相手国を借金漬け⁉ 中国の戦略的「債務外交」が抱えるリスク

米中貿易戦争激化の懸念を背景に株安が連鎖するなど、両国の対立が日本を含む周辺国のみならず世界市場に与える影響は極めて大きくなっている。今後どのような事態が起こりうるのであろうか。本連載では、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、世界経済におけるプレゼンスを高めようとする中国の思惑を、その歴史と精神性を踏まえながら考察する。

平和的外交方針であった中国が変化した理由

「韜光養晦(とうこうようかい)」とは、1990年代の最高指導者であった鄧小平によって唱えられた「才能を隠して、内に力を蓄える」という中国の外交方針である。当時の中国は1989年の天安門事件の影響により、世界的に孤立していた。改革開放政策によって豊かさを目指すとともに、その過程で「才能を隠して、力を蓄える」ことを目指したとされる。

 

中国が急速な経済成長を遂げた2000年後半以降、当初は平和的な台頭を遂げ、その頃より経済規模で日本はもちろん、アメリカを上回る予想こそあったものの、国際的なルールに従う意向を示すなど、その行動が警戒されることは少なかったことは本書(『FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう』(実業之日本社))6ページでも言及したとおりだ。

 

国内問題である台湾問題についても解決の意図は打ち出していたものの、今の中国のように「一国二制度による台湾統一」やいざとなれば武力行使を匂わすようなことはなかった。

 

そのために周辺国が中国を警戒して、軍事力を特別に増強したわけでもなく、周辺国同士で同盟が強化されるようなこともなかった。

 

リーマンショックによって経済、軍事とも世界で圧倒的ナンバーワンであるアメリカの覇権に陰りが見えたことで、中国の行動は明らかにこれまでとは変化した。

 

中国が経済規模でアメリカを抜く時期が早まったという見方が出てきただけでなく、4兆元(約52兆円)にもおよぶ財政出動を行い、世界経済を救ったことは、中国にある種の自信と自負をもたらしたことは想像に難くない。中国の金満(札束)外交、九段線の策定による強硬な領土の主張などがこの頃から始まったのは偶然の一致ではないだろう。

 

自らの経済力を背景に、地政学的な目的を達成しようという動きもみられる。

 

日本との尖閣諸島をめぐる摩擦が高まった2010年には、日本に対してレアアースの輸出を禁止した。南シナ海での領有権争いでは、フィリピンのバナナの中国への輸出をストップさせた。中国民主化運動のシンボル的存在だった劉暁波(リウシャオポー)氏がノーベル平和賞に選ばれると、ノーベル賞を主催するノーベル財団があるノルウェーのサーモンの中国への輸出を制限するなど、地政学的な目的の達成と経済を結びつける「地経学的」な措置が散見されるようになった。

「国威発揚」は格差から目をそらさせるため?

しかし、中国経済に翳りが見え始めている。共産党支配の正当性である経済成長ができないとなれば、国威発揚を図って、国民の不満解消を狙うしかない。

 

中国では貧富の格差が非常に大きい。賃金が大きく上昇している間は格差が生じても、勝ち組へ移行できる期待もあって不満が抑制されるが、賃金が上がらなくなれば悲観論が広まり、一生負け組から抜け出せないという機運が高まる。

 

汚職退治に乗り出さなければ、打倒共産党という動きが鮮明化しかねない。汚職退治は権力闘争というよりも、共産党の政体を保つために必要な措置であるかもしれない。

 

また、「中国の夢」を掲げることによる国威発揚、愛国心の醸成も格差から目をそらさせる一つの政策と考えられる。

 

引くに引けない状況にある習近平は経済の不透明感から目をそらさせるため、台湾統一、日本との尖閣諸島、ベトナムおよびフィリピンとの南沙諸島、インドとの領土争いなどを引き起こすかもしれない。

 

アメリカは「日米安保が尖閣に適用される」と発言してこそいるが、小さな島まで面倒を見切れないというのが本音だろう。アメリカが「尖閣防衛は日本の責任において行うべき」と考えていることが明白になれば、そこに中国がつけ込む可能性は十分にある。外に不満をそらさなければならない場合はなおさらであろう。

