共有者同士の関係が良好な場合は問題ないが…
世の中には、家や土地の所有者が1人ではなく、誰かと誰かの「共有」になっている物件がたくさんあります。たとえば、親から相続した家を、複数の子供たちが均等の持ち分で共有している場合などです。
このような共有物件の場合、その家を売ったり、貸したりするには、基本的に共有者全員の同意が必要になります。つまり、共有者のうちの誰か1人でも反対すれば、その物件は売ることも貸すこともできなくなってしまうというわけです。
それでも、共有者同士の関係が良好な場合は特に問題はありません。しかし、ひとたび関係が悪化してしまうと、その共有物件は一気に「困った不動産」へと変貌を遂げてしまうのです。
千葉県千葉市に住むAさん兄弟が親から相続した家も、そんな「困った不動産」になってしまったケースです。85歳の父親が亡くなり、父親が住んでいた千葉市の家をAさん兄弟が相続することになりました。
母親はすでに亡くなっており、相続人は兄のAさんと弟のBさんの2人だけです。財産は父親が住んでいた築50年の古い家と土地だけ。もともとは仲の良かった兄弟でしたが、この相続を機に、どちらが持ち分を多く取るかで「争続」になってしまったのです。
兄のAさんは父親の近くに住んで、父親の面倒をよく看ていたので、取り分を多く主張したのですが、弟がそれを許しませんでした。結局、家と土地の持ち分を2分の1ずつにすることで決着したのですが…。お金に困っていた弟のBさんが、自分の持ち分だけを、地元の知り合いの会社経営者に、たったの20万円で売ってしまったのです。
さて、弟のBさんが自分の持ち分を第三者に売ってしまったことによって、兄のAさんは、相続した父親の家に勝手に住むことも、誰かに貸すことも、売却することも、建て替えることもできなくなってしまいました。
そこで、相続した家の処分に困ってしまった兄のAさんも、このままでは資産価値がないので、自分の持ち分を地元の不動産会社に売ってしまったのです。その価格も20万円でした。
こうして父親から相続した家と土地は、わずか40万円で人手に渡ってしまったというわけです。
自分の持ち分だけを売却するという選択肢は最終手段
その後、この家はどうなったのか?
まず、兄の持ち分を買った不動産会社が、弟の持ち分を買った会社経営者に連絡し、2倍の値段で持ち分を買おうとしました。
しかし、その経営者が応じてくれなかったため、弁護士を雇って裁判所に「共有物の分割請求」の訴えを起こしたのです。その結果、裁判所が出した判決は、次のようなものでした。
「不動産会社と会社経営者は、お互いが所有している2分の1ずつの権利を合わせて競売にかけなさい」
比較的珍しい判決ですが、この判決によって家と土地を第三者に売ることができるようになったのです。結果、その家は750万円で落札されました。そして、不動産会社は750万円を会社経営者と折半し、わずか20万円の元手で375万円を手にしたのです。
兄弟げんかをせずに親から相続した家を仲良く処分していたら、このお金は兄弟たちのものになっていたのですが、なんとも残念な話です。
今回のような共有物件の場合、自分の持ち分だけを第三者に売却するという選択肢は、共有者との関係が最悪の状態になってしまったときの最終手段といえるでしょう。なぜなら、本来手に入れられるはずの金額の10%程度しか、手に入れることができなくなってしまうからです。
この兄弟の場合、弟が取るべき選択肢はほかにもあったはずです。理想は、兄と一緒に家と土地を売却し、その売却代金を持ち分割合に応じて分けるという方法です。
仮にそれができなかったとしても、第三者に売却する前に、兄に自分の持ち分を買い取ってくれるように交渉してみるという方法もあったはずです。交渉次第では、375万円に近い金額で兄が買ってくれたかもしれないのですから(なお、遺産分割調停・審判後に共有物分割手続きを採ることも可能です)。
いずれにしても、共有物件の場合は、損をしないためにも、共有者とは仲良くしておくことをおすすめします。
【ポイント】
・共有者とは仲良くしておかないと損をする!