次第にユーザーの支持を獲得していった「ウエディングパーク」。そこには、サイトの信頼性を高めるために設けた、あるルールがありました。それは…。※サイバーエージェントのグループ企業で、日本最大級のクチコミ数を誇るウエディング情報サイトを運営する「ウエディングパーク」。キーエンス出身の敏腕営業が飛び込んだネットビジネスの最先端で、時代の寵児・藤田晋氏とかかわりながら育てたサイトは、これまで何度も危機を乗り越えながら、現在の地位を獲得しました。本連載は、書籍『僕が社長であり続けた、ただ一つの理由』から一部を抜粋し、熱血社長による、ウエディングパーク立ち上げの道のりを紹介します。

カップルの「貢献欲求」こそ、クチコミへの意欲の源泉

正しいことをしている、と胸を張って言えるためにも、結婚式をすでに終えたカップル、参列したカップルから寄せられるクチコミには、極めて丁寧に接していました。クチコミのクオリティを担保することこそが、ウエディングパークというサイトの価値を大きく左右すると強く感じていたからです。

 

ですから、僕はクチコミのすべてに目を通していました。ウエディングパークの運営幹部である創業者二人と僕の計三人で、情報を分け合って管理する方法もあったのかもしれませんが、僕は譲りませんでした。すべて僕が責任を持って見る、ということをルールにしていました。

 

クチコミ情報サイトですから、サイトがオープンする時点でそれなりの数のクチコミを持っておく必要があります。そこで、早い段階からクチコミを集める取り組みを推し進めました。最低2万件は集めよう、と考えていました。

 

こうしたクチコミの収集はサイバーエージェントにもノウハウがあり、インターネットプロモーションを使うことで、それほど難しいことではありませんでした。ギフト券のプレゼントなど、インセンティブも付けたりしていましたが、僕が改めて実感したのは、ウエディングのクチコミに関しては「これを伝えたい」「これを見てほしい」というユーザーの思いが想像以上に強い、ということでした。

 

自分の体験を知ってもらい、それが記録に残ることは、自分の記念にもなります。こんなに苦労して、こんなに良い結婚式ができた、式場への感謝も含めて見せたい、というカップルたちの気持ちがウエディングのシーンでは大きく高まっていたのだと知りました。

 

ですから、ギフト券がもらえる、何かのプレゼントが当たる、といったことよりも、自分の記念としてクチコミ情報を残したい、結婚する人の役に立ちたい、式場にお礼をしたいという貢献欲求のある人が多いことが改めて分かったのです。おかげで、クチコミは本当にたくさん集まりました。思いの詰まった、長文の投稿もありました。

 

少しネガティブなクチコミにしても「こういうところがもう一つだったけれど、トータルで見ればやっぱり良かった」というものが多かった。お祝いごとですし、みんな最終的には良い思いに着地させたいのだと改めて思いました。これは、僕たちが意図してコントロールしてこうなったのではなく、自然にそうなっていったのです。

 

僕は明らかな誹謗中傷や「良かった」といった具体性に欠けるクチコミは公開を控えましたが、あとは誤字などの編集もしませんでした。すでに内容は深いものがありましたし、本当に役に立つ情報だと思ったからです。結果的に、クチコミはサイトを見に来るユーザーにとても受け入れられるものになり、このサイトはいける、という手応えを感じました。

 

ただ、それでも結婚式場から見れば、ちょっとしたマイナス情報が「営業妨害」に映ってしまいかねません。クチコミ情報の取り扱いには十分に注意しなければいけないとも思っていました。また、場合によっては意図的で悪質な誹謗中傷も起こり得るかもしれないと考えました。

「投稿者の会員登録」と「責任者によるクチコミ承認」

そこで、二つのルールを定めたのでした。一つは、クチコミの投稿者には会員登録をしてもらう、ということです。信憑性を維持するために個人情報を登録し、会員になる人でないとクチコミ投稿はできない。端的にいえば、もしウソの情報を投稿したりすれば、こちらから問いかけをすることができる、ということです。

 

実際、なりすましでの投稿がなかったわけではありませんでした。驚くべきことに、近隣の同業者が低い点数をつけたりしようとしていたこともあり、削除や警告など対処をしていきました。

 

もう一つが、僕一人が見て、クチコミを承認していく、ということです。当初は何が良いクチコミなのか、ルールがあまりはっきりしていませんでした。僕の主観で選んでいることが、社内の不信感につながったりもしました。

 

