「新規指導」とは、厚生局による国家試験のようなもの
新規指導って何?と思われる方も多いと思いますが、これは開業後、避けては通れない厚生局による国家試験のようなものです。内容は、「あなたの医院では、まともな運営がされていますか。もし間違っていた場合、半年くらいで指導すれば、まだやり直す数もしれているから早めに対処して下さい」。という意味合いの医院の審査だと思って下さい。
厚生局は、開業して半年をめどに医院に出局の通知をしているとのことですが、実際には都市部では開院数が多いためか、やや遅めに来ます。大体9ヶ月から一年くらいで通知が来るようです。私のところは4月開業でしたが、12月の終わりに通知が届いて、翌1月下旬に書類を揃えて来なさいというものでした。通知が来てから出局まで1ヶ月しかないので、何も準備していないと結構ギリギリになります。ありがたいことに、木曜日の午後を指定されていたので休診を作らずに行けました。
小心者の私は、開業半年の10月頃から、はやる気持ちを抑えられず、12月初旬には製薬会社の開業支援部隊の協力を取りつけてシミュレーションを済ませておいたので、それほど慌てずにすみました。
出局の5日前、実際の提出カルテ10通が指示されたのち、電子カルテの社員に来てもらって、カルテの印刷をしました。1号用紙は決まった書式があるので、分からない場合は最初の通知があった時点で医師会か厚生局に取りに行く必要があります。それに沿った形に表紙が出るように、事前に電子カルテ会社にフォーマットを作らせましょう。
2号用紙に検査の結果が貼りつけられない場合は、別紙印刷して持っていくのでもOKです。体裁を整えるために書き直しをしたりするのは、内容の改ざんではなくても記載日時が狂ってしまいます。疑義が生じた場合は、再度初稿の提出を求められることもありますので、多少完璧さに欠ける部分があってもそのままにしておきましょう。電子カルテには診察時間(記載日時)が入っているので、その部分に関しては紙カルテよりも透明性が高くなります。
用意する書類は結構多くなります(図表参照)。
私のところは、私(院長)と家内(会計代表)、主任(受付代表)の3人で行きましたが、一人一人が大きめの手提げ袋を持って行くくらいの分量になりました。当日、他院の先生も別室で同時刻に呼ばれていたので廊下で顔を合わせましたが、なんと段ボール三箱分の書類を持って来られてました。
以下、記憶を元に再現します。
新規指導の流れ
時間になって入室すると、厚生局の係官二人(主官、副官)と主任判断医(主先生)、医師会の副判断医(副先生)の4人がおられました。まずは自己紹介を求められます。事前に知らされていなかったため、お見合いの場での両家の挨拶のように緊張しましたが、役所だからしょうがないと腹をくくります。まず私の挨拶の後に家内と主任を紹介し、本人達にも挨拶をさせます。こちらの紹介が終わると、取り調べ側(スミマセン)の挨拶があります。主先生の顔が強面だったのでちょっとドキドキしましたが、副先生が優しそうな方でしたので、話が変な方向に行った場合はきっと助けてもらえると信じて、粗相の無いように努めました。
まずは、主官が進行します。書類提出を求められますので、言われたときに慌てないように、頭の中で、袋のどこにしまったかを整理しておきます。その書類を副官、主先生がざっと流し見します。その間に主官から簡単な質問を5つほどされました。
電子カルテですか?
一人一人に違うパスワードにしていますか?
パスワードは定期的に変えていますか?
自家診療(自分の医院で自分を診ること。健康保険の関係でその家族、スタッフを診ることも含むときもある)はしていないですか?
スタッフを診療した場合は代金をいただいていますか?
などです。
ちなみに、答えはすべて「イエス」でした。早朝・夜間加算を取っている医院では、診療時間が30時間以上あるかを見られるので、診察時間を書いた掲示表か口頭での説明が必要になります。時間外加算などを取っている場合は、それぞれに適用条件を答えられるようにしておきます。冒頭質問で上手く答えられるかどうかで、気持ちの落ち着きが変わってくると思います。
主先生がチェックするのは、事前に指定されていた患者さんのカルテです。10人分のカルテチェックがありますが、7~8人ほど見て、特に問題が無いと判断された場合は、残りはさっと流されることもあります。逆に、1、2人目で大きな不具合が見つかった場合は、すべてのカルテを念入りにチェックされることになるでしょう。指導にかかる時間ですが、通常45分~1時間程度と言われています。私のところは、30分程度で終わったので優秀だったのではないでしょうか。隣室からは、かなりやりあっている声が聞こえていたので、何が指摘されたのかは分かりませんが、険悪な雰囲気になっていたのは間違いありません。
後日、主官から訂正箇所の指摘書が届きます。満点はありえないので、指摘された箇所をどのように直したか、今後どのようにミスを減らしていくのか改善点を書いた書類を提出して終了です。この時点でミス(例えば、取ってはいけない点数を申請していたなど)が発覚すれば、二カ月分の返戻を指摘されますが、指摘された患者さんの分のみです。あくまでも新規指導は、おだやかな経過をたどります。
しかし、これをなめてかかると(例えば、指摘書に返答しない、そもそも出局しないなど)、今度は真の個別指導に呼ばれます。そこでは30人のカルテを準備させられ、指摘を受けると、当該患者のみならず、過去一年間の全ての患者チェックを指導され、かつ取りすぎた点数の自主返還を要求されます。そうなると、医院の自信がゆらぐだけでなく、膨大な事務作業も発生することになり、とてもブルーになります。個別指導が恐れられている理由です。こうならないためにも、まずは新規指導は、ノンミスを目指して準備していくことが大事だと思います。
個人のレセプト平均点数が高いと「集団指導」が…
高い点数の手術などを専門にするクリニックでは、個人のレセプト平均点数が上がります(眼科だと、硝子体手術をしているような医院)。逆に手術なしでたくさんの患者さんを診ているクリニックでは、一人あたりの点数が下がります。この平均点数が高いクリニックは、呼び出されて指導が入るのです。
指導といっても実際は集団的個別指導として集められて、他科の先生と合同で講義を聴いて終わりです。上位8%、平均点数の20%を超えている医院の先生が指導対象になっています。悪質と判断されて本当の個別指導をされる場合とは異なりますので、呼ばれたら勲章のように思っている先生が多いようです。一回呼ばれると2年間は行かなくてよいので、次は3年後らしいです。
聞いた話では、形成外科の先生は、保険適応で手術をしている場合、呼び出される確率が高くなるようです。皮膚科と同じグループに入っているのですが、患者さんは皮膚科ほど多くないので、平均点数は手術がある分、高くなるからです。なお、科別の平均点数は厚生局のホームページに記載されています(自院の点数も厚生局の地方事務所に問い合わせたら教えてもらえるそうですが、火中の栗を拾う的な恐さがありますね)。
開業して数ヶ月したときに、自院の平均レセプト枚数と点数がレセコンで把握できると思います。平均を極端に超えているクリニックは避けようがないですが、そのボーダー前後にある医院の先生は、少し気にしておいて損はないと思われます。
中内 一揚
中内眼科クリニック 院長