今回は、クリニックの院長が頼りにできる、優秀なクラークの育成術を見ていきます。※近年、独立開業を目指す医師が増加しています。しかし競争は熾烈であり、医師としての腕だけでは勝ち残ることができません。本連載は、医療法人梅華会理事長で、兵庫県を中心に複数のクリニックを経営する梅岡比俊医師の『クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる』(中外医学社)から一部を抜粋・再編集し、クリニックの開業と安定的な運営のテクニックを紹介します。

「クラーク」の存在は、開業医にとって大きな力に

開業してしばらくすると、患者さんが徐々に増えて、うまく運営できているクリニックでは、いずれ待合室の混雑対策、患者さんの待ち時間対策が必要になってきます。そこで、私がお勧めするのはクラークの育成を早めに始めることです。

 

医師や看護師のサポートをしてくれるクラークは、入院施設のあるような大きな病院ではよく見られますが、クリニックで採用しているところは多くはありません。しかし、クラークは私たち開業医にとってもとても大きな力となってくれると私は感じています。

 

私のクリニックでのクラークの仕事は、患者さんを呼び出すこと、患者さんから主な症状を聞き出して電子カルテへ記載すること、処置や投薬に関する内容など算定に必要な電子カルテを作成すること・・・です。

 

患者さんにアンケートを取ってみると、どのクリニックでも、待ち時間が長いという不満、医師の信頼度・満足度の低下・・・という結果が得られると聞いたことがあります。私はクラークを育成することでこのどちらも解決できる可能性があると思っています。

 

まず、待ち時間対策として、通常、医師は診察の後カルテを記帳するすることになりますが、クラークのカルテへの記載を任せることができれば、医師は診察業務だけに専念できます。つまり、診察するスピードが1.5倍くらいアップできているとクラークを置いてから私は感じています。従来1時間当たり10人診ていた場合、15人は診察できる感じです。クラークを置くと人件費が1人分増えることになりますが、単純に考えれば、診察時間は3分の2に短縮できるわけですからスタッフの疲労度の軽減、残業代の加算等を考えれば、決して無駄な投資とは思いません。

 

次に、医師への信頼度・満足度に関しては、カルテへの記載がなくなることで、医師は患者さんと目と目を合わせて会話し、そこに集中できることになります。カルテが表示されている画面を見ながら、あるいは電子カルテへ入力しながら患者さんと話すことは、たとえ相手がお子さんであっても、ラポールの形成、人と人との信頼関係を築くうえで大きな妨げになると考えます。

 

また、医師が患者さんの目を見て会話すると治癒率が劇的に向上するとの報告もあります。私のクリニックでもクラークを採用したことによって、私は患者さんが診察室に入られた時には目を合わせてお迎えすることができ、退室される時もしっかり見送ることができます。私が患者として医療を受ける立場であったとしたら、最初から最後までデスクトップから目を離さない医師より、最初から最後まで自分と目を合わせて会話してくれる医師の方に信頼を寄せると思います。

 

医療はサービスです。一流のホテルや航空会社などサービスを売り物にしている業界であれば、お客さまと目と目を合わせて会話することは当然のこととして実践しています。医療も一つのサービスと考えるならば、必然的にクラークを採用することになるのではないでしょうか。

 

さらに、クラークがいると、診察室ばかりでなく、受付、検査、会計を含めた各ポジションを総合的に見渡して連携を図ってくれるので、お互いのポジションに有機的な繋がりができてきます。すると、自分のポジションでの渋滞を避けようとするからか、各ポジションのスタッフの業務習熟レベルが目覚ましく向上します。

 

例えれば、一つだけ欠けたジグソーパズルに、クラークというピースがすっぽりと入ったことで完成する・・・すべてのポジションにその業務を習熟した主体的に動けるスタッフが誕生するのです。つまり、業務を全体的に見渡せるクラークを置くことは、効率よく診療を行うという課題を解決することが大いに期待できるということです。

スタッフの力を信じて、地道にコツコツ教育

では、いったいどうやってクラークを育てていったらいいのでしょう。開業したクリニックの院長は、診察に慣れない経営だけも忙しいのに、どのようにクラークを教育していけばいいのだろうと思われるかもしれません。私もクラークという職種はクリニックの中でも最難関のポジションと考えています。ですから、スタッフの力を信じて地道にコツコツと教育してきました。

 

一般論で言いますと、できないと思っているうちは絶対にできないですし、他のクリニック(例えば私の法人)でできていることであれば、同じ人間がすることなのですから、必ずできます。私も開業医がクラークを育てて採用することは思いも及ばないことでしたが、私が札幌にある耳鼻咽喉科麻生病院で勉強させていただいたときのことを思い出せば、医療専門学校を出て半年の20歳の方が実際にクラークとして働いていました。そのことには私もびっくりしましたが、それは可能なこと、無理な話ではないことを実感し、自分の中にある思い込みが取り払われました。

 

私自身のことを振り返ってみても、できるという可能性を求め始めると、どうやったらできるか常にアンテナを張り巡らして自分に問い続けることになったので、そういったものに対する感性が敏感になって方法を模索しながらも実際に実現できました。私のクリニックでは随時見学を受け付けています。最難関であるクラークが働く姿を、育成のノウハウも含めてご覧になってはいかがでしょう。ご興味のある方は実際に見学されることで、はじめの一歩を踏み出す勇気を得ていただきたいと思います。

 

なお、実際にクラークというポジションを導入するのはクリニックの閑散期に行うことを申し添えます。耳鼻咽喉科で言えばスギ花粉症が発症する春先というように、繁忙期で人手の足りない時に、初めての導入する業務をうまく回すことは大変ですし、患者さんにご迷惑をお掛けすることになりかねません。そこで、閑散期で精神的に余裕の持てる時期に導入することをお勧めします。

キーワード一覧を記載したマニュアルを作成

そして、何より必要なのがマニュアルづくりです。クラークの大事な仕事の1つに患者さんとの会話の中で、病気ごとの重要なキーワードを電子カルテに入力することがあるのですが、医師としては当たり前のキーワードとなり得る症状が、クラークにキーワードとして捉えられるようになるには、時間を要します。

 

例えば、患者さんが風邪をひいた後、右耳が中耳炎になり耳だれがある場合、右OMA・耳漏(+)と記入したり、粘り気のある鼻水が出て鼻づまりがひどい場合、粘性・膨張(+)と記入する・・・といったキーワード一覧を記載したマニュアルを作成しておく必要があります。そのほか、クラークのマニュアルには、診療報酬算定の基準、連携業院への紹介状の作成要領なども記載され、実際にクラーク業務を行ううえで誤りの多かったものについては、再発を防ぐために、より注意を促すよう色を変えて表示することなどの改良を随時行っています。

 

このマニュアルを頼りにクラークは動き、それによって患者さん1人当たりの診療時間が短縮でき、患者さんにお待ちいただく時間も短くなるわけですから、マニュアルづくりが大きなカギとも言えます。クラークの育成と並行してマニュアルづくりも欠かせないこの時期の院長の業務です。

 

 

梅岡 比俊
医療法人梅華会 理事長

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

梅岡 比俊

中外医学社

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