資産家のタイプによって有効な相続対策は変わってくるが、企業経営者が自社株を引き継がせる「事業承継」は民法・税法のみならず会社法まで関わり、難解なイメージが付き纏う。そこで本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長であり、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役の岸田康雄公認会計士/税理士が「企業経営者」の相続対策を解説する。第22回のテーマは「無形の経営資源の承継」について。

株式承継だけでなく「経営承継」を考える必要がある

賃貸不動産を所有するのであれば、その不動産の運営と管理は外部の管理会社に委託することが一般的でしょう。しかし、企業経営は、不動産のように管理会社に丸投げというわけにはいきません。非上場株式という個人財産を所有する場合、その会社の経営は、基本的に企業オーナーが自ら行うことになります。

 

上場企業のような「所有と経営の分離」を行わないのであれば、外部専門家に経営を委任するケースは少ないはずです。つまり、非上場株式という個人財産には、企業経営という仕事が伴います。株式を承継した後継者が、自ら経営を行わなければならないのです。

 

生前に非上場株式を贈与する際にも、企業経営の承継が不可欠です。不動産の賃貸経営と異なり、株式さえ承継できれば相続対策が完了というわけにはいきません。企業オーナーは、株式承継と経営承継という2つの側面から事業承継を考える必要があるのです。これが企業オーナーの相続対策の着眼点です。

目に見えにくい「無形の経営資源」を承継するには?

[図表1]目に見えにくい無形の経営資源
[図表1]目に見えにくい無形の経営資源

 

経営承継に求められるのは、後継者の代になってもお金を稼ぎつづけることです。つまり、継続的に利益を生み出すことが可能となるような事業価値の継続です。このような事業価値を実現するためには、優れた商品開発能力、技術力、容易に真似のできないビジネスモデルやのれん、信用力、顧客関係、ブランド等、付加価値を生み出す経営資源(=事業価値)を事前に明らかにしておく必要があります。

 

事業価値を正しく認識することができれば、創業者が創りあげた事業を承継することも可能となります。ただし、事業価値のほとんどが目に見えない資産や経営資源ですので、株式や事業用資産という目に見える財産のように容易に承継することはできません。人間の能力や知的資産(技術、ノウハウ、顧客など)等の目に見えにくい無形の経営資源をどのように後継者に移転するか、経営承継の方法が問題となります。

 

たとえば、ある会社(製造業)にとって高い技術力が重要な経営資源となっている場合、その事業価値をどのように承継すべきでしょうか。高い技術力が会社の組織全体で共有できている場合、その承継は比較的容易でしょう。しかし、高い技術力を持つのが経営者個人である場合には、社長交代によって消滅するため、それを承継することが困難です。もし経営者が突然の病で引退することにでもなれば、その技術力を承継できる者がいないため、事業価値を存続させることが難しくなるでしょう。

 

事業価値が経営者の個人的能力に依存している場合、現状のままのかたちですぐに経営承継することは難しいといわれています。それゆえ、早急に事業価値を承継しやすいかたちにする仕組み、組織作り、または承継させるべき後継者の育成が必要となります。

 

予定している後継者では事業価値を維持するのが難しいと判断された場合、経営承継のための仕組み(組織等)を再検討するか、または別の後継者候補を選定しなければいけません。それができない場合には、M&Aなど別の事業承継の方法を検討しなければなりません。

事業価値を維持するための仕組みや組織作り

中小企業では、会社の事業価値が経営者個人に依存しているケースがほとんどです。しかし、経営者個人に集中していた事業価値を、他の一個人が承継することは、人材の厚みの乏しい中小企業にとって難しい問題となります。

 

それゆえ、このような状況で経営承継を円滑に進めるためには、経営者によるワンマン経営から、従業員も加えたチームで組織的に経営する体制に移行する必要があります。

 

すなわち、個人が有していた貴重な経営資源を、組織全体で共有できる仕組みを作ることが必要となります。これによって、事業価値の消滅を防ぐのです。

 

組織的な経営体制を採用する場合、意思決定を経営者個人で行うのではなく組織で行うようにシステム化することが必要です。経営者個人に集中していた意思決定権限を、従業員に委譲することによって、経営者個人への依存度を低くするのです。

 

職務分掌を明確にすることで、権限の委譲が可能となります。それとともに委譲された権限に基づく意思決定の際の判断基準も明確化すべきでしょう。経営者が去った後の新しい経営理念や経営方針を確立し、浸透させなければなりません。

 

しかし、組織体制を作ったとしても、経営者の経営管理能力に欠ける場合は問題となります。この点については、優秀な経営者人材を集めることが容易ではない中小企業にとっての限界だといわざるを得ません。それゆえ、結局は後継者個人が自ら学習し、経営管理能力を習得してもらうしかないのです。経営承継させる後継者の育成が、極めて重要な意味をもつことになります。
 

 

 

 

岸田康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

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