意気揚々と開業した「医師」のプライドを打ち砕いた驚愕の現実

今回は、クリニックの院長に経営者意識が不可欠である理由を見ていきます。※近年、独立開業を目指す医師が増加しています。しかし競争は熾烈であり、医師としての腕だけでは勝ち残ることができません。本連載は、医療法人梅華会理事長で、兵庫県を中心に複数のクリニックを経営する梅岡比俊医師の『クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる』(中外医学社)から一部を抜粋・再編集し、クリニックの開業と安定的な運営のテクニックを紹介します。

医療界はブルーオーシャン…だがしかし?

開業しておおむね1年くらいすると、クリニックとしての体制は安定してくると思います。患者さんが受け付けをしてから診察を受け、必要な検査や処置を行って、必要なら薬の処方を受け会計を済ませる‥‥このような診療の流れもできあがってくると思います。院長としては、ひとまずヤレヤレというところでしょうか。

 

皆さんご存知のように医療界はブルーオーシャン、開業すればそこそこ患者さんは来てくださり、食うに困るということにはならないと思います。しかし、開業を決意したときに思い描いたご自分の人生と比べて今の生活はどうでしょう? 充分満足のいくものでしょうか? はたまた、一応の流れのでき上がった診療体制ですが、ご自分で思い描いていた診療に比べて充分満足のいくものでしょうか?

 

将来的にクリニックをより発展させるためには、良いにつけ悪いにつけ一応の流れのできてくるこの時期に、組織の体制やさまざまな取り組みを見直し、良いものは発展・継続し、悪いものは改善することが重要と考えます。

医師のプライドが打ち砕かれた「経営者セミナー」

私のことを申し上げれば、父は機械関係の自営の仕事、つまり経営者をしていました。物心ついたときからその父の背中を見て育った私は、経営者マインドについて少なからず影響を受けていたように思います。サラリーマンとして安定した生活を送るより、リスクを負いながらも自らの力で仕事をとってくる醍醐味を父から感じ取っていたと思います。

 

また、子どもの頃、父が「鶏口となるも牛後となるなかれ」という中国の故事を口にしていたことが非常に印象深く、大きな組織の後ろで安泰にしているより、小さな組織でもトップとして先陣を切って世の中に立ち向かっていく方がいいという意味だと、幼いながら理解していたと感じます。

 

さらに弟が先に起業していたこともあって、他の勤務医の方に比べれば、開業することは経営者としての視点を持たなければならないということだと意識できていたと思います。とはいえ、開業当初は開業医の方々とゴルフなどを楽しみ、お付き合いする中で、医者が行う経営という枠の中から抜け出せずにいたと思います。

 

ところが、開業してから1年ほど経ったころ、弟からある経営者の集まりに一緒に参加しないかという誘いがありました。それが、全国47都道府県にある中小企業経営者のコミュニティー・中小企業家同友会という会で経営者として一緒に学び合う会でした。開業して1年、おかげさまで患者さんにも来ていただき、経営に困るということはありませんでしたが、これでいいのか‥‥という思いも少しあったので、弟の話に興味を感じて中小起業家同友会のセミナーに参加したのです。

 

それまでは、医師としていくばくかの自信やプライドを持って毎日を送っていたのですが、そのセミナーに参加する異業種の経営者皆さんの経営者としての意識のレベルの高さに驚愕し、プライドが打ち砕かれた記憶があります。

 

そのセミナーはただ講演を聞いて終わりというものではなく、講演を聞いた後に、グループに分かれて一つのテーマについてグループ内で考えをシェアするバズセッションという時間が設けられています。少人数のグループで、あるテーマについて討論を行うのですから、必然的に私自身の考えも皆さんとシェアしなければならない状況に置かれたわけです。それまでにこういった場で自分の意見を発表し皆さんとシェアするという経験がなかった私は非常に戸惑ったのを覚えています。

 

また、その中では経営学的な用語や数字が並べ立てられました。当時は「BS(Balanse sheet:賃借対照表)」や「PL(Profit and Loss Statement:損益対照表)」といった企業の営業成績を表す財務諸表のことさえ、全然分かっていませんでした。こういった経営用語の知識すらないという現状、医師として一応の社会的地位を得てそれなりのプライドも持っていた私には大きな衝撃でした。自分自身の経営に対する知識力の欠如・不足を痛感したのです。

