経営の成否を握るのは「スタッフの活かし方」
クリニック運営をスムースに軌道に乗せるには採用したスタッフをどのように活かすかにかかっていると言っても過言ではありません。そこで、そのために私が重要と考えることや大切にしていること、実際に私のクリニックで実践していることを具体的にお伝えしたいと思います。
まず、院長とスタッフ、そして組織のチームメンバーであるスタッフ相互の継続的な信頼関係を築くことが開院直後の最優先事項と考えます。チームメンバーそれぞれがお互いに心が通い合い、どんなことでも話し合うことができたり、あるスタッフの言ったことや考えていることを他のスタッフが十分に理解できることが重要で、こういう関係をラポールの形成がなされているといいます。
組織内でラポールを形成するには、開院直後はまずは「質より量が大切」と考えます。ラポールの形成は、もちろん、クリニックの日常業務の中で徐々に形成されていくものでもあるでしょうが、経営者でもある院長が積極的にラポールの形成ができるような機会を提供することで、より早くより強く構築できると考えます。そこで、そのために私のクリニックで実際に行っている取り組みを一つずつご紹介していきましょう。
◆朝礼で「Good & New」を発表
私のクリニックでは、朝礼、昼礼、終礼を行っていますが、そこでは、集まったスタッフそれぞれが考えていることやそれぞれの想いをチーム全員に知らせることを大切にしています。
例えば、朝礼では、「Good & New」といって、前日の朝礼終了後から今まで24時間に経験したよい(Good)出来事、あるいは新しい(New)発見を一つ話すという課題をスタッフに与えています。その内容は仕事中の出来事でもプライベートでの出来事でもよく、とにかく自分自身で発見し心動かされたことと、それに対して感じたことを発表し合います。
その時、集まったスタッフは、Good & Newを発表したスタッフは何に心を動かされ、その時の気持ちや感情はどうだったのかを共有することに努めます。これを毎日続けていると、徐々にそのスタッフの人格を周りのスタッフが理解できるようになるのではないかと私は考えています。あるいは、発表したスタッフのものの捉え方や考え方を感じることによって相手のことを知り、その人と成りに興味を持つきっかけになるとも考えています。
かの有名な世界的ベストセラー、スティーブン・コヴィ博士の『七つの習慣』にも、まず「相手を理解することから始める」と書かれています。ラポールの形成のための第一歩は、自分がどういうことに心動かされ、そしてそのことに対してどういうふうに思ったかを周りの皆が共有することから始まると考えます。そして、徐々に相手の感動に自分の心も一緒に動かすことができるようになることが大切なのではないでしょうか。
◆経営理念「クレド」に対する個々の考えを皆でシェア
世界で一・二を争うサービスを提供しているザ・リッツ・カールトンホテルでは、企業理念の書かれたクレド(経営理念)をスタッフに携帯させ、個々のスタッフの行動規範としています。クリニックも医療というサービスを患者さんに提供していると考える私は、私のクリニックでも経営理念などが書かれたクレド手帳をスタッフに携帯させています。しかし、その理念についていくら私が熱い想いを語っても、また、クレドを持たせていても、ただそれだけでは、スタッフ一人ひとりの心に響かず、したがってクレドがクリニックのスタッフに浸透することにはならないと考えます。
そこで、朝礼・昼礼・終礼などで、一人ひとりのスタッフがクレドをどのように理解し、どのように感じているのかを発言してもらって、私がその考えを受けとめ、それに対してフィードバックするようにしています。これを日々繰り返すことで、各スタッフのクレドに対する理解の度合いとともに質も高まるのではないかと考えているからです。
前述のGood & Newもそうですが、各スタッフが自分の想いや考えを発表する場や、周囲に知らせる機会を少しでも多くつくることは、個々のスタッフが自分の考えでクリニックに相応しい行動ができるような成長を促すとともに、私とスタッフ、スタッフとスタッフ間のラポールの形成には非常に重要で欠かせないことです。
オープンな人間関係の維持、コミュニケーションの強化
◆各スタッフのプロフィールを公開
私のクリニックでは、スタッフ全員のプロフィールを院内のソーシャルサイトで公開しています。公開する内容は、名前は当然のこと、出身地や趣味、私のクリニックに就職した動機やきっかけ、さらには他人にされて嬉しいこと、反対に他人にされて嫌なことや悲しくなること‥‥などなど。このような個人情報の公開については、それを望まない人もいると思うので、採用試験の際に個人情報の公開の可否を尋ねて、望まない人の採用は見送るようにしています。
皆さんは「ジョハリの窓」という言葉をご存知でしょうか? 「ジョハリの窓」とは、自分をどのように公開しどのように隠すか、コミュニケーションにおける自己の公開とコミュニケーションの円滑な勧め方を考えるために提案された対人関係における気づきのグラフモデルのことです。
ジョハリの窓には、「公開された自己(open self)」「隠された自己(hidden self)」「自分は気がついていないけれど他人からは見られている自己(blind self)」「誰からもまだ知られていない自己(unknown self)」の4つがあるとされています。このうち誰からもまだ知られていない自己が小さく、公開された自己が大きければ自己開示が進み、自分らしく他人とコミュニケーションがとれていると言えるわけです。
私のクリニックでスタッフのプロフィールを全員で共有するということは、「ジョハリの窓」で言えば、秘密の窓を開けるということです。つまり、隠している自分をお互いに知らせ合うことで、うまくコミュニケーションを取るきっかけにしてほしいと私は考えているのです。
このほか、食事会ばかりでなく全体ミーティングの場においても、私ばかり話したり、トップダウンの指示を出すのではなく、私はできるだけ傾聴に努めて、各スタッフが意見や考えを発言する機会をできるだけ多くつくることを心がけています。
なぜなら、私のクリニックは、トップである私からの指示をただただ守って動くという組織ではなく、スタッフ一人ひとりがクリニックの理念に沿って、目の前にある課題に対して自分で考えて出した答えで行動することができる組織にすることを目指しているからです。
現に徐々にではありますが実現してきているように感じます。そして、その行動を他のスタッフが受け止めて啓発され、さらにそれに呼応して行動するというような好循環が生まれるようになってくればしめたもの。この好循環が回るようになると、さらにお互いの信頼関係が強くなってくると私は日々感じています。
梅岡 比俊
医療法人梅華会 理事長