今回は、歯の健康な部分を削らずにすむ虫歯治療「カリソルブ」と、進行した虫歯を修復する「歯髄温存療法(MTA)」について見ていきます。※口内の健康は、美容や健康と深い関わりがあります。白い歯は人に好印象を与えるだけでなく、日ごろのケアで虫歯や歯周病を遠ざけることにより、全身の健康も保つことができるのです。本連載では、新進気鋭の美容歯科医が、歯と美容・健康の関係をやさしく解説します。

軽微な虫歯に最適な治療法「カリソルブ」

●歯科治療時の音や痛みが怖い人にもおすすめ

ユキエさんは子供のころから歯が弱く、よく歯科に通院していたそうです。歯を削るときのキーンという音や、削られていく感触が怖くてすっかり歯医者さん嫌いになったとか。そこで私がご提案したのが、歯を削らずに薬で悪くなった部分を溶かして掻きとる、カリソルブという治療法です。その後にレジンやセラミックなどを詰めます。

 

カリソルブは歯科医療の先進国、スウェーデンで開発された画期的な虫歯治療法です。次亜塩素酸ナトリウムと3種類のアミノ酸を混ぜた溶液を、虫歯になりかけているところに塗って軟化させるというもので、象牙質の悪くなったところにだけ作用します。

 

ユキエさんが怖がっている、従来の歯を削る治療法では、どうしても歯の健康な部分まで削れてしまうリスクがあります。ところがこの溶液は虫歯になった部分にだけ作用するので、健康なところはそのまま残すことができるのです。

 

成分的にも次亜塩素酸ナトリウムは消毒液として使われているものですし、アミノ酸のグルタミン酸、リジン、ロイシンはうまみ成分として知られており、健康食品にも使われているものなので、身体にとって害になることもありません。カリソルブのメリットをまとめてみましょう。

 

◆歯を削る治療法ではないので、痛みがほとんどない

◆健康な歯質を最大限残すことができる

◆削る機械をほとんど使わずにすむので、音や振動が怖い人に向いている

◆歯の神経を残せる可能性が高い

 

2つの溶液を混ぜて虫歯の穴に置くと、30秒くらいで虫歯の部分が軟らかくなってくるので、そこを掻き取っていきます。20分くらいかけて、虫歯であいた穴を溶液で満たしながら、液が濁らなくなるまで繰り返します。

 

虫歯が完全に取れたかどうかは、う蝕検知液という液をつけて調べます。この液をつけて虫歯の箇所が赤くならなければ、完全に取り切れた証です。最終的には削り取る器具(回転切削器具)でひとこすりして仕上げ、そこにレジンやセラミックなどの詰め物をします。

[図表]カリソルブの治療
[図表]カリソルブの治療

 

「なんだ、結局、削るんじゃない」と思われるかも知れませんが、最後の仕上げにほんの少し使うだけなので、音や振動を感じる時間は最小限ですみます。キイーンという機械音が怖いという方や、痛みに敏感な方には、とてもいい治療法です。

 

敏感な方だけでなく、器械を使うと出血してしまうような、歯茎の下まで及んだ虫歯や、奥歯のさらに奥に虫歯ができていて器械が入らなかったり、器械を使うと歯の健康な部分まで削ってしまったりするような場合に、特におすすめです。カリソルブの治療はこれからもどんどん進化していくことでしょう。カリソルブは健康保険が適用されないため、自費診療となります。

薬剤を注入して歯を再石灰化・修復する、歯髄温存療法

虫歯が進行すると、エナメル質や象牙質のさらに奥にある歯髄にまで達します。歯髄には神経が通っているため、この段階になると神経が炎症を起こした歯髄炎といわれる状態になり、歯がズキズキと痛くなります。今まで、この状態になると歯髄を抜き、穴のあいたところの治療を数回行い、最後に被せ物をするというのが標準的な治療法でした。でも、これは決してベストな選択ではありません。

 

というのも、歯髄にある神経は、脳に情報を伝える大切な役割を果たしているからです。また歯髄の中には、歯に栄養を送る働きをする血管や、歯の象牙質を作る細胞や免疫細胞なども入っています。歯髄を抜いてしまうと、歯の残った部分に栄養が行かなくなるためもろくなり、割れやすくなります。つまり、歯をより健康な状態に保つためには、歯髄は抜かないで残すほうがいいのです。

 

うれしいことに、近年、歯髄を残せる「歯髄温存療法(MTA)」という治療を行えるようになってきました。MTA(Medical Trioxide Aggregate)という、ケイ酸カルシウムを主成分とした薬剤で、歯髄の細胞を活性化させたり、歯髄が見えかかっている歯に対して、セメント質を作って再生させたりする作用があるものです。虫歯の穴があいて神経が見えかかっているところに薬剤を入れることによって、中のセメント質が再石灰化して歯が修復できます。

 

まだあまり日本では知られていませんでしたが、私は2017年の初めに北欧から薬剤を輸入して、患者様方の治療に役立ててきました。MTAは自由診療ですが、その後の歯の健康を考えると、歯髄を抜いてしまう従来の治療よりもはるかにいいと思います。

 

従来の治療では将来的に歯髄を抜いた歯が割れてしまう原因になります。さらなる治療が必要になることを考えると、残せる歯髄は残して歯の健康を維持していったほうが、身体的にも精神的にもいいのではないでしょうか。

 

「歯の治療は痛くて怖いもの、何度も通わなければならない、時間のかかるもの、という先入観が、見事に覆されました」とユキエさん。ユキエさんは2本あった虫歯のうち、程度が軽かった1本をカリソルブで、歯髄が見えかかっていた1本を歯髄温存療法で治療しました。いずれも痛みがほとんどなく、短時間の治療ですみました。「こんなにいい治療法があるのなら、歯科受診をためらわずにもっと早くすればよかった」と思ったのだとか。

 

今まで左の虫歯になったところに食べ物が入ってしまうのが気になって、右でばかり噛んでいました。そのため、お顔の右側の筋肉だけがよく使われ、お顔が左右非対称になっています。「抜けたところに人工歯を入れることで、左側でもきちんと噛めるようになり、お顔が左右対称に整ってきますよ」という私のアドバイスを受けて、ユキエさんは抜けたままにしていた奥歯を入れることを決意されました。
 

 

酒井 暁美

アミーズ歯科クリニック 理事長

 

美容歯科医がこっそり教える ほんとうのきれいをつくる方法

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酒井 暁美

幻冬舎メディアコンサルティング

「口の中」から始める、本当のキレイの作り方 「自分の顔が気に入らない・・・美容整形に行こうかしら」 その悩み、ちょっと待って! 美容歯科で解決できます。 女性歯科医がこっそり教える、「口の中」から始める美人の…

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