資産家のタイプによって有効な相続対策は変わってくるが、企業経営者が自社株を引き継がせる「事業承継」は民法・税法のみならず会社法まで関わり、難解なイメージが付き纏う。そこで本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長であり、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役の岸田康雄公認会計士/税理士が「企業経営者」の相続対策を解説する。第25回のテーマは「社長交代のタイミング」について。

65歳の社長が70歳で引退する…5年の猶予しかない

事業承継における後継者の選定には、現経営者の引退の時期が関連しています。仮に現在65歳の社長が70歳に引退すると決めたとすれば、5年以内に後継者問題を解決し、経営承継を実行しなければなりません。つまり、5年間の猶予しか残されていないのです。

 

経営承継の時期は、現経営者の体力や健康状態を考慮に入れつつ、後継者の育成状況を勘案して決めるべきでしょう。経営承継を決定したならば、その時期を社内へ公表し、取引先企業や金融機関へ告知することが必要となります。

 

下記の[図表1]は事業承継計画の例です。

 

[図表1]事業承継計画の例
[図表1]事業承継計画の例

 

経営承継のタイミングを決めるにあたり、具体的には、2つのアプローチをすり合わせることになります。一つは、現経営者の引退したい気持ちと健康状態に応じて、「現経営者がいつまでに引退したいか」決めるアプローチです。いくら死ぬまで働きたい、まだまだ元気だといっても、現経営者の肉体的・精神的な老化現象は避けられないことです。

 

もう一つは、後継者の決意と覚悟、能力・経験の度合いに応じて、「後継者がいつ社長になりたいか」決めるアプローチです。後継者教育を完了させるまでに数年の期間が必要となります。

 

現経営者としては、いつまでも(死ぬまで)自分のやり方で経営を続けたいと思うかもしれません。しかし、老化による不適切な経営判断が、事業価値に及ぼす弊害も無視できません。また、現経営者が病気や事故で急死することになれば、会社は大混乱に陥ります。

 

企業経営が止まることで事業価値に悪影響を及ぼすような事態に陥る前から、現経営者は引退の準備を進め、その一方で、後継者は社長就任の準備を自発的に始めなければなりません。

後継者による事業性評価は不可欠

一方、対象会社の事業価値の存続が可能なのか、後継者は事前に分析しておく必要があります。事業性評価のためのデュー・ディリジェンスです。事業価値が明確になっていないと、後継者は何をどのように経営すればよいのか、わからないでしょう。承継に成功しても事業が破綻してしまえば意味がありません。後継者教育や経営承継へ向けての手続きも、事業価値の維持が前提となって行うことなのです。

 

また、後継者が経営権を引き継ぐことを決めた場合、役員・従業員や会社関係者が心理的、物理的にその決定をスムーズに受け入れるかどうかが重要な問題となります。この点については、経営承継に向けて関係者が動き出す過程において、ある程度の説明と事前対策を施すことができます。現経営者が独断的に決定し、周辺には何の説明もしていないという状況のまま、突然の社長交代を行うことがないよう、事前に関係者への周知を図ることが必要です。
 

 

 

岸田康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

 

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