本連載では、書籍『“健康住宅”のウソ・ホント』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、耳ざわりのいい健康住宅の「宣伝文句」のウソを暴いていく。

24時間の「換気システム」が義務づけられたが…

近年、家を建てるポイントとして、ヒートショック対策だけでなく、「空気の質」も大きく注目されてきています。特にアレルギー症状がある人は空気への関心が高いようです。

 

花粉や排気ガスのみならず、家の中で発生するダニやカビ、微生物による空気の汚れについても懸念しています。人は1日に約20㎏(1万4400リットル/体重50㎏の人の場合)もの空気を摂取しています。

 

これは、飲み食いを含めた全体の物質摂取量の、およそ7割もの量を占めています。さらに摂取する空気による影響について、子どもは大人の約2倍ともいわれていますので、1日の多くの時間を家で過ごす乳幼児を持つ家庭にとって、空気の質はとても大切な要素になります。

 

日本で高気密・高断熱住宅が普及して以降、家の気密性が高まって換気能力が低下したことで、ホルムアルデヒドなどの化学物質やカビ・ダニなどが室内を汚染し、シックハウス症候群やアレルギー症状を訴える人が増加しました。すき間の多い昔ながらの日本家屋では換気はほとんど必要ありませんでしたが、高気密・高断熱住宅では自然に風が吹き込まず、家に悪い空気がとどまってしまうためです。

 

このことから2003年、建築基準法の改正によって、住宅内の空気を1時間で半分(2時間ですべて)入れかえる「24時間換気システム」の設置が義務づけられました。換気システムとは、窓を開けなくても家の中の換気設備を使うことで、強制的に室内の空気を入れかえるシステムのことです。24時間換気システムは高い換気能力を持つことから、日本の新築の住宅に広く取り入れられるようになりました。

 

高気密・高断熱住宅が換気をしなければいけない主な理由は4つあります。

 

まず一つ目が、先ほど挙げたシックハウス対策。

 

二つ目が、人が呼吸するときに出る二酸化炭素の排出。

 

三つ目が、においや煙、水蒸気などの排出。これは局所換気といい、キッチンで魚を焼いたり、風呂場で湯気が出た時など、一時的に換気の必要が生じた時だけ換気を行うものです。キッチンのレンジフード、風呂場の換気扇などがこの局所換気に分類されます。

 

そして四つ目が、家の中から湿気を排出して結露の被害から守るための全館換気です。

 

これらの換気を行うのが24時間換気システムですが、これが取りつけられているからといって安心というわけではありません。建築基準法では、家の気密性に対する基準は定められていません。もしその家の気密性が低くてすき間が多い場合、計画的な換気はできません。

 

掃除機のホースが穴だらけではゴミを吸い取れないように、部屋の汚れた空気を吸い出そうとしても、隅のほうの汚れまでは吸い出せないためです。なお、換気装置を有効に働かせるには、C値が1~2以下でないと難しいことが分かっています。

 

また、そもそもいいかげんな換気計画に基づく設備も驚くほどたくさんあります。例えば、キッチンやお風呂、トイレに換気扇を取りつけただけで換気システムだといい張り、十分にお客様に説明しない悪質なハウスメーカーも中にはあります。これらを24時間回しっぱなしにする人はほとんどいませんから、とても不健康な家になってしまいます。また、簡単な壁つけの換気扇や、換気機能を持ったエアコンなども一応換気システムとして認められていますが、これでは能力が弱くて正確な換気はできません。

建築基準法で定められている換気風量では不十分⁉

どのように換気を行うかで、換気システムはいくつかの種類に分類されます。

 

住宅の換気システムで主に使われるのは「第1種換気」または「第3種換気」です。第1種換気とは、給気・排気ともに機械によって行う方法です。比較的気密性の低い住宅でも、安定した換気効果が得られます。また、空気を取り入れる際に、給気口にフィルターを組み込むことで花粉・チリや虫などの侵入を防ぐことができます。さらに給気・排気の熱交換(室内の汚れた空気を排出する時、熱の一部を回収して室内に入る外気に移すこと)によって、室内温度に近づけます。

 

第3種換気は、部屋の壁に穴を開けた給気口から自然給気を行いますが、排気は第1種と同様に機械で行うタイプの換気方法です。単純かつ低コストで、給気のためのダクトが不要なので多く用いられていますが、各室に取りつけた給気口から冬には冷気、夏には熱気、さらに一年を通じて騒音やにおいが入り、冷暖房費も余分にかかるため、もはや時代遅れの換気システムになりつつあります。さらに先ほど述べた理由により、気密性能の低い住宅の場合は、計画的な換気ができなくなってしまうという報告書も出ています。

