緊張高まる米中通商協議が、メキシコに飛び火する様相を見せたことで、景気への影響が懸念され米国債利回りや政策金利の将来の動向を反映するFF金利先物レートが低下しています。レートの低下には様々な要因がある中、今回は米連邦公開市場委員会(FOMC)主要メンバーの発言に注目しました。
米国FF先物市場:年内2回(1回25bpと仮定)の利下げを織り込む動き
トランプ大統領がメキシコからの全輸入品への関税賦課を示唆したことや、米金融当局の発言などを背景に、米政策金利の動向を反映するフェデラルファンド(FF)金利先物が年内利下げの確信度合いを高めました(図表1参照)。
実効FF金利が2.39%程度であるのに対し、FF金利先物による今年末のインプライドレートは5月31日に1.855%となり、年末までに25bpの利下げの約2回分が織り込まれています。
どこに注目すべきか:FF金利先物、クラリダ副議長、NY連銀総裁
緊張高まる米中通商協議が、メキシコに飛び火する様相を見せたことで、景気への影響が懸念され、株式市場は大幅に下落し、米国債利回りや政策金利の将来の動向を反映するFF金利先物レートが低下しています。このレートの低下には様々な要因がある中で、今回は米連邦公開市場委員会(FOMC)主要メンバーの発言に注目しました。
最初に注目したのは米連邦準備制度理事会(FRB)のクラリダ副議長です。30日にニューヨーク経済クラブの講演などで、景気見通しへの下振れリスクを認識すれば、一段と緩和的な金融政策を必要とする要因になるだろうといった内容を述べました。
クラリダ副議長は5月月初のインタビューでは、米国のインフレ率低下は一過性で、利下げの必要性に否定的でした。FOMC参加者の中には利下げに積極的な声もありますが、最近まで米金融政策は年内据え置きが当局の基本的なコンセンサスであっただけに、クラリダ副議長の発言が市場の反応を引き起こしたと見られます。またクラリダ副議長のFOMC内での理論的支柱としての立場も影響した可能性があります。
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もう一つ注目したのはニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁です。31日のウィリアムズ総裁の講演では、公表された原稿でも、米経済や金融政策の短期的な見通しについての発言は見られません。講演はゼロ金利制約における過去の金融政策や論文のレビューが主な内容です。それでも想像力で現在の市場環境に当てはめれば、金融緩和を示唆したとも考えられ、金融政策を反映しやすい2年セクター利回りの大幅低下による利回り格差の拡大という足元の傾向とやや異なる動きが見られました(図表2参照)。
例えば、ウィリアムズ総裁はバーナンキ元FRB議長らのペーパーを参照してデフレないし深刻な景気低迷のリスクが生じた場合には短期金利を積極的に引き下げるべきと述べています。また、ゼロ金利制約に直面する状況では中央銀行による債券購入プログラムは従来の金利による金融政策を補完できると擁護しています。
FRBはマイナス金利導入に否定的です。仮に米国が深刻な景気低迷に直面した場合、金利引き下げ余地が限られるため、利下げに消極的との見方もあります。今回のウィリアムズ総裁はマイナス金利には言及していませんし、その準備があるようには思えません。ただ、ゼロ金利制約があっても、短期金利を積極的に引き下げるべきという姿勢は、市場に響いたように思われます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『市場が米利下げを織り込む動き、鮮明に』を参照)。
(2019年6月3日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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