ひざへの無関心が将来の「要支援・要介護」状態を招く
立つ、歩く、しゃがむなど、人間の行動の基本といえる様々な行為において、ひざはとても重要な役割を果たしています。しかし、世の中の多くの人は自分のひざの状態に関して、あまりに無関心なのが現状です。
片方のひざがたまに軽く痛む。
ひざを曲げる時にこわばる感覚があり、動かしづらい。
階段の昇り降りの時に、ひざに痛みが走る。
ひざを動かすたびに痛むので、座ったり立ったりすることがつらくなってきた……。
こうした諸症状を抱えていても、積極的に改善を図ろうとする人はなかなかいません。40歳以上の男女1175名を対象にした調査(科研製薬株式会社・生化学工業株式会社「ひざの健康に関するアンケート調査」)では、63.0%もの人がひざについて「いつも痛い」「しばしば痛む」「たまに痛くなる」と症状を訴えていました。
しかしながら、痛みを訴える人のうち、「病院に行く」と回答した人はわずか23.1%にとどまり、「いつも痛い」と回答した人でも約半数の人は病院を受診していませんでした。そして、約35%もの人が「安静にする」「我慢する」と回答。さらには、ひざの痛みを取るには約半数の人が「なんとなく」という理由で、サポーターや市販薬、温めるなどの自己流の対処法で済ませていたのです。
体の他の部位の痛みに比べて、あまりに軽視されていると言わざるをえないひざ痛。その背景には、「もう年だから痛むのは仕方がない」「我慢していればいい」といったあきらめのような気持ちがあることが推測されます。
しかし、「たかがひざ痛」と放置しておくと将来的に大きな悪影響を及ぼすことが、様々なデータを通じて広く知られつつあります。
「ロコモティブ・シンドローム(ロコモ)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 日本語にすると「運動器症候群」といい、体を動かすために必要な器官(骨、関節、筋肉、靭帯、神経など)が加齢により衰えたり、障害が生じたりすることによって、自分で移動する能力が低下してしまい、要介護になるリスクの高い状態になることです。
ロコモは2007年、日本整形外科学会が、これからの超高齢化社会における運動器の重要性をアピールするために提唱した概念です。そして運動器の健康を保つために早めの対策を取らなければ、日常生活に支障をきたす「要支援・要介護」の状態になる危険性が高いと警鐘を鳴らしています。
日本整形外科学会の整形外科手術調査によると、年齢別の手術件数ピークは75~79歳。運動器疾患の多くのケースで最初に症状が現れるのが50歳前後であることから、40代以降の「早期発見・早期治療」が非常に重要であることが分かります。早期に治療を受けることで、痛みをコントロールして病気の進行を食い止めることができるのです。
また、厚生労働省の「平成25年国民生活基礎調査」を見ると、要支援・要介護となった原因疾患のトップは、脳卒中や認知症を上回って「運動器の障害」(25.0%)です。その中にはもちろん、ひざ痛を含む関節疾患も多く含まれています。ひざは、数ある運動器の中でも特に、かかる負担が大きく、障害を起こしやすい部位でもあります。「大した痛みではないから」と放置しておくと、どんどん進行して、取り返しのつかない事態になってしまうこともあるのが、ひざ痛の恐しいところです。
まずは正しい知識を身につけ、ひざの特徴を知り、重度のひざ痛になる前に上手な付き合い方を覚えることが何よりも大切です。
ひざ関節の軟骨は、すり減ると二度と元に戻らない⁉
ひざの痛みは、進化して二足歩行をするようになった人類特有の症状といえるでしょう。ひざは立ったり、座ったり、歩いたり、走ったりといった一連の動きの全てに関わっているので、日々大きな負担がかかっています。骨と骨とをつなぐ部分である関節は、肩や肘、ひざ、股、指など、体の様々な場所に存在しています。関節があるおかげで、人間は体を自由に動かすことができるのです。
一つひとつの関節はとても複雑な構造になっていて、体のなめらかな動きを維持するべく、骨同士を最適な位置に保っています。これらのうち、ひざ関節は最も大きな関節であり、頻繁に激しい動きが要求される部位です。そのため、違和感や痛みも生じやすくなります。ここで、ひざ関節の構造を詳しく見てみましょう。
ひざ関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)、すねにある脛骨(けいこつ)、ひざのお皿である膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨が接している部分にあります。ひざ関節を構成するのは、主に次の部位です。
●関節包……ひざ関節を包み込むように、骨と骨をしっかり固定している丈夫な筋。内側には関節軟骨や滑膜があり、これらを守る役割もある。
●靭帯……関節包の外側の部分を靭帯と呼ぶ。4本の靭帯(前十字靭帯・後十字靭帯・外側側副靭帯・内側側副靭帯)がそれぞれの骨に結合し、骨同士が離れないようにつなぎとめる役割を持つ。
●関節軟骨……厚さ3~5㎜ほどで弾力がある軟骨組織。大腿骨・脛骨・膝蓋骨の3つの骨同士がぶつかり合う衝撃や摩擦を吸収して、ひざのスムーズな動きを可能にする働きがある。水やコラーゲン、プロテオグリカン(ムコたんぱく質)が主成分。
●関節液……関節包の内側にある、無色透明でぬるぬるした粘り気のある液体。関節のスムーズな動きをサポートする。
●滑膜……関節包の内側にある膜。関節のなめらかな動作を可能にするとともに、滑膜細胞から関節液を分泌する。
●半月板……大腿骨と脛骨の間にある、半月(あるいは三日月)の形をした弾力性のある軟骨様組織。関節軟骨と同じく、ひざが受ける衝撃を緩和する。
私たちのひざ関節がなめらかに動くためには、関節軟骨と半月板が正常であることが必須の条件です。上記図表のように、ひざ関節の骨が接する部分は関節軟骨で覆われており、その表面を骨がスムーズに滑ることで足の様々な動作が可能になります。
そして半月板は関節軟骨とともに、ひざの曲げ伸ばしなどで受ける衝撃を緩和してくれるクッション役を担っています。しかし残念ながら、関節軟骨と半月板は、加齢とともに衰える性質があります。しかもこの2つは軟骨組織なので、血管や神経が通っておらず、痛みを感じない代わりに再生もしません。一度大きくすり減ったり、欠けたりしてしまうと、関節のなめらかな動きも損なわれてしまいます。そして、現代の医療では二度と元には戻せなくなるのです。