本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。今回は、期限のある相続手続きを中心に、相続の流れを見ていきましょう。

相続で困らないよう「相続手続きの全体像」を把握

親族に相続が起きてしまった場合に、まず多くの方が思うのは、「まず、何からやっていいのかわからない!」ということです。相続の手続きはたくさんありますが、まずは期限があるものも含め全体像を抑えることが先決です。今回は、相続手続きについて広く浅く解説していきます。

 

まずはこちら(図表1)が全体像。期限があるのは、亡くなってから3、4、10ヵ月の3つです。

 

[図表1]相続手続きの全体像
[図表1]相続手続きの全体像

 

●亡くなって3ヵ月 → 相続放棄の期限

 

●亡くなって4ヵ月 → 所得税の準確定申告の期限(亡くなった方の確定申告のことを準確定申告といいます)

 

●亡くなって10ヵ月 → 相続税の申告 

 

まず、相続手続きでやることは、遺言書があるかないかで大きく変わります。遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容通りに遺産を分けていくので、手続きは比較的早く終わります。一方、遺言書がない場合には、相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決めなければいけません。この手続きを遺産分割協議といいます。これが長引いてしまうことがよくあります。

 

遺産の分け方が決まれば、あとは名義変更をしていきます。遺産分割協議や名義変更には期限はありません。まず、期限のある相続手続きについて詳しく解説していきます。

 

■亡くなって3ヵ月…相続の放棄

まずは、亡くなった日から3ヵ月で期限を向かえるのは、相続放棄の期限です。この手続きは、亡くなった方の遺産を相続したくない相続人がいる場合には、相続を放棄することを家庭裁判所に申し出る手続きです。3カ月以内に申し出をしないと、相続することを承認したものと取り扱われるので注意が必要です。ちなみに相続放棄をしなくても、遺産分割協議で「私は財産を相続しなくていいですよ」といえば、同じ結果になります。

 

相続放棄の手続きは、どちらかといえば、亡くなった方が借金などを多額に残してしまった場合などに使われることが多いです。

 

なお、相続の放棄があった場合には相続人の人数が変わりますが、相続税の計算には影響を与えないようになっています。つまり、放棄をしたからといって相続税で得したり損をしたりということはありません。

 

と、いうのが一般論ですが、実は1つだけ相続放棄をすると圧倒的に相続税の負担を抑えられるシチュエーションがあります。それは連載第1回でも取り上げた下記のようなケース(関連記事:『民法と相続税法で要件が異なる⁉「法定相続人」の範囲と順位』)。

 

[図表2][図表10]長男が先に亡くなり、そのあと両親が亡くなった際の相続
[図表2][図表10]長男が先に亡くなり、そのあと両親が亡くなった際の相続

 

 

[図表3]相続放棄で相続税の負担が軽減

[図表3]相続放棄で相続税の負担が軽減

 

図表2の場合、兄の財産に対し2回も相続税を払っていることになります。そのような場合、図表3のように両親が相続放棄すれば、兄から妹へ遺産が相続されることになり、このタイミングで相続税を払えばいいことになります。このケースにおいては、妹に対して課税される相続税は、父母の時と比べて1.2倍されます。しかし、2割加算の取扱いを受けたとしても、両親に多額の資産がある場合などには、相続放棄をして代を飛ばしたほうが有利になります。

 

相続放棄は3ヵ月以内でないとできないので、このようなケースは本来、きちんとアドバイスしてあげないといけないのですが、これは税理士でも知らないことが多い論点です。

 

■亡くなって4ヵ月…所得税の準確定申告

亡くなった日から4ヵ月以内に行わなければいけないのが、所得税の確定申告です。通常の確定申告は、毎年2月15日~3月15日の間に行うこととされています。しかし、亡くなってしまった人の場合には、亡くなった日から4ヵ月以内に申告しなければならないのです。

 

なお、次の2つの条件に該当する方は確定申告をしなくてもよいこととされています。

 

1.年金の収入が400万円以下

2.その他の所得が20万円以下

 

ここに該当すれば、確定申告しなくてもOKです。筆者が実務でかかわっている感覚では、多くの方がここに該当します。該当しないのは、賃貸不動産を持っている方や、事業を営んでいたような方です。