しかし、クチコミの品質が会社の信頼になっていくことは確信していました。社内でも、一つのクチコミで大きく揺れたりするのです。そうなると、これを託すことができるのは、一貫性のある人、そして信用できる人でなければいけないと思いました。もとより大切なことをやっているということを一番信じているのは、自分だという自負がありました。そうなると、僕が砦にならなければいけない、と思いました。社内でも社外でも、嫌われても良いからやるしかない、と。

 

毎日22時をクチコミ承認時間と決めていました。その日に上がったクチコミは、チェックして毎日22時にアップする。ささやかなことですが、その日に一生懸命にクチコミ投稿したカップルが、次の日の朝、サイトを見たときに、自分たちのクチコミがアップされていたらうれしいだろうな、と思ったからです。

 

こうしてクチコミはどんどん増えていきました。やっていることは間違っていない、という確信はますます高まりました。しかし、想定外だったのは、売り上げがついてこなかったことでした。クリック広告が、なかなか受注できなかったのです。

 

CAJJプログラムのプレッシャーもありました。それでも、売り上げを獲得するために、クチコミに関わる信念を曲げることは、絶対にしませんでした。

ユーザーに会員化のメリットがないのであれば…

クチコミはどんどん入るけれど、売り上げは苦戦しました。当初のビジネスモデルは、先にも紹介したクリック課金でした。結婚式をしようとしているカップルがウエディングパークにやってくると、全国の式場のクチコミ情報や評点を見ることができます。そして、有料広告契約を結んでいる結婚式場やホテル、レストランなどは、クチコミ情報の横にクリックボタンがついていて、それを押すと、それぞれの式場やホテル、レストランなどの公式ホームページに飛ぶことができます。

 

そして、公式ホームページや写真を見て、やっぱり良さそうだな、クチコミも良いし、写真を見ていても自分のイメージに合うな、と思ったらここで個人情報を入力して、見学や予約などのアクションに移ることになります。しかし、ウエディングパークでは、クチコミを投稿するとき以外、会員登録を必要としていません。

 

結婚式というのは、大変な高額商品です。僕たちウエディングパークのスタンスとしては、それだけの費用がかかるものは、最終的に式を挙げるところの公式なサイトから予約をされたいのではないか、と思いました。

 

通販サイトでモノを買うのとは、まったく違うのです。高額な商品を、窓口になっているようなサイトで申し込みたいかどうか。また、今でこそセキュリティが高まって、個人情報をインターネットで入力するハードルはどんどん下がっていますが、当時はとても慎重な時代でした。その意味で、式場やホテルの公式ホームページにスムーズに行ってもらい、予約を入れてもらうのが一番良いと思ったのです。

 

しかし、このやり方で良いのか、と社内外から指摘を受けたことは、一度や二度ではありませんでした。個人情報を入力してもらって、ウエディングパークの個人会員になってもらう。そのほうが、個人情報も集められるし、ユーザーも囲い込める。結婚式場にも影響力を持てるのではないか、と。

 

確かに会員になってもらえば、ウエディングパークとしてはユーザーの状況、嗜好なども分かります。会員化しなければ、ウエディングパークは個人に対して何もできません。そのまま、公式ホームページに行ってもらうしかない。確かに、会員化のメリットは僕たちのビジネス上にはあったのかもしれません。しかし、僕はその選択をしませんでした。

 

ウエディングパークは、式場を探すことに特化しています。会員になっても、式場を選んでもらったら、その後のつながりはない。果たして会員になるメリットがあるのか、ということです。

 

僕は思っていました。ユーザーの役に立つサイトをつくる、と言っておきながら、ユーザーの役に立たない行動を求める。これは、言っていることと、やっていることが合わないのではないか、これでは信用にはつながらない、と。

 

ビジネス上のメリットが欲しいというだけで会員化しようとするのは、あくまでウエディングパークだけの事情です。それはいつかユーザーには分かってしまうと思いました。このサイトは、ユーザーのためを思って、と言っているのに、そうじゃない行動を取っている、と。こういうちょっとしたところから、ユーザーとの信頼関係は綻びていくと僕は思っていました。それは、ユーザーには分かるのです。ユーザーに申し訳ないことは、すべきではないのです。

 

会員化するメリットがユーザーにないのであれば、会員化ビジネスはやめようと僕は決めました。個人情報をもらうのもやめる。あくまでも、結婚式に関わるクチコミを中心とした情報提供に価値を感じてもらおう、というこだわりを貫きました。

 

 

日紫喜 誠吾

株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長

 

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

日紫喜 誠吾

幻冬舎メディアコンサルティング

ウエディング業界の常識を変えた革命児の揺るぎない「信念」とは? 誰もが「失敗する」と笑ったビジネスでなぜ成功することができたのか。 20年続くあるベンチャー企業の軌跡。 役員・従業員の大量離職、 事業の方向転換…

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