今回は、ウェディングパークのスタートと、それに伴う苦難を見ていきます。※サイバーエージェントのグループ企業で、日本最大級のクチコミ数を誇るウエディング情報サイトを運営する「ウエディングパーク」。キーエンス出身の敏腕営業が飛び込んだネットビジネスの最先端で、時代の寵児・藤田晋氏とかかわりながら育てたサイトは、これまで何度も危機を乗り越えながら、現在の地位を獲得しました。本連載は、書籍『僕が社長であり続けた、ただ一つの理由』から一部を抜粋し、熱血社長による、ウエディングパーク立ち上げの道のりを紹介します。

想像以上に寄せられた、結婚式場からの「お叱りの声」

クチコミが掲載された結婚準備の情報サイト、そして広告主のホームページに誘導した分だけの広告費が発生するクリック課金という新しい事業モデルで、2004年6月、約半年の準備期間を経て、ウエディングパークは新たにスタートしました。

 

しかし、その船出は極めて厳しいものでした。ここから会社には、全国の結婚式場から怒濤のクレーム電話が殺到することになったからです。端的にいえば、「勝手に式場について、あれこれ書くとは何事だ」というものでした。

 

クチコミ情報サイトですから、ウエディングパークと有料契約を結んでいない結婚式場についても、ユーザーからクチコミが集まってきます。

 

もちろん、中には式場にとってありがたい、ユーザーならではの視点からのクチコミもありましたが、逆に式場としてはオープンにしたくない、辛口のクチコミもあったのです。こうした辛口のクチコミを、広告契約も結んでいるわけでもないウエディングパークが勝手に掲載するのはどういうことだ、というお叱りの声だったのです。

 

実は、当初から懸念はありました。創業者の二人は、ウエディングビジネスを熟知していましたから、先にも少し触れたように、クチコミサイトにすることには反対だったのです。ウエディングはイメージが極めて大事になるビジネスです。そんなところに、イメージに影響を与えるようなクチコミなんてものを勝手に出したらどういうことになるか。絶対にうまくいかない。そんなものが掲載できるわけがない、と。

 

しかし、僕は首を縦に振りませんでした。素人だからこそ、やってみないと分からないと思う、と返しました。まだ、今のようにSNSもブログもなく、個人がいろいろな情報を投稿したり、評価したりするような空気はまったくありませんでしたが、特定の業界では「アットコスメ」など、クチコミが人気になって成り立っているサイトもありました。

 

何より、結婚式をすでに経験していた僕自身がリアリティを持っていました。クチコミの情報は、きっとこれから結婚式を挙げていく人たちは知りたいだろうと思ったのです。コンテンツとしては極めて魅力的だと。だから、一旦やってみましょう、とかなり強気で押し切ったところがあったのです。最終的には、藤田社長が「クチコミサイトでいこう」と後押しをしてくれました。そんなふうにして、クチコミサイトにすることが決まった経緯がありました。

 

それだけに、オープンしてクチコミへのクレームの嵐になって、「そら、見たことか」となってしまったのです。創業者二人と僕との関係性は、微妙になりました。「言ったのは、日紫喜さんだよね」という空気の中で、ギクシャクが始まりました。幹部同士がなかなか共感し得ないジレンマに、いきなり創業時に襲われることになってしまったのです。

 

世の中的な認知として、当時はまだクチコミといえば悪口を書かれる、というイメージが強くあったのかもしれません。広告を出す場所、という認識もあまりなかった。悪いことを書かれてしまっては、ブランドイメージが下がってしまいかねないからです。

 

しかもウエディング業界では、インターネットの浸透がまだまだ進んでいませんでした。そうした認識すらなかったのが、本当のところでした。ところが、クチコミ情報を見たユーザーが、結婚式場に確認をしてしまったのです。

 

ページをプリントして、「こんなことを書かれていますけど、実際どうなんですか?」と聞きに行ったカップルも多かった。そこから、「このサイトはなんだ!」ということになっていったのでした。以来、結婚式場側には、かなりナーバスにクチコミをチェックされるようになりました。

 

僕が一つショックだったのは、「ウエディングプランナーが傷ついているんだ」という指摘を受けたことでした。一生懸命接客をしていたのに低い評点をつけられてしまったりする。「表情は笑顔だったけど、やってることはダメだった」などと書かれたりする。ウエディングプランナーがすごく残念がっていて、モチベーションを落としてしまっている。自信を持って接客ができない。どうしてくれるんだ。お前らのせいだ、と。

 

式場の評価だけではなく、従業員のモチベーションにも影響が出るくらい、全国の式場からお問い合わせをもらってしまうことになったのです。お叱りの声は、想像以上でした。そして、戦わなければならなかったのは、「クチコミを消してほしい」という、たくさんの声でした。社外だけではありません。社内からも、その声は上がっていたのでした。