医師の世界には「人を評価する」という概念がない

そして、このセミナーの特徴として、バズセッションの後には必ず懇親会があります。その懇親会でさまざまな業種の経営者と交流できることで、さまざまなことを学びました。例えば、クリニック経営の特性は、必要経費の多くは人件費で占められているということや、他業種と比べて仕入れや家賃に関する支払いが少ないモデルであることです。

 

また、どの業界も医療業界以上に厳しい経営状況に直面しているということも感じました。医療業界はブルーオーシャンであるということは、他業種からは当たり前のように認識されていて、逆に言えば、経営という勉強をしなければならないと危機感を感じている医師は少ないのです。

 

この中小企業家同友会に関していえば、歯科医師が何人かいらっしゃるだけで、医科医師はまずいません。そこにいらっしゃる方々は、運送業者さん、税理士さん、社会保険労務士さん、弁護士さん、小売業者さん、農業や飲食店を営む方などで、皆さん厳しい現実に直面し、少しずつでも経営改善を行って事業を発展させようとガッツあふれている方ばかりでした。

 

そういう方々に囲まれた私は、自分の置かれたブルーオーシャンに浸っていないで、20年・30年後には組織をもっともっと発展させるために、他の業界の方々の経営術をTTP(徹底的にパクる)しようと思いました。そこで私が学び、TTPしたことに「人事評価制度」があります。当時の私は人事評価制度? それってなに? という程度でした。

 

それというのも、医師の世界ではそもそも人を評価するという概念さえもありません。ご存知のようにオーベン・ネーベンの世界から出ると、そこでは一人前の医師として一人で責任もって行動する環境に置かれます。お互いがお互いを評価をするということを考えたこともありませんでした。

 

就業規則についてもそうです。一応就業規則はあったのでしょうが、何時に出勤して何時に退勤するかなど気にしたことがなかったのです。知ろうとも思いませんでした。当直の翌日も普通に勤務をしていました。また、パートタイマーに有給休暇が発生することも開業して初めて知りました。

 

それらの労務関係の知識も経営するとなれば承知していなければなりません。自分自身がすべて事細かに知っている必要があるとは思いませんが、自分が知らないのであれば自分の代わりとなって処理してくれる知識を持ったチームメンバーを採用したり、外部にアドバイザーを探す必要があるわけです。そんな他業界の経営者には当たり前のことを私は中小企業家同友会のセミナーに参加して初めて知ったのです。

 

他業種の経営者の方々と触れ合うことは、人との出会いです。その出会いを通して私はたくさんの気づきをいただき、学びました。クリニックの中だけ、医師会の中だけで行動していると、居心地はいいけれど視野が狭くなりがちです。居心地は悪くても自分の世界から一歩踏み出して外から医療業界を見てみると、新たな気付き、展望が見えてきます。そして、この学びはどこまでやったら終わりというものではなく、一生続くものと考えています。

 

 

梅岡 比俊
医療法人梅華会 理事長

 

医療法人梅華会 理事長
医師
開業医コミュニティ(M.A.F主宰)

兵庫県芦屋市出身。奈良県立医科大学を卒業後、勤務医を経て2008年に兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開設。その後耳鼻咽喉科クリニック分院や小児科クリニックを開設し2019年現在、合計8つのクリニックを経営。2016年に開業医がより良いクリニック運営を行うための学びの場としてM.A.F(医療活性化連盟)を発足する。

著者紹介

連載開院3年が勝負!クリニック経営を成功に導く「ロケットスタート」戦略

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

クリニック開業ロケットスタート戦略 開業3年でその後の開業医人生が決まる

梅岡 比俊

中外医学社

さまざまなことが安定化、習慣化してくる開業3年前後の時期こそ進化のチャンス! 確かな経営マインドを身に着け、ロケットスタートで他院に差をつけるためのノウハウを『経営学を学んでいないドクターのための クリニック成…

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