 

こう聞くと第1種換気のほうが良さそうに思えるかもしれませんが、第3種換気はもちろん第1種換気を採用した場合でも、実は、換気が十分にできていない場合が多いことはあまり知られていません。

 

そもそも、建築基準法で定められている換気風量はシックハウス対策のためにつくられた最低基準なので、二酸化炭素や湿気などの対策には不十分なのです。人が呼吸する時に出る二酸化炭素の量は、安静時で1時間あたり15リットル程度です。この二酸化炭素をすべて屋外に排出するには、1時間あたり20~30㎥の換気が必要です。

 

現在の日本の基準では、住宅内のすべての空気を1時間で半分入れかえる程度の換気量しか確保されていませんので、計算すると8畳間では1時間あたり16㎥程度しか換気されません。この状態では、大人2人が寝ているとすると、二酸化炭素濃度はすぐに急上昇して、身体に悪影響を及ぼしてしまいます。実際に二酸化炭素を測定してみると良いでしょう。

二酸化炭素の濃度が高い部屋に長時間滞在するリスク

室内における二酸化炭素濃度は、普段あまり意識されないものですが、私たちの生活にさまざまな弊害をもたらします。人が呼吸すると、二酸化炭素が排出されます。室内に人がいるだけで、酸素濃度は徐々に減少していき、逆に二酸化炭素は徐々に増加していきます。

 

通常の大気での二酸化炭素濃度は300~400ppm(パーツ・パー・ミリオン)程度ですが、市街地の外気では400~600ppm程度とされています。ビル管理法で定められた二酸化炭素の基準濃度(1000ppm)を超すとあくびが出て眠気を催したり、空気が悪いと感じたり、集中力や思考力にも影響を及ぼします。

 

二酸化炭素濃度が2000ppmを超えてしまうと、頭痛や倦怠感、注意力の欠如、心拍数の増加、吐き気などの諸症状が発生し、あきらかに問題がある状況となります。健康のためには、どのような状況下でも1000ppm以下を厳守すべきだと主張する専門家もいます。

 

大手ハウスメーカーによって建てられた高気密・高断熱住宅に住んでいる家族を対象に、夜中の二酸化炭素の濃度の変化を観察する調査があり、そこから驚くべき結果が明らかになっています。

 

第3種換気を取り入れている家では、家族4人が寝息を立てている6畳の寝室の二酸化炭素はなんと3000ppmを超えており、きわめて不十分な換気状態であることが分かりました。

 

また、第1種換気を取り入れている家でも、家族3人が寝ている寝室では2000ppmを超えてしまい、十分な換気ができていないことを示す結果でした。二酸化炭素の濃度が高い部屋に長時間とどまると、さまざまな体調不良の引き金になります。

 

日本ではほとんど議論されていませんが、健康・福祉の先進国であるスウェーデンでは、ビルばかりでなく一般の住宅においても、人が暮らしている状態で二酸化炭素濃度が1000ppm以下になっているかどうかは、非常に重要な議論の一つになっています。

 

くり返しますが、現行の換気システムは、人の呼気を含めた総合的な空気浄化を考えたシステムではないため、二酸化炭素の排出が十分にできません。基準の換気量はクリアできていても、すべての空気が入れかわるわけではないので、どうしても空気の流れに「よどみ」ができてしまうのです。

 

日本は世界でも数少ない「緑化面積70%以上」を達成している緑あふれる国です。それゆえ、多くの人は空気に対して鈍感な部分があるのではないでしょうか。特にシックハウスやハウスダストが大きな問題となっている今、家の中のよどんだ空気を入れ替える「換気」には敏感にならなければなりません。

 

空気がよどんでしまうと、二酸化炭素濃度だけでなく、身体の不調をまねくさまざまな問題が発生してしまいます。それは、空気中を漂うホコリやカビ、ダニなどによる被害です。これらは、正しく換気ができていない、よどんだ空気や湿気の多い場所を好んでいます。

 

以降で詳しく説明しますが、正しく換気ができないシステムの家で暮らし続けたら、本当に健康的な生活を送ることから遠ざかってしまうことは間違いありません。

“健康住宅"のウソ・ホント

“健康住宅"のウソ・ホント

杉山 義博

幻冬舎メディアコンサルティング

ハウスダストによるアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、ヒートショックによる心筋梗塞や脳梗塞など、住まいが私たちに与える健康被害が大きな問題となっている。住宅メーカーは競って「健康住宅」を称して家づくりを提案をし…

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