米中貿易戦争激化の懸念を背景に株安が連鎖するなど、両国の対立が日本を含む周辺国のみならず世界市場に与える影響は極めて大きくなっている。今後どのような事態が起こりうるのであろうか。本連載では、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 Vol.7 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、世界経済におけるプレゼンスを高めようとする中国の思惑を、その歴史と精神性を踏まえながら考察する。

武力で政権を奪取してきた中国の歴史的系譜とは

清の成立は1616年。当時は後金(こうきん)という国名であった。漢民族の国ではなく、ツングース系の女真族(満州族)がヌルハチによって統一されて、中国の東北部に勃興した国である。

 

1636年には二代目で清という国号を名乗っている。明が李自成の乱で滅び、その乱の鎮圧の過程で三代目の1644年に北京へと都を移し、1681年に中国全土の統一を完了した。

 

清朝の最盛期は1700年の半ば、清第6代皇帝の乾隆帝(けんりゅうてい)の時期にあたる。領土はモンゴル、ウイグル、チベットなども含めて最大規模まで拡大した。この時期に人口は爆発に増え、1741年に1.4億人、1762年に2億人、1790年には3億人に到達した。もちろん、当時、清は世界一の人口大国だった。

 

その後、産業革命を背景にした欧米列強との比較において、中国は経済的にも軍事的にも劣位になっていた。そして、1840年のアヘン戦争における敗北などを経て、開国への道を歩み始めることを余儀なくされた。経済的な弱者が開国すると、国内経済は壊滅的な打撃を受ける。その結果、民衆による反乱が起きた。

 

清朝が保有する銀は白蓮教の乱鎮圧が原因で18世紀末に急減し始め、19世紀半ばに対外的な流出も始まった。そして、アヘン戦争や太平天国の乱(1851年)でほぼゼロになった。

 

4代康煕帝から6代乾隆帝までの清朝の最盛期(1661年~1795年)の歳出は、ほぼ3000万両で安定していたが、アヘン戦争後の咸豊帝の時代には倍増し、日清戦争(1895年)、義和団の乱(1900年)後の賠償を受けて倍々で増加した。

 

その結果、19世紀までほぼ黒字であった清朝の財政は、日清戦争後には赤字へ転じ、清朝が滅亡する直前には3500万両(安定期の総支出額相当)の赤字に陥った。

 

清朝は辛亥革命により、中華民国に取って代わられた。1912年、孫文によって南京で中華民国の樹立が宣言された。1913年の国会議員選挙で国民党が圧勝したものの、袁世凱大総統による国民党の非合法化、袁世凱による帝政化、1916年の袁世凱の帝政廃止や死去などを経て、中国は軍閥割拠の時代に入った。

 

最終的には第二次世界大戦後、日本の支配が弱まったことで、一時的に手を握っていた中国国民党と共産党の争い(国共内戦)に突入することになった。

 

当初は優勢であった国民党は、農民の支持を失うなかで劣勢となり、1949年に中国共産党の毛沢東が中華人民共和国の樹立を宣言した。

 

現在の中国も歴代の王朝と同様、前政権が民衆の支持を失って弱体化するなか、武力で政権を奪取したことになる。

広い国土の統治に力を割かなければならない中国

中国にはその精神性にも特徴がある。中華思想(内向き思考)、中国古典の誤用、専制志向による弊害などが現れやすい。

 

習近平は平和的な台頭をかなぐり捨てて、金満(札束)外交、九段線の策定による強硬な領土の主張などを強めた。

 

オランダ・ハーグの仲裁裁判所は九段線に「法的根拠はない」と判断しているが、中国はスプラトリー諸島を含む南シナ海のほぼ全域(赤い破線で囲まれた部分)の領有権を主張している。
[図表]中国が主張する「九段線」
オランダ・ハーグの仲裁裁判所は九段線に「法的根拠はない」と判断しているが、中国はスプラトリー諸島を含む南シナ海のほぼ全域(赤い破線で囲まれた部分)の領有権を主張している。

 

その結果、周辺国は中国に対する警戒を強めて結束した。また、アメリカはトランプ大統領の誕生もあり強硬姿勢を強めている。日本ですら軍事費を増やす傾向にあり、事実上の空母保有も推進している。

 

特にインド、ベトナム、オーストラリアの対抗姿勢は顕著で、アジア太平洋地域で親中の指導者は選ばれなくなっている。金満(札束)外交は、借金漬け外交と評され、結果として自国のためにならなかったことが露わになったからだろう。

 

アメリカの歴史学者エドワード・ルトワック氏は、これを「逆説的理論」として、平和的でなく台頭して強くなったがゆえにかえって立場が弱くなったと評している。

 

現状でも、中国は周辺国に対する強硬姿勢を変えることができていない。もともとの国家的な姿勢である〝中華思想〟や国土の広さが、それを邪魔しているとの見方もある。

 

中華の天子が世界の中心であり、広い国土の統治に力を割かなければならない以上、外に対する注意が散漫になる。ましてや経済が下り坂にある現状においては、不満を外にそらす対外強硬策を捨てがたい。

中国の経済統計が「偽装」されてしまう理由

「孫氏」を中心とした中国古典の誤った使用については、エドワード・ルトワック氏が多くを述べている。

 

中国は、外国が自分たちと「共通のアイデンティティ」でモノを考え、「未解決の紛争は、故意に危機をあおることで解決できる」とし、「欺瞞による策略と奇襲攻撃への過剰なまでの信奉」を生み出したという。

 

中国古典の誤った使用に基づく中国の行動は、周辺国を結束させる。特にアメリカをはじめとする「西洋的な白と黒をはっきりさせる」戦略とは、モノの見方との相違は驚くほど大きい。それがアメリカによって敵意をもって解釈されれば、大きな衝突を引き起こすことになる。

 

歴史上、中国は専制的な支配が一般的で、毛沢東の文化大革命を反面教師とした集団指導体制こそ異例である。

 

また、中国の経済統計は偽装されている疑いが非常に強い。もともと、1949年以降の中国経済改革の司令塔はソ連大使館であり、統計算出方法はソ連から指導を受けている。中国もソ連と同様に中央集権的な統計組織を作っており、現在では中国国家統計局が各種統計を集中管理しているため、改竄ざんは容易にできる状況にある。

 

「GDP成長率の変動が少な過ぎる」「GDPの公表タイミングが早すぎる」「貿易統計とGDPの整合性がない」「GDPの多寡が出世につながってきた」

 

こうしたことを鑑みると、中国の経済統計に何らかの手を加えられている可能性は高いだろう。

 

正しい経済政策を導き出すための統計すらも国民の鼓舞に使われてしまうのは、専制主義、国家資本主義ならではの姿だ。誤った政策が正される装置は、専制的な支配体制では正しく機能しない。

FISCO 株・企業報 Vol.7  今、この株を買おう

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株式会社フィスコ

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