兄弟・子ども・孫…相続人の優先順位パターン
実際に人が亡くなってしまった場合には、その人の遺産を分けていかなればいけません。この遺産の分け方には、法律で決めたルールがあります。そのルールは非常にシンプルです。
遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分けます。遺言書がない場合には、法定相続人全員での話し合いによって遺産の分け方を決めていくことになります。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
この遺産分割協議に参加できるのは、法律で決められた法定相続人という立場を持った人だけです。いくら生前中に仲がよくても、たくさんお世話をしたとしても、法定相続人でない人は1円たりとも相続することができません。また、法定相続人が全員揃っていないのに、勝手に進めた遺産分割協議は無効です。
また、相続税の計算は、法定相続人の人数に基づいて計算します。法定相続人が多くなればなるほど、相続税は少なくなる性質を持っています。この考え方を利用して、たとえば養子をたくさん取って相続税を少なくしようとする人もいるので、民法上の法定相続人の考え方と、相続税法上の法定相続人の考え方は、若干異なっています。
■配偶者は絶対に法定相続人
初めに民法上の法定相続人について解説していきます。相続税法上もほぼ同じなので、こちらをベースに理解してもらえれば問題ありません。
まず、配偶者は必ず法定相続人になります。ここでの注意点は、内縁関係や事実婚など、戸籍上の配偶者となっていない場合には、その人は法定相続人にはなれません。また当然、離婚をした場合には、元夫、元妻は相続人にはなれません。法定相続人になるには、婚姻期間は関係なく、変な話、結婚してすぐに相続が発生しても、遺産を相続する権利は発生します。
ちなみに夫婦の間で遺産を相続する場合には、最低でも1億6千万円まで相続税が課税されない、配偶者の税額軽減という制度があります。「夫婦の財産は、夫婦で協力して築き上げたものなので、そこに相続税を課すのは酷でしょ!」というのが、制度の趣旨です。
■第1順位の法定相続人は子ども
配偶者以外の法定相続人には、優先順位があります。上の順位の法定相続人がいる場合には、下の順位の人は法定相続人になれません。
まず、第1順位の法定相続人は子どもです。
上図のような家族の場合には、法定相続人になるのは配偶者である妻と、子どもの二人になります。当然、子どもが複数人いる場合には、その子どもたちすべて相続人になります。それでは、下図の家族の場合には、法定相続人は誰になるか考えてみましょう。
※イラストをクリックすると、正解が確認できます。
正解は、後妻(現妻)と、後妻との間の娘、そして前妻との間の息子です。前妻、前夫との間であっても、血を分けた子どもであれば、まぎれもなく法定相続人になります。離婚をすれば、前妻前夫は他人なので相続権はありませんが、血を分けた子どもはずっと相続権をもっているのです。
また、相続が発生した後に、隠し子が登場するというドラマみたいな展開が、現実世界でも結構あります。再婚したあとに新しくできた子どもと、前妻(または前夫)の間の子どもが喧嘩になることが非常によくありますので、遺言などでしっかり分け方の方針を決めておくことが大切です。
■第2順位は直系尊属(父母)、第3順位は兄弟姉妹
子どもがいない場合には、第2順位に進みます。第2順位の法定相続人は直系尊属である父母です。亡くなった人の妻と、亡くなった人の両親が法定相続人になります。嫁と姑の仲が悪い場合には、それこそ骨肉の争いに発展することがあります。不慮の事故とか、病によって両親より先に亡くなってしまうケースが多いので、争いにならないように気を付けたいところです。
そして、子どもも父母もいない場合には、第3順位に進みます。第3順位の法定相続人は兄弟姉妹です。このケースも比較的よくあります。亡くなった人の妻と、亡くなった人の兄弟姉妹が法定相続人になるケースです。この場合も、妻と兄弟姉妹はあまり馴染みがないことが多いので、争いに発展しやすいです。
特に地主家系ですと、これまで先祖代々引き継いできた土地が、配偶者の家系に流れてしまうのを嫌がる人は多いです。
■法定相続人が先に亡くなっている場合(代襲相続)
それでは、次のようなケースでは誰が法定相続人になるか考えてみましょう。不幸なことに、父より先に長男が亡くなっているケースです。
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本来、遺産を相続するはずだった子どもが先に亡くなってしまっている場合には、その相続する権利は孫に引き継がれます。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。この時に気を付けなければいけないのは、相続権は孫には引き継がれますが、長男の妻には引き継がれません。長男の妻に遺産をあげたいときは遺言書が必要になります。遺言書があれば、法定相続人以外の人に財産を残すことが可能になります。
それでは次の場合の法定相続人はどうなるでしょうか?
