結婚、離婚、親子、養子、扶養など、個人と家族に関する法律を対象とする「家族法」。私たちの日常生活と密接に関係した法律であり、その理解は欠かせません。本連載では、書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)より一部を抜粋し、結婚・離婚と親子関係にまつわる法律をわかりやすく解説します。

無意識に「家制度」の名残を引きずっている可能性も

◆婚姻と戸籍①~「入籍しました!」は本当?

 

●「入籍」って本当?

 

若い女性芸能人がうれしそうな表情で「今日入籍しました」と記者会見している様子がテレビで放映されることがあります。「今日婚姻届を出しました」より、かっこいいのか重みがあるのか知りませんが、あまのじゃくな私は「本当?」と思ってしまいます。

 

婚姻(結婚)するときに出す届けは「婚姻届」であり、「入籍届」ではありません。「戸籍法」も「婚姻」と「入籍」は分けて扱っています。婚姻後の氏は夫と妻、どちらの氏を名乗ってもかまいません。

 

このとき、夫の氏を名乗ることを選択した場合、戸籍筆頭者は夫になります。反対に、妻の氏を名乗る場合、戸籍筆頭者は妻となります。本籍地も決めなければなりませんが、どこにでも自由に決めることができます。日本では婚姻に際して夫の姓(氏)を名乗る方が96%を占めますからその前提で考えてみます。

 

●「婚姻届」を出すと

 

「婚姻届」を出すと普通は夫も妻もその親の戸籍から出て、新たな戸籍が編製されます。やっかいなのは「戸籍」の記載です。現在の「戸籍全部事項証明書」では、「身分事項」に「出生」「婚姻」と書いてあるだけですが、以前の様式の「戸籍謄本」では夫も妻も「○○(通常は父)戸籍から入籍」と書いてあります。ただし、初めのほうに「婚姻の届出により夫婦につき本戸籍編製」と書いてあります。

 

●「入籍」とは?

 

「入籍」とは、すでにある誰かの戸籍に新たに入ることです。養子縁組をして養親の戸籍に入る場合、離婚した(戸籍筆頭者である)夫の戸籍に(結婚して)入る場合、「分籍」して(戸籍筆頭者となった)夫と結婚する場合、離婚した夫婦の子が「氏」を変更して父の戸籍から母の戸籍に入る場合などがあります。

 

したがって、「結婚しました」が「入籍しました」で間違いではない場合もあります。でもみんながみんな「入籍しました」と言うのは「?」です。

 

●民法改正

 

民法の家族法部分(第4編親族、第5編相続)は、日本国憲法(とりわけ24条)に基づき、1947(昭和22)年に全面改正されました。その大きな特徴は、明治以来の「家制度」を廃止して、男女の平等を徹底したことであり、家族を夫と妻、親と子、親族相互の個人と個人の権利義務関係として規定し、個人を基礎に置いたことです。

 

「今日入籍しました」発言は、その意図はともかくとして、「婚姻届を出して正式に戸籍上も夫婦になった」という意味で「入籍」という表現を使ったのかもしれません。しかし、無意識に「家制度」の名残を引きずっている可能性もあります。

離婚した父母が再婚…子の戸籍はどうなる?

◆婚姻と戸籍②~「準正」という制度も見直すべきでは……

 

●生年月日が合わない

 

相続がらみで戸籍を見ているとき、「あれっ」と思いました。近藤剛さんと昌子さんは昭和33年6月に結婚しています。ところが長女のぞみさんは昭和24年11月生まれです。結婚の約9年前に生まれています。養子縁組の記載はありませんし、認知の記載もありません。「何か事情があったのだろう」とあまり気に留めていなかったのですが、必要があって別の戸籍を見て以下の事情がわかりました。

 

●離婚と再婚

 

近藤剛さんを中心に整理します。

 

 ・昭和24年に昌子さんと結婚、長女のぞみさん出生

 ・昭和25年、離婚

 ・昭和27年、竹田房江さんと結婚

 ・昭和32年、離婚

 ・昭和33年、再度昌子さんと結婚し翌年長男勇さんが出生して現在に至る

 

結婚し、離婚する。その後同じ人同士が再婚する。特に驚くことでもありません。夫婦と二人の子の関係にも何も問題はありません。

 

近藤剛さんのケースはちょっと複雑ですが、あり得ることですし、こういう例を見たこともあります。先の戸籍の剛さんの欄をよく見ると、「昭和27年竹田房江と婚姻」の記載に続けて、「竹田房江同籍洋子を認知、昭和28年11月」と記されています。洋子さんについてはそれ以上の記載はありません。今回のケースは昌子さんが相続人であり、剛さんも房江さんも相続には関係がありませんでした。したがって、房江さんの婚姻前の戸籍は取得せず、確認はできていませんが、洋子さんの記載があるはずです。

 

●認知準正と婚姻準正

 

剛さんと房江さんの婚姻前に生まれ、婚姻後認知された洋子さんのケースを「認知準正」と言います(民法789条2項)。父による認知後父母が婚姻した場合を「婚姻準正」と言います(民法789条1項)。いずれにしても、父による認知と父母の婚姻によって「嫡出子の身分を取得する」ということです。

 

「準正」は「嫡出子=婚内子」「非嫡出子=婚外子」に法的、社会的に差別があることを前提にした制度であり、日本以外の多くの国には「準正」という制度自体がありません。2013(平成25)年12月の民法一部改正によって婚外子の相続差別がなくなった現在、「嫡出子」「準正」という制度自体を見直す必要があるのではないでしょうか。

 

●洋子さんの戸籍

 

洋子さんは剛さんと房江さんの「準正」による嫡出子ですが、剛さんの戸籍には記載されません。実は、竹田房江さんを筆頭者とする戸籍に洋子さんだけが残っているのです。嫡出子となったから自動的に剛さんの戸籍に入るわけではなく、市町村役場に「子の氏の変更」を届出れば剛さんの戸籍に入ります。この場合、父母が婚姻中なので家裁の許可(審判)は不要です。戸籍はややこしいですね。

 

 

長橋 晴男

長橋行政書士事務所

 

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    本連載は、2017年12月20日刊行の書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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