みんなの力で少しずつ育ってきたサイト、「ウエディングパーク」。ユーザーファーストではなく「三方良し」を目指した理由は…。※サイバーエージェントのグループ企業で、日本最大級のクチコミ数を誇るウエディング情報サイトを運営する「ウエディングパーク」。キーエンス出身の敏腕営業が飛び込んだネットビジネスの最先端で、時代の寵児・藤田晋氏とかかわりながら育てたサイトは、これまで何度も危機を乗り越えながら、現在の地位を獲得しました。本連載は、書籍『僕が社長であり続けた、ただ一つの理由』から一部を抜粋し、熱血社長による、ウエディングパーク立ち上げの道のりを紹介します。

「ユーザーファーストだけでは不足」という気づき

サイトがオープンし、クチコミはどんどん集まってきましたが、売り上げは苦戦しました。毎日、午前0時に僕はその日のクリック数がどのくらいだったか、確認することを当時の僕は日課にしていました。クリック数に200円をかければ、その日の売り上げがシンプルに計算できてしまうからです。

 

先に、「あなた方がクリックした分も、広告費として取られてしまうんじゃないか」という式場側の素朴な疑問があったと書きましたが、それを防ぐための対策は、すぐにシステム化して手を打ちました。売り上げのためにも、もちろんクリックは喉から手が出るほど欲しかった。ところが、なかなかクリックが増えてくれない。200円の重みを改めて実感しました。

 

しかし、不正をしてはいけません。それはスタンスとしても持っていましたし、システムとして抑えられるようにすることで、おかしなクリック数が出ることはない、ということは、お客さまにもよく伝えていました。

 

当初、僕と創業者の役員二人でスタートした事業でしたが、営業などの人員を少しずつ増やしていくことになります。半年で粗利月500万円というCAJJの期限がどんどん迫ってきたからです。僕自身も、自ら営業現場に足を運びました。直販営業が基本ですから、全国を飛び回りました。

 

この少し後に営業担当として入社し、現在はウエディングパークの役員を務めている作間の営業に同行している時、彼にこんな話をしたことを覚えています。

 

CAJJプログラムの期限に迫られていたとき、社員は不安になっていました。もっと言えば、いったい自分たちは何のために仕事をしているのか、ということが見えなくなってしまったのだと僕は思っていました。このサイトが何のためにあるのか、です。自分なりにこのとき振り絞ったのが、「三方良し」でした。もちろん、良い結婚式を挙げたくて、クチコミを見に来たカップルにとって、ウエディングパークは役に立つことができます。しかし、そのためだけではない、と僕は改めて思うようになっていました。

 

なぜなら、結婚式場も真剣に仕事をしている、ということを改めて知ったからです。どうしてクチコミにあれだけ敏感に反応されたのか。それは、一生懸命に仕事をしていた、ということにほかなりません。

 

式場とコミュニケーションを交わすようになり、あるいはクレームに対応しているうち、結婚式場が持つ苦しみや、リアルな現場の大変さが見えてきました。カップルとどう向き合っていくか、というのは一筋縄ではいかないのです。

 

クチコミサイトというと、「ユーザーファースト」という言葉が真っ先に浮かびます。ユーザーが満足すれば、お客さまはついてくる、とも言われます。しかし、僕はそうは思いませんでした。ユーザーのためにサービスをしているのは、業界の方々なのです。その意味で、業界の方々と正しい関係になっていくことも大事。両方が発展していくことが望ましい、ということです。

 

そしてもう一つが、ウエディングパークが、そしてウエディングパークの社員が幸せに頑張れることです。

 

ユーザー、式場、我々の「三方良し」を目指していこう。今は苦しいけれど、そこに行きたいと思っている。そんな自分の考えを伝えていました。結婚式場からのクレームは相変わらずありましたが、いつも締めの言葉でこう言っていました。「いつかこのクチコミを使っていただいて、より良い結婚式場になられることを僕たちは信じています」。きれいごとと思われるかもしれませんが、そう信じるしかないと思っていました。そこに意味があるのだと思っていました。

 

毎日たくさんのクチコミを読んでいて、僕は改めてウエディングの素晴らしさを感じていました。みなさん、ウエディングへの愛情が人一倍あるのです。だから、もっと良くなってほしい、と考えている。切実に考えている。

 

実際、「着替えようと思ったら場所がなくて、タオルで隠されながら着替えた」なんて赤裸々な新婦のクチコミもあったのです。まさかこんなことが、です。「私は我慢するけれど、次の新婦にあんな思いをさせたくないから、ぜひ直してほしい」「アップされなくても、ウエディングパークには知ってほしい」と。

