中国・深圳の街並み

米中貿易戦争激化の懸念を背景に株安が連鎖するなど、両国の対立が日本を含む周辺国のみならず世界市場に与える影響は極めて大きくなっている。今後どのような事態が起こりうるのであろうか。本連載では、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、世界経済におけるプレゼンスを高めようとする中国の思惑を、その歴史と精神性を踏まえながら考察する。

中国経済の著しい成長の象徴的な都市「深圳」

中国経済の歩みは「フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議」による『中国経済崩壊のシナリオ』(実業之日本社)に詳しいので、少し長いが引用する。

 

「いまや、世界第2位の経済規模になったことは周知のとおりだが、(中略)の発展の端緒となったのは、鄧小平(とうしょうへい)の指導体制下の1978年12月の中国共産党第11中央委員会第3回全体会議で提示された「改革開放」政策だ。

 

この会議でリーダーシップを発揮した鄧小平は、中国指導部における存在感を高めることになる。「党と国家の重点工作を近代的化建設に移行する」と宣言し、中国は毛沢東路線から大転換を図ることになった。

 

1981年には、中国共産党中央軍事委員会主席であった華国鋒を権力闘争のうえ追い落とし、名実ともに鄧小平が実験を握ることになる。

 

1979年には、深圳(しんせん)・珠海(しゅかい)・汕頭(スワトウ)・厦門(アモイ)の4地区を経済特区として開放すると、外資が積極的に導入され、合弁企業もしくは外資単独企業が生産の中心となっていく。外資系企業を誘致するために、インフラの整備、税制面の優遇措置などの法的整備も行われ、経済特区は発展を加速させていった。

 

なかでも改革開放前は漁村だったが、香港に近いという理由で経済特区に指定された深圳は、いまやその人口が1000万人を超え、上海、北京と並ぶ大都市になり、中国ではもっとも所得が高い都市のひとつになった。その地では、中国最大のSNS「ウィーチャット(微信)」を運営するテンセント(騰訊)や、スマートフォンメーカーとして存在感を高めるファーウェイ(華為技術)、ZTE(中興通訊)など、中国を代表する企業も多く誕生した。中国のシリコンバレーの様相を呈しており、まさに中国経済の著しい成長の象徴的な都市になった。

 

鄧小平の有名な言葉のひとつに、「先富論」がある。「豊かになれる条件を持った地域、人々から豊かになればいい」という方針だが、経済特区に指定された深圳はまさしくそれを体現した都市といえる。

 

1988年の中国経済は前年から引き継いだ過熱傾向を克服できず、建国以来まれにみるインフレを経験した。全社会小売物価総指数は、第1四半期に前年同期比10%超の上昇となり、その後も第2四半期に同14.6%、第3四半期に同22.6%、第4四半期に同26.3%と加速度的に上昇、その年は同18.5%と大幅なインフレになった。

 

こうした激しいインフレは庶民の生活を脅かすレベルになった。経済への不満から、その元凶を役人と見た庶民たちの間には、腐敗役人の追放とともに共産党一党支配への反対、議会制民主主義と三権分立の要求、民主主義の強化を求める動きが出てくる。

中国の「社会主義市場経済」が本格化したきっかけ

こうした背景があって、1989年6月に天安門事件が起こった。多数の市民に死傷者を出しながら、この民主化運動を武力弾圧したあとも鄧小平は最高指導者として君臨するが、この事件を契機に表舞台から身を引いていく。

 

その鄧小平は1992年1月~2月にかけて、武漢(ウーハン)、深セン、珠海、上海などを視察し、「南巡講話」という重要な声明を発表し、「外資導入による経済建設を大胆に推進すること」を説いた。

 

そして1993年、自らの後継者に江沢民(こうたくみん)を指名する。

 

江沢民は国家主席に就任後、「南巡講話」に賛同し、共産党大会で採択。さまざまな条件を付けつつも、税制の優遇などをしながら「外資導入」「株式会社化」「私有財産の導入」を推進し、そこから中国の「社会主義市場経済」が本格化する。

 

2001年にはWTO(世界貿易機関)にも加盟。日本企業も人件費の安い中国を活用してきたように、中国は〝世界の工場〟として順調に成長する。そして2008年の北京オリンピックと前後して、公共事業の急増などもあり、中国の社会主義市場経済は急激に成長していった。しかしオリンピックが終わった翌月にリーマン・ショックが起こったことで、21世紀に入ってから10%を超えていた経済成長率は、2008年には6%まで落ち込み、失業率も4%を超えた。

 

中国政府は不況対策として、4兆元(約64兆円)にも及ぶ大規模公共事業計画を実施。中国人民銀行(中国の中央銀行)も積極的に金融緩和を行い、景気を刺激する。こうして市場に大量の資金が供給されたことを契機に、中国では空前の不動産バブルが起こる。マンションや別荘が売れに売れ、ショッピングモールなどの商業施設も急増した。

 

この流れは経済発展が進む沿岸部だけでなく、内陸部にも波及。地方にも豪華なマンションタウンや巨大モールがあちこちに建設され、なかには、「鬼城(グェイチョン)」と呼ばれるゴーストタウンが出現する異常事態になった。同時に、資金は株式市場にも流れ込み、中国の株式市場は急上昇することになった」

「中国版シリコンバレー型資金調達モデル」とは?

現状、中国のインターネット市場からは海外企業は実質的に締め出されており、国内企業は保護されている。このため競争が激しくならず、収益力が高まりやすい。

 

そのため、中国ベンチャー企業は、高バリュエーションが付与されやすい。弱い経済メカニズムだからこそ生き残れる高バリュエーションの中国企業に海外から資金が集まれば、結果的に中国の外貨調達に大きく貢献することになる。そこに中国の粉飾体質が合わされば、調達できる金額は飛躍的に増加する。鎖国による利益のかさ上げを糧とした中国版シリコンバレー型資金調達モデルといえる。

 

だが、国の保護下で1980年代に盛隆を極めた日本の内需型産業が、その後のグローバル競争のなかで苦戦を強いられたことは中国政府も熟知しているだろうが、「ネット鎖国」といわれている中国企業が、グローバル化の波に晒された際、生き残れるかは不透明だ。それでも何だかんだ言い訳をしながら、経済開国を先延ばしすることに違いない。

 

過去とは異なり、今後はアメリカが中国の経済開国の先延ばしに対して、どのようなスタンスで臨むのかが注目される。

FISCO 株・企業報 Vol.7  今、この株を買おう

FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう

株式会社フィスコ

実業之日本社

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