北側のトイレ・洗面所・浴室の「極端な温度差」
真冬でもヒートショックの心配がなく、Tシャツ1枚で家中を歩き回ることができ、スッキリと布団から出られる家。それが欧米では当たり前の、本当の意味での高気密・高断熱住宅です。
しかし日本の高気密・高断熱住宅の多くは、実際に住んでみると、高気密・高断熱住宅というのは名ばかりで、まったく快適ではないことに驚かされます。このような住宅は残念ながら本物ではありません。
特に冬になると、部屋ごとの温度差が激しく、廊下や浴室の凍えるような寒さ、床の冷え冷えとした感触に悩まされる人が後を絶ちません。そんな家屋では、急激な温度差によって心臓や血管に負担がかかるヒートショックのリスクも高くなります。
エアコンやストーブが効いた暖かい部屋から寒い廊下に出ると、体がゾクゾクして震えあがります。これは、急激な体温の低下を防ぐため、体温を調節しようとしている証拠です。
ヒートショックは最悪の場合、脳出血や心筋梗塞などの病気につながり、命を落としてしまうこともあります。特に高齢者や血圧の高い人、血管の病気を持つ人は注意しなければいけません。
ヒートショックを起こしやすい場所は、洗面所や浴室、トイレなどです。これらの場所は、日本では日当たりの悪い北側に配置されるのが一般的です。北側は日が当たらないだけにかなり冷え込んでしまい、真冬では暖かい部屋との温度差が14℃を超えることもあります。
また、全国の家における冬の寝室の平均室温は10℃、トイレの室温は約8℃といわれています。布団の中がだいたい30〜32℃ですから、深夜トイレに起きただけでも、20℃以上の温度差を感じ、身震いを起こします。
これが冬の間毎日続くと、年齢問わず体に致命的なダメージを受けることになります。高齢者や体が弱っている人が血管系の病気を発症してしまうのも、無理のないことです。そのため、多くの家では体への負担を和らげるために、「前もって脱衣所・浴室・トイレをヒーターで暖める」「お風呂に入る前は、手足など心臓から離れている部分に『かけ湯』をする」「おじいちゃん、おばあちゃんは一番風呂を避ける」といった、涙ぐましい努力をせざるを得ないのです。
予算をかければ「断熱性能」は高めることができるが…
場所ごとの室温の違いをなくし、ヒートショックを起こさない「体にやさしい家」をつくる上で大事になるのが「断熱」です。
断熱とは、簡単にいうと、床や壁、屋根から伝わる熱の流れをさえぎり、室内に寒さや暑さの影響を伝わりにくくすることです。断熱されていない家は、例えば夏なら強い日差しが屋根にあたることで屋根面の温度が80~100℃にまで上がり、小屋裏の温度も60~80℃に上がるので、まさにサウナ状態で窓を開けてもまったく涼しくなりません。
断熱性能が高まれば、冷暖房費の節約になりますし、より快適に過ごすことができます。適した場所に適した断熱材を使って家の熱伝導率を低くすることで、夏涼しく、冬暖かい家をつくることができます。
一般的に、内部に空気をたくさん閉じこめたものほど、熱を伝えにくくする性質があります。家を建てる時に使われている断熱材は、この空気の断熱性能を利用したものが多いのです。ロックウールやグラスウール、セルローズファイバーなどの「繊維系断熱材」は、繊維のすき間に乾燥した空気を蓄えています。
一方で、ポリスチレンフォームやウレタンフォームなどの「発泡系断熱材」は、気泡の中に閉じ込めた乾燥空気の断熱性能を利用しています。それぞれの材料ごとに長所・短所がありますが、経年劣化の起きにくいものを選ぶことが最も重要です。
家の断熱性能をいっそう高めるためには、「より断熱性能の高い断熱材を使用する」「断熱材を厚くする」「断熱材と断熱材の間にすき間をつくらないように施工する」「断熱材の経年劣化を小さくする」といった条件をクリアする必要があります。これらの条件をクリアしていくほど断熱性能は高まりますが、それに比例してイニシャルコスト(工事費)も高くなります。
家を建てる上で予算は大切ですが、予算に気を取られすぎて安さだけを追求すると、その後の住みやすさや家族の健康にまで大きく影響することに、注意しておかなければいけません。
すき間だらけの断熱材…低レベルな施工技術にがく然
家の断熱には、「内断熱」と「外断熱」の2種類があります。
内断熱(充塡断熱)は、柱と柱の間に断熱材を入れる断熱工法のことで、日本で広く普及しています。内断熱のメリットは、何よりも施工コストが安いことです。ただし、柱と柱の間に断熱材を入れ込んでいく工法のため、柱のあるところは断熱が途切れてしまい、そこから熱が漏れ、断熱欠損になります。