一帯一路関連融資による「債務」が意味するもの

中国は安い労働力を生かした輸出主導の成長が徐々に難しくなり、消費へのシフトも遅れた結果、国内投資に依存した経済成長を続けてきた。しかし、経済成長率は低下の一途をたどっており、成長スタイルの転換が求められている。一帯一路やAIIBによる資本輸出型成長への転換の成否は、中国の今後を占ううえでも重要だ。国内で成長が期待できないならば、不満分子となる人的資本も国外へ輸出してしまおうという政策でもあるのだ。

 

2013年の習近平による表明以来、一帯一路の沿線国は、アジアからアフリカだけでなく、欧州、南米へも広がり、29カ国が参加している。沿線国は65カ国、44億人が関係するが、ほとんどが発展途上、低開発国である。さらに、ロシアのプーチン大統領が一帯一路と連結する形で提唱した北極海航路、北米航路が第三のルート(ヨーロッパ-ロシア-日本-中国)として含まれる(氷上シルクロード)。

 

[図表1]一帯一路のイメージ図

 

ただし、一帯一路関連融資による「債務」の意味するところは、融資を受ける各国に重要な決断を迫ることになる。

 

アジアでは2016年から2030年にかけて3~7%の成長を維持するとみられており、インフラ投資に26兆ドルが必要とされる。中国のこれまでの慣例のように、一帯一路がインフラ投資に偏り、それが債務国への融資になるならば、一帯一路は債務国の過剰債務リスクを増大させることになる。

 

特に8カ国(ジブチ、タジキスタン、ラオス、モルディブ、パキスタン、キルギス、モンゴル、モンテネグロ)が、一帯一路の融資に関してリスクが高い。

 

出所:Authors' calculations based on public reporting on BRI projects
[図表2]中国の「一帯一路」関連の貸付の国別影響度
出所:Authors' calculations based on public reporting on BRI projects

 

中国開発銀行と中国輸出入銀行は、融資条件を開示していないので、国別の対中債務の現在価値を知ることはできないが、融資は広汎に多様なかたちで行われている。AIIBの融資条件は公開されているが、一帯一路はまったく異なる。一帯一路に含まれる国のうち、10~15カ国は将来、一帯一路関連の融資により過剰債務を負うだろう。

 

2018年前半の段階において、アメリカは中国の「債務外交」が戦略的に行われていることを警戒している。

 

2018年の国防戦略でアメリカは、中国が地域的戦略的目的を達成する手段のひとつとして「略奪経済」、いわゆる「債務外交」を活用し、債務国への政治的影響力を得るために、強引に債務を活用していることを指摘している。

 

2018年3月には、ティラーソン米国務長官が「債務国を債務漬けにして主権を毀損し、長期的な自律的成長ができないようにする不透明な契約、略奪的な融資実行、腐敗取引を使って依存度を高めさせている」と警戒感を示した。

 

太平洋艦隊司令官スコット・スウィフト提督もまた、中国がある国への債務を増加させ、元々の交渉には含まれていなかったものを求めていると警告している。

「債務レバレッジ」を獲得するための3ステップ

中国は、債務レバレッジを獲得するために一貫した方法を用いており、それにより債務外交のサイクルの段階を特定できる。中国の債務外交は3ステップで行われる。これは欧米が植民地で用いてきた手法とも類似し、清朝時代に中国が欧米から受けた策略でもある。

 

 ステップ① 投資段階 

国際金融市場にアクセスしにくい経済的に弱い国々に訴求する。融資を受ける国の政治家は、融資の返済時に自分が職にないことを知りながら、不透明な融資契約にサインする。

 

 ステップ② 建設・運営段階 

中国へ圧倒的なリターンをもたらす建設プロジェクトだが、完成したものは質が悪い。債務国は債務償還が困難になっていく。また中国から資材、人材を輸出するため、現地雇用を生まず、開発に伴って環境を悪化させる。同時に大型プロジェクトに絡んで腐敗が進行し、国家主権を毀損する。中国投資プロジェクトに対する抗議も続出する。

