、対策を講じている理由であり、専門業者がオオカミ少年のように「急げ急げ、大廃業時代が来るぞ」と急かす理由なのです。擁護するわけではありませんが、事業承継の検討を始めなければならない時期が実際に来ている、もしくはそのタイミングを逸しているのは事実なのです。絵本に出てくるオオカミ少年と違い、専門業者や多くのメディアや書籍が論じていることは真実です。
◆急ぐことは何なのかを見極める
「おいおい、書いていることが二転三転しているぞ!」とお怒りかもしれませんが、急ぐべきことを理解した上で進めることが肝要である、というのが個人的な主張です。つまり、今すぐやらなければならないことは、「事業承継そのもの」ではなく、「準備を始める」ということであると理解してもらいたいのです。
大廃業時代が来るからといって、十分な検討期間を設けずに、30年もの人生をかけて大きくしてきた会社を誰かに任せるべきではないと考えています。これは、事業オーナーのためだけでなく、後継者として事業を引き継ぐことを考えている人のためにも、相互の認識齟齬を極小化するために必要なプロセスであると思います。
事業承継対策の前に「考えるべきこと」とは?
◆うさぎと亀
「そうかそうか、まだ何もしなくていいのだな!」と受け取られたようでしたら、申し訳ありませんが、そうではありません。童話に出てくる「うさぎと亀」の話ではありませんが、亀が勝ったのはなぜでしょう? 遅くても、一歩一歩進んでいたからですよね。
「忙しくて、そんな時間取れない!」「簡単に後継者なんか見つかるか!」と、いろいろな理由を持ち出して、考え始めることも止めていませんか?
変な業者に相談しましょうなんて言いません。まずは、自分自身がどうしたいのかを考えることからスタートしましょう。家族に譲りたいのか、古参の社員に譲りたいのか、はたまた身内には背負わせずに外部へ譲渡したいのか。こんなことを考え始めるだけで、うっすらと見えてくることがあるはずです。
家族に譲りたいのであれば、相続の方法を考える必要があります。税金の負担を考えれば、早めに家族と話し合いをしなければなりません。「あまり負担をかけたくないから相談していないんだよ」という言葉を多く聞きますが、話し合いを後回しにした結果、相続税の負担が重くなってしまい、結果的により大きな負担を家族に強いることになった例も見てきました。そんなことに、いち早く気づいてあげられる可能性もあるのです。
ペットを散歩させながらでも、お孫さんの顔を見ながらでも、将来と共に思いを巡らせるのもいいかもしれません。事業承継支援プラットフォーム「ビズマ(https://bizma.jp/)」で、既に事業承継の準備に取り掛かっている方の様子を見ることで、まずは「考える」ことから始めてみませんか? 次回から、「考える」プロセスについても解説していきます。
表 一剛
株式会社ビジネスマーケット 代表取締役社長