また、工務店やハウスメーカーの施工技術が低レベルで、入れ込んだ断熱材がすき間だらけの場合は断熱性能が極端に下がりますし(断熱欠陥)、家の内外の温度差によって結露が生じやすくなり、家の寿命が短くなってしまいがちです。
職業柄、私は新築の建築現場を見かけると、どのような施工を行っているのか見るクセがあります。その際、断熱材がすき間だらけだったり、ヒートブリッジ(熱橋・断熱性能が劣る部位)だらけで断熱性能に問題があったりして、がく然とします。つくり手の知識と技術を疑う施工があまりにも多く見受けられるのです。
断熱材がすき間なくしっかりと充塡されているかどうかは、工務店やハウスメーカーの腕と頭次第です。同じ断熱材を使っていても、しっかり充塡されていなければ性能が著しく劣ってしまいます。
一方で外断熱(外張り断熱)とは、柱の外側に断熱材を張ることです。家を板状の断熱材ですっぽりと覆うことで、外断熱による魔法瓶のような効果を生み出し、熱が逃げにくく、同時に入りにくくなります。外断熱は、基礎や梁、柱、屋根のすべての構造材が断熱材で包み込まれるので、日光の輻射熱や放射冷却の影響が少なく、外気から遮断されて一定の室温を保てるのが特徴です。部屋ごとの温度差が生まれにくく、結露の心配も少なくなります。
また、小屋裏も自由に使えるのでロフトや収納に活用できたり、吹き抜けにして天井を高くしたりするなど、利便性も高くなります。ただし、外断熱はまだ国内では十分に普及しておらず、施工コストが高いことが難点です。
断熱性能や気密性能でいうと、外断熱のほうが圧倒的に優れています。床下から小屋裏まで、快適な環境を年中保つことができるためです。しかも、外断熱の家は軀体(くたい=基礎や壁、柱など、建物の構造を支える骨組み)の中がすっぽりと断熱材に包まれて保護されているので、給湯給水配管や電気配線などが外気温や風雨などの影響を受けることがないというメリットがあります。
家の配線の耐用年数は一般的に30年といわれており、それ以上住むには途中で配線をすべて取りかえなければなりませんが、外断熱で保護されることにより、その心配が少なくなります。
「信頼できる施工業者」かどうかを見分けるには?
ただし、内断熱にせよ外断熱にせよ、施工がしっかりしていないと、断熱材の性能は著しく悪くなり、断熱の意味がなくなります。そして、残念ながら知識や技術に乏しい施工業者は、決して少なくありません。
断熱材は外側から見ることができないので、工務店やハウスメーカーの選別は入念に行う必要があります。くれぐれも「全国CMを流している有名な大手住宅メーカーだから安心」といった安直な理由で依頼先を決めないでください。
また、ニセモノの「外断熱」には注意が必要です。
ひとことで外断熱の住まいといっても、実は家の基礎の部分は内断熱になっていたり、屋根部分ではなく2階の天井裏で断熱をしていたりと、外断熱の定義から外れる場合が多くありますので、事前に断熱材の使用部位をよく確認しなければいけません。
信頼できる依頼先かどうかを見分けるための一つの目安として、家の性能をあらわす「C値」と「UA値」を示してくれるかどうかを確認する方法があります。もし工務店やハウスメーカーの担当者が「C値? UA値? 何のことですか?」といってきたら要注意です。
C値とは「相当すき間面積(㎠/㎡)」のことで、家の気密性能(すき間がどのくらいあるか)を示す指標です。家全体にあるすき間面積(㎠)を延べ床面積(㎡)で割ったもので、この数値が0に近いほどすき間が小さく、気密性が高いことを意味します。
床面積1㎡あたり、C値が5.0以下の住宅を「気密住宅」と呼びます。次世代省エネルギー基準により、寒冷地である断熱地域区分のⅠ、Ⅱ地域(北海道)ではC値2.0以下、その他の地域ではC値5.0以下となるように規定されています。
UA値とは「外皮平均熱貫流率(W/㎡・K)」ともいい、住宅の断熱性能を数値で表したものです。建物内外の温度差が1℃のときに外部に触れている部位ごとの熱損失量の合計を外皮面積の合計で割った値のことをいいます。この値が小さければ小さいほど断熱性能が高く、熱が逃げにくい建物であることを意味します。
いくらすばらしいデザインで高価な材料を使った家でも、C値とUA値が高ければ、夏暑く冬寒い住みづらい家である可能性が高いといえるでしょう。