 

 ステップ③ 債務回収段階 

債務国が債務を返済できなかったときは、中国は政府への影響力と戦略的資産と引き換えに債務免除を提案する。政治協定の締結または経済的権利の獲得により、中国と当該債務国の外交関係が長く続く。

 

米中にとっての戦略的重要性を考慮した対中債務国の債務脆弱性が高いのは、西方ではパキスタン、ジプチ、スリランカ、太平洋方面では太平洋の自由連合盟約諸国(ミクロネシア連邦、マーシャル諸島およびパラオ)だ。

 

※数字が大きいほど、債務レバレッジによって中国の戦略的利益に寄与する懸念が大きい  出所:Sam Parker and Gabrielle Chefitz."Debtbook Diplomacy"paper,Belfer Center for Science and International Affairs Harvard Kennedy School, May 2018
[図表3]中国の債務外交に対する各国の脆弱性
※数字が大きいほど、債務レバレッジによって中国の戦略的利益に寄与する懸念が大きい
出所:Sam Parker and Gabrielle Chefitz."Debtbook Diplomacy"paper,Belfer Center for Science and International
Affairs Harvard Kennedy School, May 2018

 

近年、中国はオーストラリアとの分断を狙って南太平洋にも債務外交の触手を伸ばしている。たとえば、スリランカのハンバントタ港は中国の融資で建設されたものの、資金繰りに窮して株式の70%を中国企業に99年間の譲渡を余儀なくされた。債務による植民地化ともいえる。

 

一帯一路に関連した中国の港湾プロジェクトへの投資は、中国の安全保障を念頭に置いたものだろう。中国が投資した15の港湾は、中国のシーレーンに沿っており、安全保障に重要であると考えられる。15のすべての開発契約において、関係企業、交渉過程、資金、開発計画の詳細が不透明である点も特筆すべき事項だ。

 

わかっている部分だけ記載すると、15の港湾のうち10件を中国企業が株式を保有またはリースを取得しており、プロジェクトにおける中国の役割が建設で終わらないことを示している。もっとも15の港湾のうち9件はリースを受けているが、必ずしも中国が運営権を得ているわけではない。カンボジアは商業的権利を与えただけ、他の国は中国からの戦略的要求を拒否、スリランカは99年の中国へのリースは認めたが、ハンバントタへの潜水艦の寄港を拒否している。

 

軍事目的でも、その収益性の低さが、中国の投資余力に徐々に影響を与える可能性がある。また、15の港湾を仮にすべて押さえても、アメリカの同盟国が航路に入っていれば、その湾口を最大限に活用できない。対立する国の近くは、そもそも容易に通過できない。アメリカに匹敵する海軍力を持ち、同盟国も増加させるならば、いったいいくらを要するのか考えてみてほしい。

 

中国はランド・パワーの国であって、一帯一路のうちの「一帯」では有利な条件を有するが、「一路」については厳しいと言わざるを得ない。シー・パワーであるアメリカと対抗しながらであればなおさらだ。

株式会社フィスコは、株式・為替など金融情報全般を扱う情報配信会社。ロイター、ブルームバーグ、クイックなどプロ向け端末や証券会社のほか、ヤフーファイナンスなど20以上の主要ポータルサイトに情報を提供する、投資支援サービスのプロフェッショナル集団。

写真はフィスコアナリストとして株式市場・個別銘柄や為替市場を担当する田代昌之氏。ビットコインなど仮想通貨についても造詣が深い。

著者紹介

連載中国の歴史・変遷から読み解く世界経済の行方~外交・経済戦略の裏にある真の思惑とは?

FISCO 株・企業報 Vol.7  今、この株を買おう

FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう

株式会社フィスコ

実業之日本社

2018年以降、米中貿易戦争が顕在化している。 アメリカは中国へ制裁関税を課し、これに対して中国も報復関税を発動。対立する両国の未来はどのようになるのか、アメリカと中国との狭間で、日本はどのような立ち位置をとるべ…

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