クリニック経営の成功に「リーダーの育成」が不可欠な理由

今回は、クリニックの円滑な経営に「リーダーの育成」が不可欠な理由を見ていきます。※近年、独立開業を目指す医師が増加しています。しかし競争は熾烈であり、医師としての腕だけでは勝ち残ることができません。本連載は、医療法人梅華会理事長で、兵庫県を中心に複数のクリニックを経営する梅岡比俊医師の『クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる』(中外医学社)から一部を抜粋・再編集し、クリニックの開業と安定的な運営のテクニックを紹介します。

リーダーを育成すれば、院長は経営と診療に専念できる

開業してみて感じることは院長の仕事が多岐にわたり、量も多いということです。その中には、採血など医療技術のスタッフへの教育であったり、スタッフ間のいざこざへの対処やスタッフからの要望への対応であったり、スタッフに関係することも少なくありません。

 

そこで、たとえ自分が診察中であっても、クリニック内のポジションごとに総合的に見て、助言や指導をするスタッフの取りまとめ役であるリーダーを決めることによってクリニックの運営が潤滑になると考えます。さらに、リーダーがしっかりしてくれば、今まで自ら行っていた現場を監督する権限を委譲し、自分は経営と診療に専念することが可能になります。

 

とはいえ、権限委譲は丸投げとは異なります。丸投げは、自分でやっていた仕事を「じゃ、後はよろしく。すべて自分でやってね」となんの擦り合わせもなくすべてを相手に託すこと、権限委譲は、自分の理念や考え方、その仕事のやり方を相手に充分理解してもらったうえで、自分がするのと同じように仕事をしてもらうことです。まず実際にその仕事をやってみせ、次に相手がするところを見守り、足りないところはフォローしてあげ、徐々に一人で行えるように育てることで権限委譲が行えるようになります。

 

院長である自分でする方がより正確で、時間もかからないのは当然です。そこで、スタッフに任せた仕事にもついつい手を出してしまいがちです。しかし、これからクリニックを発展させるためには、権限委譲は「緊急ではないけれど重要なこと」です。

 

開業当初は何でもかんでも自分で処理することでも回っていたクリニックも、患者さんが増え、スタッフが増え、それでは分院と‥‥と発展してくると、いくら院長の能力が高くても絶対に1人では回らなくなる時が来ます。それを見込んで、少しずつリーダーを育成して、いずれ権限委譲できる準備を行うことが重要だと思います。権限委譲はいきなりできるわけではないのですから、フォローしながら徐々に委譲しなければならないのです。

 

そのためには、まず、リーダーとなり得る人の選定が必要です。リーダーの選定に一番必要なことは何だと思いますか? 他より正確で優れた技術でしょうか? 私は一番大切なことは、院長やクリニックの理念をしっかりと理解し共有しているかどうかだと思っています。

 

リーダーは、常にクリニックの理念に基づいた行動がとれ、他を思いやれるマインドの持ち主であることが必要不可欠です。リーダーには徳と才が必要とよく言われますが、私は重要なのは徳だと思っています。

 

もちろん、両方兼ね備えているのが一番ですが、私は現場の仕事を熟知し必要なスキルをすべて備えている人物をリーダーにしようとは思っていません。チームメンバーの能力を有機的に機能させ、最大限に活用することができる人物をリーダーとしたいのです。なぜなら、たとえその人が能力が個人としてずば抜けていたとしても、独りよがりの行動をとるようであれば、良いリーダーとは言えないからです。それよりも、チーム全体がうまく機能するようにメンバーを導き、メンバーの能力を十二分に引き出す調整ができる人物こそ真のリーダーだと思うのです。

 

そして、リーダー候補の選定が済んだらそれで終わりではありません。リーダーとしての職務の定義づけを文章にしてリーダー候補に渡し、その内容に共感しているかどうかを確認する必要があります。私のクリニックでは、リーダーの職務をしっかりと理解し、その仕事にやりがいを持ってくれる人物であることが確認できたうえで、リーダーに就任させています。

