うまく噛めず消化不良、実年齢以上のしわのリスクも…
虫歯などで歯を失い、「人に見えない場所だからいいわ」などと放置している方が多く見られます。ユキエさんもその一人でした。でも実はこれ、絶対にやっていただきたくないことなのです。
たった一本でも歯を抜けたままにしていると、食べ物がうまく噛めません。消化不良などの原因になるだけでなく、発音にも影響を与えますし顎の骨も吸収してきますので、美容上もよろしくないのです。というのも、全部の歯がそろっていて左右均等に噛めることで、お顔の筋肉が鍛えられバランスが整ってくるからです。つまり均等に噛めないというのは、それだけで美容上、マイナスになってしまうのです。
たとえば、欠損した歯をそのままにしている方によく見られるのが、実年齢と比べて過剰にしわがあるケースです。私はしわそのものがよくないとはまったく思っていません。年齢相応のしわは、その方の人生が感じられて美しいものだと思います。ただ、年齢に不相応なほどのしわがある場合、歯の欠損などお口の中に原因があることが多いので、治療を受けることを考えていただきたいと思います。
欠損した歯をそのままにしておくと、他の健康な歯にも悪影響が及びます。抜けた歯のスペースを埋めるように、隣の歯や上あご、下あごの歯が寄ってきて噛み合わせが悪くなったり、歯と歯のすき間が広がって、虫歯や歯周病の原因となったりします。歯を失ったら必ず人工の歯や義歯を入れるようにしましょう。
当院ではいくつかの治療法の中から、患者様を最大限に美しく見せる方法を選んでご提案させていただいています。というのも、
●美しさの基準は人それぞれ異なるので、一概に「こう」と決めつけられない
● 患者様の追求したい美と、医学的に行うべき美が融合して初めて本当の美が完成する
と考えているからです。私はこれを「美の法則」と呼んでいます。
ユキエさんの場合、ご本人の希望と可能な治療法を考え合わせたとき、インプラントが最適と判断しました。
噛む力が強く、審美性も優れているインプラント
インプラントとは、失った歯の代わりに人工の骨を入れる治療法です。まず外科手術を行ってあごの骨に人工歯根を埋め込みます。埋め込んだ人工歯根は、しっかり骨がある場合、上あごの場合5か月前後、下あごの場合は3か月前後で骨と結合します。その後、上に人工の歯を取りつけて完了となります。
インプラントのメリットは噛む力の強さと審美性にあります。図表2は、天然の歯の噛む力を100%としたとき、人工歯がどれくらいの力を持っているかを比較したものです。ノンクラスプデンチャーなどの審美義歯の場合、手術不要で歯茎に被せるだけと手軽ではありますが、噛む力は20%にとどまります。両隣の歯を犠牲にして固定するブリッジでも60%です。
ところがインプラントだと天然歯のおよそ90%の噛む力が得られるので、よく咀嚼ができるようになります。よく咀嚼ができるようになると、お顔の筋肉が鍛えられてしわやたるみを予防するだけでなく、唾液の分泌が促進され、免疫力がたかまるなど、数々の健康上の効果が得られます。
安全にインプラント治療を受けるためには?
インプラントは歯を失った人にとって画期的な治療法ですが、患者様に合ったクリニックを選ぶことが大切です。その目安となるのが、特定非営利活動法人・歯科医療情報推進機構(IDI)という歯科医院を審査・認証する第三者評価機関の発行する、インプラントセーフティーマークです。
この機関は、インプラント治療を安全に行い、患者様方に安心して治療を受けていただくため、歯科クリニックごとの自己責任に任せるだけでなく、全国統一の安全・安心水準のガイドラインを決め、それをクリアしているかどうかを厳密に審査するために設立されました。
水準をクリアしている施設にはインプラントセーフティーマークが付与され、このマークを持つ施設はまだ数は少ないですが、全国どこでも同じ対応ができるシステムになっています。
奥歯の1本くらいなくても問題ないだろうと思っていたユキエさんですが、実際にインプラントを入れてみて、歯がなかったときは噛み合わせがおかしくなっていたことを実感できたそうです。
「今までお口の中のことは、あまり考えたことがありませんでした。でも、ちゃんと治療するとこんなに快適になるものなのですね!」
とユキエさん。長年、悩まされてきた原因不明の湿疹も、毛髪ミネラル検査の結果から、子供のころ治療を受けた銀歯による金属アレルギーということがわかり、こちらの治療も受けることになりました。
酒井 暁美
アミーズ歯科クリニック
理事長