事実に基づいた口コミさえ「消してほしい」と…

クチコミをめぐって想定以上のお叱りを受けてしまったのが、ウエディングパークの創業当時でした。今でこそ、SNSやブログ、さらには飲食や物販などでも個人が自由に投稿できるさまざまなサービスもあって、クチコミは当たり前に捉えられていますが、当時はまだそうした空気がありませんでした。これが、トラブルの種になったのです。

 

振り返って考えてみて、なんと厳しいことだったのかと思うのは、有料契約をしている「お客さま」ではない結婚式場から、厳しいお叱りを受けていたことです。中には、電話で激しく罵倒されることもありました。

 

広告でお金を頂戴しているお客さまからお叱りを受けるのであれば、仕事として、あり得ることです。僕はキーエンスでもサイバーエージェントでも営業の仕事をしていましたので、お客さまからのお叱りに対応することはしばしばありました。しかし、このときはお金を頂戴しているわけではないお客さまから、驚くようなお叱りを受けたこともありました。

 

これは後に書きますが、誹謗中傷以外で「柱が邪魔になって新郎新婦が見えにくい」「カーテンがとても古びていてイメージが悪かった」「徒歩5分と書かれていたけど、とても辿り着けないほど遠かった」といった事実に基づくクチコミは、結婚式を挙げたカップルの感想であり、こういうクチコミこそ共有すべきだと思っていたのです。

 

しかし、結婚式場からすれば、「そんなことを勝手に書くなんて営業妨害だ」の一点張りでした。「消さないと、営業妨害で訴える」と言われたこともありました。

 

しかし、「クチコミを消します」とは絶対に言いませんでした。クチコミを消すかどうかは結婚式場側の権利ではなく、メディア運営側の権利だからです。法的に、僕たちの規約の中でやっている、と押し通しました。「ご意見はよく分かりました。しかし、消せません」と僕は言い続けました。

 

「もうお前たちとは今後、絶対に付き合わない」と絶縁宣言されたこともあります。「広告は絶対に出さない」と出入り禁止を宣言されたこともありました。困ったのは、広告費を支払っていただいていた結婚式場に、あまりうれしくないクチコミが入り、「このクチコミを消さないと取引を打ち切る」と言われたり、「このクチコミを消してくれたら、広告出稿してもいい」という言い方をされたりしたことです。

一心に考えたのは、結婚するカップルに役立つビジネス

あるとき、創業者の一人で営業の責任者をしていた役員に、

 

「日紫喜さん、このクチコミ、ウソを書いていると言われたよ。だから、消してほしい」

 

営業としては、もちろん新規顧客の獲得はうれしい。それは分かりますが、だからといって、言われるままにすべて信じる、というのも問題です。実際、僕は自分でクチコミを承認していました。僕はそのクチコミは事実だと思っていたので、役員とは衝突することになり「無理です」と伝えて終電で帰りました。すると翌朝、電話に「もう一度検討してほしい。消してほしい」と貼り紙がされていました。しかし、僕は譲りませんでした。一件のクチコミを巡って社内で対立し、ますます険悪なムードが広がってしまいました。

 

僕を支えていたのは、結婚式を挙げるカップルに絶対に役に立てる、というクチコミ情報サイトへの強い共感でした。お叱りを受け、社内でも叱られ、自分のやっていることが本当に正しいのか、迷うこともなかったわけではありません。

 

しかし、正しいことをやっているという信念がありました。例えば、自分の子どもがウエディングパークで結婚式場を探す、となったとき、「こういうクチコミはありがたい」「こういうクチコミが見たかった」というサイトにしないといけないと思ったのです。

 

実際、後に少しずつ増えていく社員たちに伝えていたのは、「自分の家族や子どもが使いたいと思えるか」ということでした。正しいことをして役に立つ。自分が本当に信じられることをやり続ける。それこそが、考えるべき唯一のことだ、と。

 

「そんなに意固地にならなくても」「消してしまえば広告が入って儲かる」「もっとうまくいくビジネスモデルもあるはず」・・・。そんな声が聞こえてくることもありました。他の新規事業の責任者から、「なんだか日紫喜君はいつもキツそうだよね。いつも怒られて、げっそりしているけど、大丈夫?」などと言われたこともありました。

 

しかし僕は、周囲が思うほどキツいと思わず、とにかくがむしゃらに毎日を過ごしていたのです。

 

 

日紫喜 誠吾

株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長

 

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

僕が社長であり続けた、ただ一つの理由 ウエディング業界に革命を起こした信念の物語

日紫喜 誠吾

幻冬舎メディアコンサルティング

ウエディング業界の常識を変えた革命児の揺るぎない「信念」とは? 誰もが「失敗する」と笑ったビジネスでなぜ成功することができたのか。 20年続くあるベンチャー企業の軌跡。 役員・従業員の大量離職、 事業の方向転換…

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