※イラストをクリックすると、正解が確認できます。
正解は、甥二人と姪です。代襲相続は、兄弟姉妹が相続人の時にも起こります。つまり甥や姪が法定相続人になることもあるのです。兄弟姉妹の間の相続は、みな歳が近いので、すでに兄弟が亡くなっていることがよくあります。そのため、この代襲相続は実務上、よく見るケースです。
法定相続人が多くなればなるほど、遺産分割協議で話し合いをまとめるのが大変になります。このような場合には、遺言書があると非常に手続きが楽になります。
知っておくべき相続税法上の独自ルール
独自ルール① 養子縁組をした場合の法定相続人
ここから先は、民法上の法定相続人と、相続税を計算する上での法定相続人の考え方の違いを解説していきます。まず紹介するのは、養子縁組をした場合の取扱いです。
養子は法律上、正真正銘の子どもとして取り扱われます。当然、法定相続人になるわけです。しかも第1順位の法定相続人です。民法上、養子は何人でもとることができます。極端な話100人でも200人でも許されるわけです。
しかし、ここで問題になるのが相続税です。冒頭で伝えた通り、相続税は法定相続人の人数が多ければ多いほど少なくなる性質を持っています。養子100人とってしまえば、それだけで基礎控除が6億円になります。
このような相続税の節税目的で養子縁組をすることを防止するために、相続税の計算をする上では、法定相続人に含めることができる養子の人数を制限しています。その制限は、その人に実子がいる場合には養子は1人まで、実子がいない場合には養子は2人まで法定相続人の人数に含めることができます。それ以上の養子は、民法上はOKですが、相続税の計算上は、法定相続人の人数にカウントすることはできません。
また、この人数以内であったとしても、明らかに相続税の節税目的以外に理由がない養子縁組と、税務署から認定されてしまった場合には、法定相続人の人数にカウントされなくなりますので注意しましょう。
ちなみに、養子縁組をすると何でもかんでも相続税が下がるわけではありません。場合によっては相続税が跳ね上がるリスクもあります。それについてはまた別の機会に説明します。
独自ルール② 相続放棄があった場合の法定相続人
亡くなった人に借金があった場合、法定相続人は、その借金も相続しなければいけないのでしょうか? ある日突然、多額の借金を背負わされたら大変です。そういった事態にならないようにするために、法定相続人は、相続があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申請をした場合には、相続を放棄することができます。これを相続放棄といいます。
相続放棄があった場合には、法定相続人の立場は、次の順位の法定相続人に引き継がれます。たとえば、第1順位の相続人である子どもが相続放棄をした場合には、法定相続人の立場は、第2順位相続人である父と母に引き継がれます。第3順位である兄弟姉妹が相続放棄をした場合には、相続人がいなくなるので、財産と債務は国に帰属することになります。
借金を多く残して亡くなった人の家族は相続放棄をすることが多いので、まるで爆弾ゲームのような現象が起きてしまうわけです。
と、ここで注目していただきたいのが、相続放棄をする前と、相続放棄をした後の法定相続人の人数です。当初、相続放棄をする前の法定相続人は妻と娘の2人でした。そこから、妻と娘が相続放棄をし、父と母が相続放棄をしました。その後、法定相続人は兄弟姉妹となりました。この兄弟姉妹は3人います。つまり法定相続人の人数は3人になりました。
そうなんです。相続放棄をすると、法定相続人の人数が変わることがあるのです。前述した通り、相続税は法定相続人の人数が多くなればなるほど少なくなります。このことから、相続放棄をうまく使うと、相続税を減らすことができてしまうのです。
そういったことを防止するために、相続税の計算をする上では、法定相続人の人数は、相続放棄がなかったものとした場合の法定相続人の人数を使うこととされています。先ほどの例でいうと、相続放棄があったことにより兄弟姉妹が法定相続人になった場合、民法上の法定相続人は3人です。しかし、相続税を計算する上では、相続放棄がなかった場合の法定相続人の人数を使うので、法定相続人の人数は2人ということになります。
このような取り扱いがあるため、相続放棄をすることによって相続税を節税することはできないようになっています。養子縁組をした場合と、相続放棄があった場合には、民法の考え方と相続税の考え方が異なってきますので、注意が必要です。
相続放棄したほうが相続税負担が軽くなるケースも
上記の解説と矛盾しますが、相続放棄をすると圧倒的に相続税の負担を軽くすることができるケースがあります。このケースに該当していることがわかったら、3ヵ月以内に相続放棄をするか検討しなければいけないのですが、この論点を知らない税理士がほとんどなので、多くの人が見逃してしまいます。それでは、どのようなケースが相続放棄をすると相続税の負担を軽くできるでしょうか?
正解は、上記のような第2順位の相続です。亡くなった人に子どもがいない場合には、法定相続人は父と母になります。この場合には、相続税の観点から相続放棄を検討するべきなのです。なぜかというと、独身の子どもが親より先に亡くなると、子どもの財産は親に相続されます。この相続されるタイミングにおいて、子どもが残した遺産に相続税が課税される可能性があります。
親は、相続税を支払って子どもの財産を相続するのですが、この親が亡くなってしまった時には、もう一度相続税を支払わないと、最終的に妹に財産を渡すことができないのです。兄の財産が妹に渡るためには、2回も相続税を払わないといけないことになります。さらに父と母が元々資産家だった場合には、子どもから相続した財産にまで、非常に高い税率で相続税が課税されてしまいます。
このような事態を避けるために、第2順位の相続のケースにおいては、父と母はあえて相続を放棄します。もし、父と母が相続を放棄した場合には、法定相続人は妹一人になります。兄から妹へ遺産が相続されることになり、このタイミングで相続税を払わなければいけません。しかし、兄の遺産は父と母に渡らなかったので、父と母が亡くなった時の相続税の負担は先ほどのケースよりも断然少なくなるはずです。
ちなみに、このケースにおいては、妹に対して課税される相続税は、父母の時と比べて1.2倍されます。この取扱いを相続税額の2割加算といいます。しかし、2割加算の取扱いを受けたとしても、両親に多額の資産がある場合などには、相続放棄をして代を飛ばしたほうが有利になります。
いずれにしても、相続が起きてから3ヵ月以内に検討しなければ父と母が相続することになるので、急がないといけません。
まとめ
法律上、遺産を相続できるのは、法定相続人という立場のある人に限定されます。遺言書を作れば、法定相続人でない人にも資産を残すことが可能ですが、遺留分という制度に気を付けるなど、注意点はたくさんあります。
まずは正しい知識をたくさん身につけることが大切です。
【動画/筆者が「法定相続人と法定相続分について」分かりやすく解説】
【動画/筆者が「相続放棄をすると相続税の節税になるケース」を分かりやすく解説】