 

こういうクチコミを見ると、僕たちの意義がある、と思うわけです。式場には言いにくい心情も分かる。でも、僕たちのような第三者のメディアがなかったら、こういう声はおそらく世の中に出てきません。流通していかない。祝い事でもあるからです。

 

これはやっぱり誰かが立たないといけないのです。そういう意識も、僕の中では芽生えていきました。「三方良し」にしないといけないし、「三方良し」が目指せる仕事なのではないか、と改めて思ったのです。

危機を救ってくれた、知り合いが経営する大手結婚式場

クチコミをまったくゼロのところから集め、チェックをして選び、サイトをつくり、お客さまを回り、時には叱られ、時には僕たちを信頼してくださって応援いただいて、ウエディングパークは少しずつ育っていきました。

 

もちろん、サイバーエージェントの子会社であるわけですが、厳しい状況に身を置かれたおかげで僕自身、創業者魂がふつふつと沸き上がっていました。自分の給与を上げるために仕事をしていない自分がいました。誰かに褒めてもらおうとか、サイバーエージェントで出世しようとか、そんな気持ちもまったくなくなっていました。

 

CAJJプログラムはもちろんありましたが、CAJJプログラムのために頑張っているわけではない、という思いも、気概としてありました。

 

自分がウエディングパークに全力を尽くしている、という強い気持ち。それこそを大切にしていたのです。やるべきことをやっている、世の中に求められていることをやっている。だから、こうと決めたらやろう・・・。振り返れば、良い意味で頑固一徹だったと思います。だからクチコミを消せと言われても、クレームで叱られても、ひるむことはありませんでした。

 

そんな僕たちの頑なな姿勢を、支持してくださるお客さまも次第に増えていきました。しかし、それでも現実は厳しかった。CAJJプログラムの期限は、着実に迫ってきていました。夜10時にクチコミを承認し、今日も良いことができた、と思っても、午前0時にクリック数を見て、売り上げが少ないことが分かると落ち込みました。

 

ワンクリックをもらうことの大変さ、200円を稼ぐことの難しさを改めて痛感させられました。サイバーエージェントの営業時代は、広告代理事業で数千万円の売り上げを当たり前のように上げていました。キーエンス時代も、良い商品を400万円、500万円という金額で売っていました。

 

しかし、さんざんクレームも浴び、200円のためにこれだけ苦労するのか、と改めて思いました。でも、これがおそらく、信用のないところから事業を始めるという大変さなのだ、と自分にも言い聞かせていました。創業の苦しみだ、ちゃんと味わわなきゃいけないことだ、と。

 

クリック数を急激に上げる秘策はありませんでした。CAJJプログラムでJ3からJ2に上がるには、半年で粗利月500万円を上げなければいけません。実は直前まで、その数字は間に合いませんでした。撤退の可能性は、すぐ隣合わせでした。

 

サイバーエージェントに頼んで、ウエディングパークにウエディングとは関係のない広告を入れる、という選択肢がありました。そうすれば、短期的に広告費を計上できる。しかし、僕はやりませんでした。結婚しようとするカップルに、ふさわしい広告とは思えなかったからです。

 

崖っぷちで救ってもらったのは、知り合いの経営者がいた大手結婚式場でした。僕は、クリック広告ではなく、いわゆる掲載型の純広告の売り上げとして出稿を検討してもらえないかと、お願いしに行きました。

 

ウエディングパークには、そんな広告のメニューはありませんでしたが、「メニューをつくるので、やってもらえないでしょうか」と頭を下げました。結果的にこのとき、大きな広告を出稿いただくことになります。この時は、チャンスをいただいて心から感謝をしています。

 

クリック課金モデルでは事業計画上、まったく間に合っていなかった状況の中、起死回生の広告受注をいただいて、まずはJ3からJ2への昇格がクリアになったのでした。しかし、僕は分かっていました。J2は藁にもすがる思いの中で、なんとか昇格できましたが、J1への昇格は、この3倍の額が必要になります。こうしたイレギュラーでは、もう続かないということです。このままだと、J1には絶対に行けない。

 

唯一の頼みは、契約数を伸ばしていくことのみでした。そこで、頑張って営業担当者を採用し、全体で20人まで社員数を増やしていくのです。

 

 

日紫喜 誠吾

株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長

 

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

日紫喜 誠吾

幻冬舎メディアコンサルティング

ウエディング業界の常識を変えた革命児の揺るぎない「信念」とは? 誰もが「失敗する」と笑ったビジネスでなぜ成功することができたのか。 20年続くあるベンチャー企業の軌跡。 役員・従業員の大量離職、 事業の方向転換…

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