企業経営者が急逝…相続税の納税資金をどう準備すればいいか?

資産家のタイプによって有効な相続対策は変わってくるが、企業経営者が自社株を引き継がせる「事業承継」は民法・税法のみならず会社法まで関わり、難解なイメージが付き纏う。そこで本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長であり、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役の岸田康雄公認会計士/税理士が「企業経営者」の相続対策を解説する。第22回のテーマは「経営者が急逝した際の対応」。

経営者が急死した場合の対応策

経営者でもある企業オーナーが病気などで突然に他界してしまうことがあります。非上場株式を所有して相続が発生すると、それに伴う相続税が問題となります。

 

この点、経営承継円滑化法の相続税の納税猶予制度を適用すれば、相続税はゼロとなりますので、問題は解決します。後継者に対する相続において納税資金を心配する必要はありません。

 

しかし、納税猶予制度を適用するほどの株式評価額ではない場合、また、後継者ではない相続人を交えた遺産分割に争いが生じてしまい、納税猶予制度を適用することができない場合には、相続税の納税資金をどのように準備するかが問題となります。

 

この場合、株式承継に伴う相続税の納税だけでなく、後継者ではない相続人に分散した少数株式の買取り等、多額の資金需要が発生することになります。

 

一般的に、相続発生直後に後継者が資金を調達する方法としては、自社株式を会社に売却する方法と、銀行または会社から借入れを行う方法の2つがあります。

 

企業オーナーの相続財産のほとんどを占める非上場株式は、換金性が著しく低い財産です。現金化する手段はほとんどありません。しかし、納税のために非上場株式を担保として借入れを行うとすれば、後継者は長期にわたって借入金の返済に苦しまなければなりません。

 

そこで、外部から資金調達するのではなく、会社に蓄積した余剰資金を使用します。これは、会社に対して自社株式を売却すること、逆から見れば、会社が自己株式を取得すること、いわゆる「金庫株」の活用です

会社に株式を買い取ってもらう場合の所得税

通常、株式をその発行会社に譲渡した場合には、資本金等の額を超える部分(=譲渡価額-資本金等の額)については、「みなし配当」として総合課税され、通常の株式等に係る譲渡所得と比較して、所得税負担が重くなります。すなわち、配当所得となる「みなし配当」には、最高税率55%(配当控除適用後48.6%)の総合課税が適用されます。

 

この点、相続により取得した自社株式を3年以内に発行会社へ売却した場合には、税務上有利な取扱いがあり、譲渡所得の税率20%で済ませることができます。すなわち、配当所得の総合課税ではなく、譲渡所得の20%申告分離課税となるため、所得税負担が軽くなります。

 

[図表1]自社株式の買取り
[図表1]自社株式の買取り

 

[図表2]相続以外で自社株式を発行会社へ売却した場合の税務処理
[図表2]相続以外で自社株式を発行会社へ売却した場合の税務処理

 

ただし、この特例を適用できるのは、株式を売却する相続人に納付すべき相続税額がある場合に限られます。すなわち、相続財産が基礎控除の範囲内にある場合や、配偶者の税額軽減の適用によって相続税額ゼロの場合などは、この特例を適用することはできません。これに加えて、その株式に対応する相続税額を、譲渡所得の取得費に加算することができるので、譲渡所得を小さく抑えることができます(取得費加算の特例)。

 

このように、相続発生時における自社株式の売却は、税務上有利な取扱いとなっています。経営者の急死によって相続税納付に充てる資金が必要になった場合、緊急対応策として活用すべき手段となります。


 

[図表3]相続発生時に自社株式を発行会社へ売却した場合の税務処理
[図表3]相続発生時に自社株式を発行会社へ売却した場合の税務処理

 

生命保険で買取り資金の準備を

注意すべき点は、会社法の取扱いです。会社法では、自己株式の有償取得も「剰余金の分配」とされており、分配可能利益の範囲内でしか自己株式を買い取ることができません。
また、会社法で認められたとしても、そもそも会社に購入代金として支払う現金がなければ買い取ることはできません。

 

そこで、突然の相続発生に備えるための資金として、十分な死亡保険金の生命保険契約を契約しておくなど、事前に財源を確保しておく必要があるでしょう。今後の法人契約の生命保険は、節税目的ではなく死亡保障目的とすべきです。

議決権割合の低下に注意せよ

会社法でもう一つ注意しなければならないのは、発行会社が自己株式を買い取ることによって、株主の議決権割合が変化することです。会社が所有する自己株式には議決権がないこととされているため、支配権を有していた企業オーナー一族の議決権割合が低下し、少数株主の議決権割合を高めてしまうこととなります。少数株主から株式を買い取ることが必要となるでしょう。

 

また、少数株主からも株式を買い取るとすれば、会社から多額の資金が流出します。会社自身の資金繰りに十分配慮することが必要でしょう。納税資金を会社が支払う場合には、自己株式の買取り資金の流出に加えて、オーナー交代による一時的な信用力の低下や、本業のキャッシュ・フロー悪化が発生することもあります。

死亡退職金の非課税枠を活用

なお、突然の相続発生時には、会社から死亡退職金や弔慰金を支払うことができます。これらには一定の非課税枠がありますから、税負担なく納税資金とすることができます。

 

[図表4]弔慰金と死亡退職金の計算例
[図表4]弔慰金と死亡退職金の計算例

 

 

岸田康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

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島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

一橋大学大学院商学研究科修了(会計学及び経営学修士)。 国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)、公認会計士、税理士、中小企業診断士、一級ファイナンシャル・プランニング技能士。日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。
中央青山監査法人(PricewaterhouseCoopers)にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門(不動産投資)、SMBC日興証券企業情報本部(中小企業オーナー向け事業承継コンサルティング業務)、みずほ証券グローバル投資銀行部門(M&Aアドバイザリー業務)に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と組織再編のアドバイスを行った。

WEBサイト https://jigyohikitsugi.com/

著者紹介

連載企業経営者の相続対策〜公認会計士/税理士岸田康雄氏の<動画>解説付

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