リーダーの仕事は、マニュアル作成と院長の言葉の翻訳

また、忘れてならないのは、リーダーに対する支援です。リーダーに就任すれば、スタッフの時とは異なった、リーダーらしい発想、リーダーに相応しい視点で物事を見ることが求められます。また、院長の考えを理解し、部下であるスタッフに伝えていくという、いわば中間管理職的な立場に立つわけですから、院長とスタッフの間で板ばさみのような精神状態に苦しむことがあるかもしれません。

 

そこで、事前に院長は、リーダーの支援体制を準備する必要があるのです。リーダーの仕事をさりげなく支援することも大事ですが、合わせて、リーダーとコミュニケーションをよくとって、自分の考えを伝え続けることも重要です。

 

私がリーダーの役割と思っていることは、主に2つあります。1つは、仕組みづくりやマニュアルづくりをすることです。

 

さまざまあるクリニックの業務の1つを、とてもうまくこなすリーダーがいたとしても、彼女が個のプレイヤーでいるうちは、その能力は彼女の中に存在するのみで、彼女が居なければ業務が滞ることになり、クリニックの能力が高まっていることにはなりません。しかし、彼女がリーダーとしてその業務をマニュアル化し、他のスタッフに習得させる仕組みがつくられていれば、リーダーが不在の時も、あるいは、彼女が結婚・出産といった人生のイベントで休職や退職という事態になっても、クリニックの業務に支障は出ませんし、自然に次のリーダーが育っていくと思うのです。

 

リーダーのもう1つの仕事は、院長の言葉を翻訳することです。翻訳というのは、組織のトップである院長の想いを、切り口を変えて部下であるスタッフに伝えることです。私のクリニックで例えるとしたら、私が唱える「医療を通して日本の未来を明るくする」というクリニックのミッションはとても抽象的です。これは常日頃コミュニケーションする機会の多いリーダーにはイメージできても、末端で働くスタッフにとってはイメージしがたいものかもしれません。

 

そこで「医療を通して日本を明るくする」とは、「身近な地域の皆さんの病気を減らし、健康で明るい社会生活を送っていただけるようにすることだよ」とか、「日々健康で社会生活を送る人を支援することだよ」というように誰でもイメージしやすい言葉にリーダーが置き換えて部下のスタッフに伝えてほしいのです。そうすることで、クリニックの理念が徐々に末端まで浸透していくと私は思います。

 

なお、開業後1~2年で新卒スタッフがリーダーに育つことは望めません。そこで、リーダー候補のスタッフを中途採用することになると思うのですが、この場合、集団をコントロールするマネジメント経験の有無を考慮することがよいでしょう。これは、前職での実体験の有無というよりも、例えば学生時代のクラブ活動で部長やキャプテンをしていたとか、アルバイトの時にリーダーをしていたというような経験でも大丈夫だと思います。

 

 

梅岡 比俊
医療法人梅華会 理事長

 

医療法人梅華会 理事長
医師
開業医コミュニティ(M.A.F主宰)

兵庫県芦屋市出身。奈良県立医科大学を卒業後、勤務医を経て2008年に兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開設。その後耳鼻咽喉科クリニック分院や小児科クリニックを開設し2019年現在、合計8つのクリニックを経営。2016年に開業医がより良いクリニック運営を行うための学びの場としてM.A.F(医療活性化連盟)を発足する。

著者紹介

連載開院3年が勝負!クリニック経営を成功に導く「ロケットスタート」戦略

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

梅岡 比俊

中外医学社

さまざまなことが安定化、習慣化してくる開業3年前後の時期こそ進化のチャンス! 確かな経営マインドを身に着け、ロケットスタートで他院に差をつけるためのノウハウを『経営学を学んでいないドクターのための クリニック成…

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