東銀座の6畳ほどのオフィスに、創業経営者が二人
2003年の末、僕はサイバーエージェントを離れ、ウエディングパークの事業責任者として、子会社化された会社に行くことになりました。名目上の社長は藤田社長が務めましたが、実質的に僕が会社を率いる責任を持つことになりました。
藤田社長から「ウエディングパークをやらないか」と打診を受けたとき、会社の状況やビジネスモデルなどについて、細かな説明はありませんでした。損益状況がどうなっているかも聞きませんでした。何も準備されていなかったし、僕も聞く余裕がなく、「ベンチャーなんだから、こんなものだろう」くらいのスピード感で、その場で引き受けたのです。
何より、ウエディングという事業について運命的だと思いましたし、藤田社長から抜擢を受けて期待されたこと自体がとてもうれしかったのです。
まずは、会社を見に行こう、ということで、「そもそも、どこにあるんだろう」から始まって、僕は当時ウエディングパークを運営していた会社に行くことになりました。
東銀座にあった6畳ほどの小さなオフィスには、創業経営者二人がいました。サイトがスタートして5年。当初は順調だったようですが、途中で同業者がスタートしたインターネット事業が好調でユーザーを奪われてしまいます。一時は数十名を超える社員がいたそうですが、売り上げの急落とともに減り、起業当初の二人だけが残っていました。
自分たちだけでも細々と食べていければ、とギリギリで何とかしのいでいる状況。損益計算書を見せてもらうと、かなり厳しい状況であることが分かりました。このまま行けば、破綻せざるを得ない。僕にも、それが予想できました。
そんなとき、サイバーエージェントから買収の申し出があったわけです。創業経営者にとっては、まさに奇跡的な話だったようです。M&Aの話もトントン拍子に進み、「サイバーエージェントと一緒にやりたい」と後も役員として残ることが決まっていました。二人とも、僕より5歳年上でした。
僕が責任者として行くことになっても藤田が社長を務めることになったのは、すでに創業して5年経った二人がいて、ウエディングのビジネスモデルも分からない僕が最初から社長ではこじれかねない、という藤田社長の判断があったからでした。一旦は藤田社長がウエディングパークの社長を兼務し、僕は営業本部長で入ったのです。藤田社長には一言、こう言われました。
「謙虚にやってね」
あとは進捗をしっかり伝えることが求められました。創業者だった役員二人とは、一緒に頑張っていきましょう、ということで最初の挨拶となりました。
ビジネスモデル転換のミーティングは「激論」に
しかし、会社の状況を見れば、このまま続けるわけにはいきません。まったく展望がないわけです。ビジネスモデルを大きく変えざるを得ませんでした。
ウエディングパークを買収した一つの経緯は、SEO検索で1位だったことでしたが、藤田社長には、一つのアイディアがありました。当時、グーグルのサイトリスティング広告が日本に上陸したところで、式場のホームページに誘導するというクリック課金モデルが有効なのではないか、と考えていたのです。これなら結婚式場に対して、低単価での広告出稿の提案をすることができます。
とはいえメディアですから、ユーザーが安定的に来ないと事業としては成立しません。ウエディングパークにしかないもので、何か差別化できそうなもの、ユーザーを惹きつけられるものは・・・。そして、僕自身の結婚式場探しの体験を通して生まれたのが、クチコミでした。
2004年1月から、サイトがオープンする6月16日までの約半年間、ウエディングパークの事業を一気につくり替えるという取り組みを、僕は推し進めることになります。しかし、これが簡単なことではありませんでした。
ウエディングの事業については、役員二人のほうが圧倒的に詳しいのです。特にクチコミのサイトにする、ということに関しては当初反発を受けました。あり得ない、と。
ビジネスモデル転換を巡るミーティングは、最初から激論になりました。しかし、僕は最初こそ肝心だと思っていました。中途半端に遠慮するとうまくはいかない。向こうにも言い分はあるかもしれないけれど、僕が何を考えているのかを、繰り返し伝えていかないといけないと思っていました。激突しながらも、理解をしてもらえるようになりました。
当時の僕が心掛けていたのは、今ではやってはいけない働き方ですが、始発で出社して、終電で帰ることでした。創業者の二人に信用してもらうためには、創業者以上に頑張っている、ということを見てもらうしかないと思っていたのです。
サイバーエージェントで局長をやっていました、なんてことは、サイバーエージェントでは通じても、ここでは通じない。そんな中で、心を開いてもらうには、彼ら以上に働いて、圧倒的な努力を見せるしかない、と思っていたのです。
最終的には、僕の努力も認めてもらい、とても関係性は濃くなりました。三人でお互いにバランスを取りながら、徐々に仲を深めていくことができました。
日紫喜 誠吾
株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長