 

ちなみに確定申告をする義務がなくても、あえて申告をすれば、税金の還付(税金の返還)を受けることができる場合もあります。還付の場合には4ヵ月以内という期限はないので、ゆっくりやっても問題ありません(亡くなった日から5年4ヵ月以内であれば還付を受けることができます) 。

 

■亡くなって10ヵ月…相続税の申告

相続税の申告は亡くなった日から10ヵ月以内です。この時までに、相続税の納税も済ませなければいけません。相続税の納税は金銭で納めることが原則なので、それまでにキャッシュを用意しないといけないので余裕をもって準備をしておきましょう。不動産はたくさんあるけど金銭はあまりないですよという方は、物納(ぶつのう)といって、物で税金を払うことも可能です。

 

しかし、近年この物納の要件はどんどん厳しくなっていて、本当にお金を持っていないと認められなければ物納することはできません。日本全国で物納が認められる件数は年間100件も満たないのが現状です。

 

なお、相続税は亡くなった人に必ずかかる税金ではありません。一定以上の財産を残した人にだけかかる税金です。この一定の金額のことを基礎控除(きそこうじょ)といいます。詳しい話は、またの機会にしますが、相続税がかかる人は、100人亡くなった場合に8人程度です。まずは、そもそも相続税の申告が必要かどうかを見極めることが大切です。

 

■戸籍や印鑑証明は何を用意すればいいのか?

相続手続きでは、なにかと戸籍謄本や印鑑証明書や住民票が必要になります。戸籍謄本は亡くなった方の出生から死亡までのものがすべて必要になります。本籍地をたくさん変えているような場合には、その本籍地ごとに戸籍を取り寄せなければいけないので、これが結構大変です。また、亡くなった方の戸籍だけではなく、相続人の戸籍も必要になります。兄弟や甥や姪が相続人になる時は、全員の関係がわかるように戸籍を収集するは、凄く大変です。もし大変だと感じる場合には、司法書士に依頼すれば3万円位でやってくれます。

 

また、銀行や証券会社の名義変更をする際に、戸籍や印鑑証明書は、新しく発行を受けてから6ヵ月以内のものでないと使えないというルールがある場合があります(金融機関ごとに異なるルールです)。そのことも踏まえたうえで揃える必要があります。

 

ちなみに、銀行や証券会社の名義変更に使う戸籍などは、使ったらお客様に返してもらえます(これを原本還付といいます)。不動産の名義変更でも、法務局から最終的に原本還付を受けることも可能です。しかし税務署へ相続税の申告書を提出する際には、原本を返してくれません。そのため筆者はお客さまには、あらかじめ、すべてを2セットずつ用意するようお願いしています。また役所に取りに行ってもらうのは、大変なので……。

相続はケース別に相談するべき専門家が異なる

■どの専門家に相談すればいいのか?

相続に関する専門家はたくさんいます。弁護士、司法書士、行政書士、税理士…まずは誰に相談すべきなのでしょうか? 筆者のおすすめは次の通りです。

 

1)相続税の心配が一切ない方 → 司法書士、または行政書士 (不動産の名義変更は司法書士でないとできません)

 

2)相続税の心配がある方  → 相続税に強い税理士

 

3)相続争いが発生している方 → 相続に強い弁護士

 

4)3)でかつ相続税がかかる方 → 相続税に強い税理士 & 相続に強い弁護士

 

1)について注意していただきたいのは、たとえば亡くなったお父さんには相続税の心配はないけど、残されたお母さんには相続税の心配があるような場合は、2)だと思ってください。お父さんの財産の相続の仕方によって、その後、相続税の問題がでてきましうかもしれません。

 

また、税理士や弁護士を選ぶ際に注意しなければいけないのは、相続という分野に経験と実績があるかどうかです。税理士や弁護士にも、得意分野と不得意分野がはっきりわかれています。特に相続を専門としている税理士や弁護士は非常に少ないです。専門家選びは、相続手続の大切の第一歩なので、人からの紹介を鵜呑みにせず、しっかりと情報収集をして、自身で専門家を見極める目を養ってください。

 

【動画/筆者が「相続後の手続き」を分かりやすく解説】

 

 

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